一問一答形式 転用可能です。
今年の高校生どころか、アマチュアでも1、2を争う評価をされる右腕・奥川恭伸。毎年、高校生でも150キロを超えるストレートを投げて、なおかつ切れの良い変化球を投げる高校生は現れるが、その中でも奥川の完成度は抜きん出ている。試合展開、打者の力量に応じて自在にピッチングスタイルを変えられる強みがある。
奥川の3年間の成長を見守ってきた林監督は「奥川の前にも140キロ後半を投げる投手は多くいましたが、奥川が何より凄いのは打者を見て観察できるということ。これは教えてできるものではない」と奥川の観察力の高さを評価する。リードする山瀬慎之助も「あらゆるところが優れている奥川ですけど、一番は観察力だと思います」と語る。
では奥川はこの夏の自身のピッチングについてどう総括したのか。プロで戦うであろう奥川に自身の課題を語ってもらった。
智辯和歌山戦は自分の意図したボールを多く投げられた唯一の試合
笑顔の奥川恭伸
この夏の甲子園では、41.1回を投げ、51奪三振、5失点。決勝戦まで防御率0.00と圧巻のピッチングを繰り広げた奥川。奥川といえば、自己評価が厳しい投手として有名だ。甲子園の大会前も、世界大会前も調子が上がらず、かなり不安気味に語っていたことを思い出す。それでも結果を残してしまう奥川の調整力の高さには驚かされる。
その中でも一番良かったと振り返るのが延長14回まで投げ切った智辯和歌山戦だった。ここからは奥川のピッチングの考えを一問一答形式で振り返っていきたい。
――いつも自己評価が厳しい奥川投手ですが、良いピッチングだといえるバロメータ(基準)は何でしょうか?
奥川 良いときは、ストレートの場合、ミットの音がきれいに「パチン、パチン」と鳴ります。変化球は打者が立って反応を見たとき、まっすぐが良いときは変化球も良いので、変化球をコントロールしやすい日は調子が良いと思います。
――以前、インタビューをさせていただいたとき、ボールに重みを感じるリリースができたときは好調な証拠だと伺いました。一番良かったと振り返る智辯和歌山戦では、その重みを感じるリリースはできたのでしょうか?
奥川 そうですね。あの試合は、甲子園全試合をトータルで振り返っても、そういう感覚が強かったと思います。
――そのようなリリースができているときは、自分の意図しやすいボールを投げられているのでしょうか?
奥川 ストレスなく投げられる感じですね。無理やり自分で抑えながらではなく、思い切り「パチン」と腕が振れるので、投げやすいです。
――そのような感覚は常に求めていますか?
奥川 その感覚がずっとあるのがベストですが、波みたいなのが必ずあるので、その波を小さくしたいと思っています。
――波を小さくするうえで、試合の中でも1イニング1イニングで修正していく感じでしょうか?
奥川 やることはやりますが、目に見える形で、変えたりというのはないかと思います。
――奥川投手のピッチングで印象的なのは、球数を少なく抑えている点だと思います。そこは意識していますか?
奥川 まず3球まで投げて、2ストライク0ボール、2ストライク1ボールにしたいといつも思っているので、それが球数を少なく抑えることにつながっているのかと思います。
――林監督と山瀬君は奥川投手について、打者を観察しながら勝負するのが上手いと評しています。打者を観察する習慣づけはいつから行っていましたか?
奥川 自分の中では特に意識していませんね。なんとなくできた感じです。
――となると、この打者はこのコースに投げれば抑えられるな、打たれるな、というのが分かる感じでしょうか?
奥川 分かる日もあります。甲子園では分かる日もあれば、分からない日もありました。全部分かっていれば抑えることができたと思いますので。
[page_break:この先、やっていけるのかという不安と、思い知らされた履正社との決勝戦]この先、やっていけるのかという不安と、思い知らされた履正社との決勝戦
必笑を掲げる奥川恭伸(星稜)
――5失点を喫した履正社戦は全く分からなかった感じでしょうか?
奥川 全然分からなかったですし、苦しかったですね。 だから力のなさを実感できた試合で、あのまま優勝するよりも新たな課題を与えてもらった試合だったと思います。
――打者を抑える感覚が分からないというのは、調子によるものなのか、打者の力量や雰囲気なのかどちらですか?
奥川 両方じゃないですか。ボールがいかない感じがありました。
――ワールドカップのカナダ戦では7回で18奪三振。18奪三振のうち14奪三振が縦のスライダーでした。変化球で勝負できるとみていたのでしょうか?
奥川 この試合は変化球をコントロールできていれば、大丈夫かなと思っていました。
――奥川投手のピッチングを見ていると、その試合ごとに軸となる変化球がだいぶ変わる印象があります。カナダ戦では縦のスライダー、智辯和歌山戦ではチェンジアップやフォークも使っていましたが、投げていて変わるのでしょうか?
奥川 そうですね、その日によって変わります。カナダ戦はスライダーが一番投げやすかったので、スライダーが生きるかなと思って投げていました。
――ところで、フォークの割合が少ないですが、フォークが良い日はありますか?
奥川 ほとんどなく、ごくまれに良い日があります。
――なるほど。智辯和歌山戦で黒川史陽選手に高速フォークで奪った三振は、奥川投手の中では良いフォークでしたか?
奥川 投げているときはそんな感覚はありませんでしたが、ビデオで見たときに凄い球だったんだと思いました。でも、なぜあんな良いフォークを投げられたのか自分では分からないです。僕の中で軸となるのはスライダーなんです。
――そのスライダーを投げるコツを教えていただければと思います。
奥川 スライダーは横に切れる軌道を描くと思いますし、その軌道で投げたいと思うのですが、それは難しいと思います。僕の場合、離すところからそのまま落とすイメージで投げています。
――甲子園、世界大会のピッチングを振り返っていただきましたが、次のステージではコンディションを整えて試合に臨むということが課題でしょうか?
奥川 そうですね。高い評価をいただいていることを耳にしていますが、 全然そんなことないですね。まだ1年間戦い抜けるような体力を持っているとは思っていないので、まずは体力づくりから始めなければと思います。僕の中では不安だらけで、決勝戦ではこの先、やっていけるのかなと思い知らされました。
プロ野球解説者も、奥川の完成度の高さを評価し、1年目から勝てるという評価も多い。ただ奥川は冷静に自分を客観視している。それこそが奥川の強みであり、常に高いレベルを求めてきたからこそ、奥川の最低限のレベルは、人より一歩先に到達しているのではないか。奥川自身も良いといった智辯和歌山戦の投球は、テレビで見ていたU-18代表選手の言葉を借りれば、高校生のレベルを超えている。この姿勢を貫く限り、プロの世界でも超越したピッチングができるのではないか。高いレベルを求めたマイナス思考が超一流投手・奥川恭伸を生んだのだ。
(取材=河嶋 宗一)