最速151キロサイド・伊勢大夢(明治大)が最終学年に覚醒した意識の変化
森下暢仁と共にプロ志望届けを提出した、明治大学の速球派右腕・伊勢大夢。サイドハンドに近いスリークウォーターから150キロを越える速球を投げ込み、先発やリリーフとして東京六大学リーグでその名を鳴らした。
ドラフト会議を直前に控える伊勢が、大学4年間をかけて掴んだ飛躍のきっかけは一体何なのか。高校時代から遡り、その成長を辿った。
明治大入学後、体つくりから着手
高校時代の伊勢大夢(明治大学)
善波達也監督のこだわりから明治大学は毎年「大安」にプロ志望届を提出しており、伊勢もまた9月14日の大安にプロ志望届を提出したことを明かした。
「高校の時は、自分がプロ志望届を出すなんて考えてもなかったので、そういう立場に自分がこれたことに嬉しさを感じましたね」
高校時代から、力のこもったストレートを投げ込んで全国大会の舞台を経験してきた伊勢。プロ野球の世界への憧れも全く無かった訳ではないが、明治神宮大会や選抜甲子園でハイレベルな投手と対戦し、力不足を実感したことを振り返る。
「行けるなら行きたいなという思いありました。ですが甲子園出てるピッチャー、例えば仙台育英の佐藤世那や東海大相模の小笠原慎之介など、やっぱりレベルが違いすぎたので高校からプロは正直無理だなと思ってました」
そうした中で、声をかけてもらった明治大学へと進学を決めた伊勢。大学野球からプロ入りを目指す上で、まず必要性を感じたのが体作りの重要性だった。
周りの先輩を見ると、どの選手も身体の芯が強くリーグ戦を戦い抜くための土台がしっかりと作られていた。自身の線の細さに危機感を感じた伊勢は、身体作りから着手した。
「自分は森下のようなバネも無いので、自分がどうやったら生きていけるかを考えました。その中でまずは土台作りをしっかりして、体を楽に使ってどれだけ投げても球速を落とさないようなピッチングを目指そうと思うようになりました」
トレーニングのメニューは、すべてトレーナーが管理してくれたこともプラスに働いた。高校時代は、選手の自主性に任せる形で自身の考えでトレーニングを行うことも多かったが、ランニングメニューやトレーニングのメニューを明確な理論に基づいて作成してくれたことで、より効率的に身体作りを進めることが出来た。
「チームでもランニングは多く行っていて、冬場は長い距離を走ることも多かったですね。体力作りを目的としたインターバル走や、外周を走るメニューもありました。
また個人でも体のキレを出すための短距離のダッシュを行ったり、ランニングメニューもけっこうやりましね」
横回転であることを前向きに捉えだす
インタビューを受ける伊勢大夢(明治大学)
また投球フォームにおいても、自身の考え方を変える大きな出会いがあった。
伊勢は元々、自身のフォームが横回転であることにデメリットを感じていた。確かに横回転は、身体が少し開いたり上体が突っ込むだけで腕がついてこなくなり、ボールが抜けたりシュート回転してしまうなど、デメリットも多くある。
だが今春に投手コーチに就任した西嶋一記コーチの助言により、横回転であることも前向きに捉えることができるようになったと伊勢は語るのだ。
「西島さんはアメリカのマイナーリーグも経験されていて、そこでの経験から『シュートするのは構わない、それを武器にすればいい』とアドバイスをいただきました。高校時代はシュート回転は格好良くないなと思っていましたが、それを聞いた時にこういう生き方もあるんだなと思って、そこから自信もって横回転と言えるようになりましたね」
3年の秋には不調に陥り、3勝を挙げた3年春のリーグ戦とは一転して1試合の登板のみに止まった伊勢。だが自身の投球に自信を持てるようになったことで、4年の春にはリリーフとして5試合14イニングに登板し、イニング数に近い13個の三振を奪など復活を印象付けた。
計画的な身体作りにアメリカ仕込みの投球論を叩き込まれ、東京六大学でも屈指の好投手となり、ドラフトでも上位候補と目されるまでに成長した伊勢。
現在も、先発投手の一角として秋季リーグ戦で奮闘を見せているが、プロの世界ではリリーフとして活躍をしていきたいと希望を明かす。
「大学1、2年の頃はリリーフとしてよく投げていたので、そこでリリーフの方が自分にはしっくりくる感じがありました。正直、先発も格好いいと思いますし、登板から間隔も開くので自分のコンディションを持って行きやすいのかなとも思いますが、試合終盤の大事な場面を任される緊張感や点差が詰まってる中で投げる重圧を感じることが出来るのはリリーフだと思います」
ドラフト会議も目前に迫っているが、この秋はラストシーズンであり、リーグ戦制覇と全国優勝を狙った大学4冠も懸かっている。伊勢は人生の節目であり、岐路であるこの秋の戦いへ思いを口にした。
「自分としてはプロにも行きたい気持ちもありますし、そこに行くためには残り試合で自分の持ち味をしっかりアピールしなければなりません。そしてアピールをする中で、チームを勝たせることは難しいと思いますが、チームの代表として投げる以上はとにかくチームを勝たせなくてはいけません。自分の持ち味も出していき、その中でチームとしては優勝して4冠を達成したいなと思います」
(記事=栗崎 祐太朗)