「奥川の持ち味を引き出すことに関しては誰にも負けない」 奥川快投の裏には必ず山瀬慎之助(星稜)がいる
第29回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ7日目はスーパーラウンドに突入。侍ジャパンU-18代表はカナダ代表に5対1で破り、スーパーラウンドの対戦成績を2勝1敗とした。今回は18奪三振の奥川恭伸(星稜)の女房役・山瀬慎之助にインタビュー。小学校から奥川とバッテリーを組む山瀬の存在抜きで、奥川の快投は決して語れない。
山瀬慎之助(星稜)
またも奥川は伝説を残した。カナダ戦の投球は、延長14回23奪三振を記録した智辯和歌山戦を思い出させるようなピッチングだった。智辯和歌山戦と比べると配球はわかりやすく、140キロ後半と120キロ後半の縦スライダーのみだった。その理由について山瀬はこう語る。
「奥川と一緒に映像を見て、緩急が弱点だと思いました。その中で縦のスライダーを使ってみると、有効的だと思い、もっと使おうと思いました。奥川はそれをわかっていた感じでしたね」
浮き上がるように見えて、そこから一気に落ちていく軌道を描く縦スライダーは、初見となったカナダ打線は全く太刀打ちができない。ボールだと思っても、外角ぎりぎりにコントロールできる奥川の精度の高さ。スライダーに目が慣れたところで、回転数の高い140キロ後半のストレートで空振りを奪う。直球、縦スライダーのコンビネーションが抜群に良かった。
奥川はチェンジアップ、フォーク、横のスライダー、カーブも投げるが、この試合はそれを使わず、縦スライダーが有効だと山瀬は考えた。相手、状態によって何の球種を軸にするのか、常に考えている。
「それは常に考えていますし、奥川も今日は何が勝負できるか分かっている感じです。これができるのは、長年組んでいるからだと思います」
まさに阿吽の呼吸。ただ、攻めの引き出しが増えたのは高校に入ってからだ。全国優勝した宇ノ気中時代はそれを考えずに抑えることができた。
「中学では、直球も変化球も投げれば抑えられる感じでした。ただ高校では違う。日によって何で勝負すればいいのか、考える必要が出てきました」
レベルが上がった高校野球に対応するために、2人は協力しあいながら、組み立てを工夫してきたのだ。そういう積み重ねがあったからこそ高校生では一歩先をいくコンビネーションを成り立たせてきた。
そして組み立てだけではなく、山瀬の泥臭い努力があったことも忘れてはならない。奥川の変化球の精度は尋常ではなく、まず捕球ができなければピッチングは成り立たない。最初は捕球に苦労した山瀬はマシンで落ちる軌道にセットして、捕球とストッピングの練習を繰り返してきた。
奥川の快投の裏には必ず山瀬の存在がいる。山瀬は自信をもってこう言い切った。
「奥川の持ち味を引き出すことに関しては誰にも負けません」
それは誰よりも長く組んできた経験と影の努力があったからこそ、言える言葉だろう。
(記事=河嶋 宗一)