ジャイアンツカップ優勝投手として一躍話題!島野愛友利が女子高校野球の門を叩いた
昨年の中学野球界で鮮烈な印象を残した投手がいる。大淀ボーイズのエースとしてジャイアンツカップ優勝に導いた島野愛友利だ。男子選手との競争の中でエースの座を勝ち取り、胴上げ投手になったことで世間から大きな注目を集めた。
高校生になった島野は神戸弘陵学園高校女子硬式野球部の門を叩いた。初めて女子だけのチームでプレーすることになった島野はどのようなスタートを切ったのだろうか。
中学3年生の頃に最速123キロ
ガッツポーズをする島野愛友利
2人の兄が野球をしていた影響で小学2年生から2人を追うように野球を始めた島野。投手を本格的に始めたのは小学4年生の時だという。中学では「レベルの高いところでやると自分の技術もアップすると思った」と兄も所属していた大淀ボーイズに入団した。
当時の指導者からは「全身を使って投げろ」と言われることが多かったという。自主練習ではシャドーピッチングを行って全身を使って投げるフォームを体に染み込ませてきた。その甲斐もあって入団時は98㎞だった球速が3年生の頃には123㎞まで伸ばすことができた。女子プロ野球でも120㎞/hを超えれば速球派の部類に入るが、中学生の段階でこれだけの球速を叩き出したのは特筆すべき才能と言えるだろう。
それでも球速が伸びても簡単にはエースになれないのが強豪ボーイズの定めである。貪欲にレギュラーの座を目指していた島野は「とにかく試合で結果を出すこと。試合が終わってみれば0点に抑えていたとなれるように結果を意識していました」と登板した試合で懸命にアピールを重ねた。持ち味である打たせて取るピッチングを磨いて、3年生の春には初めてエースナンバーを勝ち取った。
「凄く嬉しい気持ちと期待に応えられるかなという不安がありました」とエースになった時の心境を振り返る島野。不安な気持ちを持ちながらもエースとしてチームを牽引し、ジャイアンツカップではチームの躍進に大きく貢献した。この時の思い出は強く印象に残っているという。
「ジャイアンツカップは5日間、ビッシリ試合があったのですが、チームとして楽しかったです。勝ち上がっている途中はいけるんじゃないかという自信がありましたが、いざ勝ってみると、実感が湧いていなかったですね」
そして決勝では最終回に登板。決勝は東京ドームで行われるが、やはり独特の雰囲気を感じていたようだ。
「その時は広いなとか照明が明るいなとか思っていたんですけど、振り返ってみると、凄い舞台に立たせてもらったんだと思います」
全国大会の決勝という大舞台にも動じることなく、自分の力を出し切った島野。見事に無失点に抑えて胴上げ投手となったが、その瞬間は当然のこと、今でもその実感はないという。
「実感は全くなかったですね。未だに実感が湧かないというのが本当なところ。いつまでも信じられないという気持ちです」
男子との競争に勝ってエースとなり、ジャイアンツカップ優勝という中学硬式野球で最高峰のタイトルを獲得した。それ以来、注目度が高まり、マスコミへの露出度が増えたが、そのことについても「感謝の気持ちが大きいですね」と前向きに捉えていた。
高校ではどのような進路を選ぶのかに注目が集まったが、「高校からは別々になるという道があったので」と女子野球部のある高校を選択。男子に交じって白球を追うという考えはなかったようだ。そんな中で進学先に決めたのが選抜で連覇を果たすなど急速に力を付けてきている神戸弘陵だ。
「神戸弘陵を選んだのは練習風景が好みだったのが、一番の理由です。声が出ていて、監督さんも厳しい中で練習している姿がすごく好きでした。吸収することも多くて、充実した練習ができています。慣れない部分もありますけど、楽しいです」
高校には自宅から通うことも不可能ではなかったが、「確実に寮生活の方が成長できると思っていたので」と寮に入り、新たな生活をスタートさせている。これまでと違って、初めて女子だけの環境にプレーすることになった。本人の中でも男子とプレーしていた中学時代までとは様々な違いを感じているようだ。
「何が違うというのはわからないですけど、全然違います。それぞれ違う良さはいっぱいあって、どっちも経験できるのは嬉しいです」
[page_break:世界を見てみたいのが一番の目標]世界を見てみたいのが一番の目標
内野守備をする島野愛友利
プレー環境だけでなく、島野の選手としての立ち位置も高校になって変化があった。中学時代は投手がメインだったが、高校に入ってからは野手としての活躍にも期待されている。取材に訪れた日はブルペンに入ることはなく、ノックでは三塁手のポジションについていた。
石原康司監督は島野をレギュラーとして使う可能性を示唆しているが、全国屈指の強豪校だけあって、レギュラーに定着するのは簡単ではない。それは島野自身も十分に認識している。
「先輩たちはレベルも意識も凄く高いです。野手もピッチャーでも上には上がいて、競争があります。チームにとって何が必要かを考えて、そこを埋めようと努力していきたいです」と語る島野は、これまでの野球人生を「不思議なことの繰り返し」と話す。中学時代にジャイアンツカップで優勝したことも本人にとっては想像もしていないことだったという。
「チームの中で試合に出るのが目標だったので、ジャイアンツカップもどうやったら出られるのかなというくらいでした。それくらい不思議なことが起きました。これからも思ってもいないことが起きたりするんじゃないかというワクワク感があります。自分がすることですけど、気づけばそうなっているんじゃないかなと思います」
高校ではどんな活躍を見せてくれるのだろうか。「もう一度、有名になれるように何かを自分の中で極めていきたいです」と自身の高校野球生活を思い描いている。現在はユーティリティープレーヤーとして活躍しているが、投手としての期待値ももちろん高い。高校のレベルの高さを実感したことで新たな課題も見つかったようだ。
「自分の課題とこれからどうしていくかというのが明確になったので良かったです。今の課題はコントロールをつけることですね。速さを求めたくないんですけど、記録を残すとしたら130㎞/hを目指したいです」
現在、女子野球界では尚美学園大の山田優理が昨年に129㎞/hを出したのが最高記録となっている。現時点では制球力の向上に力を入れているが、順調に成長を続けていけば130㎞/h超えも見られるかもしれない。
将来については「世界を見てみたいのが一番の目標です」と話す島野。日本代表としてワールドカップなどで活躍するのが将来の目標だ。「もっと力を付けていけば、末恐ろしい選手になるという素材」と石原監督も島野の潜在能力には太鼓判を押しており、近い将来には日の丸を付けてプレーする島野の姿を見ることができるかもしれない。
(記事=馬場 遼)