Interview

3Dから4Dテクノロジーへ。進化を遂げたミズノプロ 寺下正記次長

2019.08.27

 プロ野球をはじめ、高校野球など多くの年代層から人気のミズノプロ。2019年に30周年を迎え、1つの節目となったことを記念し、特別企画でミズノプロに携わったグラブ企画の担当者にインタビューし、当時の話やその時の思いについて語っていただいた。

 今回は、ミズノプロの久保田憲史執行役員の後を受け継いだ寺下正記次長にお話を伺った。

~ミズノプロ30周年・グローバルエリート10周年記念特集~
第1弾…3Dテクノロジーの先駆けとなったミズノプロ グラブが誕生するまで 久保田憲史執行役員
第2弾…3Dから4Dテクノロジーへ。進化を遂げたミズノプロ 寺下正記次長
第3弾…「自分の手のようにグラブを動かしたい」イチローのニーズは全プレイヤーのニーズ 柳館宗春さん
第4弾…進化のカギは「旧シリーズを超えろ」。スピードドライブテクノロジー開発秘話 石塚裕昭さん
第5弾…野球界の進化に比例してミズノプロも進化を続ける 須藤竜史さん
第6弾…ミズノプロに並ぶ、2大ブランドとなる宿命を背負うグローバルエリート

プレッシャーとの戦い続ける日々

3Dから4Dテクノロジーへ。進化を遂げたミズノプロ 寺下正記次長 | 高校野球ドットコム
当時の様子を振り返る寺下正記次長

 寺下次長がミズノプロに携わるようになったのは1995年。1991年に入社して3年間は技術職として商品開発の業務を経験し、94年から野球用具等の企画に異動。そして95年からグラブの企画も担当になる背景がある。

 元々理系出身の寺下次長は、データなど数字の面で強みを生かそうと企画の業務に取り組み始めた。その当時のミズノプロの事情を伺うと、「『初代のD-UPゾーンが10年経つくらいで新製品を出そう』という社内では目標が立つ中で、新たなミズノプロはどうしようか」というところからのスタートだった。

 当時、ミズノプロに携わることについて寺下次長に振り返ってもらうと、「プレッシャーしかなかったです。元々ゴルフで使われていたミズノプロというブランドを野球でも展開する方針から、1989年にミズノプロができた。そこから10年経って変わらなかったものを変える。そのことへのプレッシャーが強かったですね」

 そうしたプレッシャーを感じながらも、新たに編み出したのが前回のインタビューでも登場した3Dテクノロジーなのだ。

3Dから4Dテクノロジーへ。進化を遂げたミズノプロ 寺下正記次長 | 高校野球ドットコム
インタビュー中の寺下正記次長

 「究極の理想は素手で捕ることですが、実際にボールを掴むのはグラブ。では『一番捕りやすいグラブは何か』と考えた時に、プロ野球選手がゲームで使っているグラブが一番良いに決まっていると。それをミズノプロに忠実に再現するために、グラブ立体感を測定するためにポイントをマーキングして指先や根本などを重点的に調べました」

 こうして2方向から撮影することで奥行きを調べて立体感、つまり3Dをグラブに表現することができた。この時のことを寺下次長に聞くと、出てきた答えは意外なものだった。

 「世の中に対してあまり苦労はなかったですが、私が左利きだったことで周りからは『グラブ企画ができるのか』とか『内野手用がわかるのか』と。そういったイメージ払しょくが大変でした」

 社内からの厳しい視線を浴びながらも“初代のD-UPゾーンを変える”という信念だけは曲げずに取り組み続けた寺下次長。その分、店頭に並んだことは達成感を覚え、モチベーションに変わった。

[page_break:野球界の守備を支える象徴であってほしい]

野球界の守備を支える象徴であってほしい

3Dから4Dテクノロジーへ。進化を遂げたミズノプロ 寺下正記次長 | 高校野球ドットコム
寺下正記次長

 こうした達成感を感じながら、寺下次長は新たなグラブ企画をスタートさせた。それが4Dテクノロジーとなる。

 「4Dは『指の動きをグラブに無駄なく伝える』ということで、ある意味、後継ミズノプログラブの現状になっていると言っても過言ではありません」と寺下次長は語り、3D以上に思い入れの深いグラブであることも同時に話した。

 ではどうして思い入れがあるのか。当時苦労したことを聞くと、その答えが見えてきた。
 「プロ選手向けグラブは、一人のクラフトマンがグラブ製造工程の最初から最後まで対応します、選手のプレーを想定しながら。そういったグラブを一般市場向けに提供できないか?当時、自動車業界や家電業界では、1人で最初から最後まで作る『セル生産』というのが脚光を浴びていました。これをミズノプロでもやろうとなったときに、国内だと費用や適量生産の面が難しい。でも中国にある自社工場ならば可能ではないかと開発や生産等関係者と議論を重ね取り組むことにしました」

 しかしそう簡単にはいかない。「野球やグラブに対する知識が深くない中国人にミズノプロに足る品質・こだわりを指導する技術指導、人材育成には時間も要し苦労しました。そこが一番記憶に残っています」

3Dから4Dテクノロジーへ。進化を遂げたミズノプロ 寺下正記次長 | 高校野球ドットコム
ミズノプロの今後のメッセージを語った寺下正記次長

 社内からの理解、そしてミズノプロを作るということの心構えを教えることに奮闘した寺下次長。120名ほどいた工員の中からミズノプロ班5名を選出、社内での会議に向けて動画作成など様々な準備、中国の自社工場へミズノプロを作る精神を教えるなどの努力を重ね、4Dが完成した。

 現在はグラブ企画から離れた寺下次長。今年でミズノプロが30周年という節目の年を迎え、改めてミズノプロとは何なのか。寺下次長に聞いてみると、「当時の私が感じていた以上に、後ろの代に受け継ぐほどハードルは上がっていると思います。また、周りから求められることも多くプレッシャーがある中、時代に合ったNO.1のミズノプロを出し続けていると思います。
 野球を始める人や続ける人、そして上手くなる人のためにもミズノプロが野球界の守備を支えている象徴であり続けて欲しいです。」と話してくれた。

 また「他社に負けてはいけないですし、選手にとって最高であり続けなければならない。そして100年の歴史を背負ったモノですね」とトップブランドであり、歴史の集約であることを語った寺下次長。

 ミズノプロは時代が変わっても、その時のNO.1の存在でなければならない。寺下次長とのインタビューを通じて再確認することができた。

(記事=田中 裕毅

~ミズノプロ30周年・グローバルエリート10周年記念特集~
第1弾…3Dテクノロジーの先駆けとなったミズノプロ グラブが誕生するまで 久保田憲史執行役員
第2弾…3Dから4Dテクノロジーへ。進化を遂げたミズノプロ 寺下正記次長
第3弾…「自分の手のようにグラブを動かしたい」イチローのニーズは全プレイヤーのニーズ 柳館宗春さん
第4弾…進化のカギは「旧シリーズを超えろ」。スピードドライブテクノロジー開発秘話 石塚裕昭さん
第5弾…野球界の進化に比例してミズノプロも進化を続ける 須藤竜史さん
第6弾…ミズノプロに並ぶ、2大ブランドとなる宿命を背負うグローバルエリート

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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