Interview

研究を重ねてどり着いた回転数の高いストレートと決め球・チェンジアップ 田中誠也(立教大)【後編】

2019.06.28

 大学を代表する技巧派左腕である立教大田中誠也。リーグ通算13勝、207奪三振。ストレートの球速は140キロ前後。田中より速い投手は東京六大学野球に多くいる。ではなぜ大学1年からリーグ戦登板を経験し、活躍を続けることができるのか。後編では立教大進学後の話に迫っていく。田中の回転数が高いストレートを投げる秘密や決め球のチェンジアップを投げる秘密について語ってもらったが、こちらはぜひ動画を見ながら、インタビューを読んでほしい。さらに理解が深まるはずだ。

 コントロールで生きる!自身のスタイルを確立させた大阪桐蔭時代 田中誠也(立教大)【前編】

ベンチワークを変えた主将・監督の叱責

研究を重ねてどり着いた回転数の高いストレートと決め球・チェンジアップ  田中誠也(立教大)【後編】 | 高校野球ドットコム
リーグ戦に登板する田中誠也

 立教大に入学すると、レベルの高さを目の当たりにする。
「これまでプロ入りしている選手も多くいますし、1年生のときは投げるタイミングがないかなと思っていました。それでもベンチ入りは目指そうと思っていました」

 それでも1年春からリーグ戦で登板する機会に恵まれ、1年秋も5試合に登板。防御率1.04の好成績を残したが、田中は手応えを感じていない。

 「あの時は今ほど考える余裕を持ってプレーはできていなかったですね。2年生になってから先発を任されるようになりましたが、このときは打たれても、監督と打たれた課題を話しながら、次の試合に向かう余裕がありました。あのときは結果も、実績もない立場でしたので、目の前の打者を抑えることに必死だった記憶があります」

 そういう状況を打破するために、先発投手の座を狙うためにアピールを続ける。当初の目標は第2戦で先発登板することを目指していたが、エース候補の投手が故障したため、第1戦で投げる。つまりエースを目指すことを決意した。

 「練習試合、普段の練習のシート打撃でもどんどん投げてアピールすることを決めました」
 そして目標通り、第1戦の先発マウンドを勝ち取った田中。しかし、4月15日の法政大戦に先発したものの、5回4失点で降板し、悔しいマウンドとなった。
「その時、ベンチの後ろで、静かにいて、他のメンバーに声を掛けることもできなかったんです」

 試合後、溝口監督、主将だった熊谷敬宥から叱られ、降板後の姿勢を改める。
「何してんねん!自分にできることはないんか!ってすごい怒られたんです。今までそういうことが全く頭になくて、ベンチにいて何かできることはないかと考えるようになりました」

研究を重ねてどり着いた回転数の高いストレートと決め球・チェンジアップ  田中誠也(立教大)【後編】 | 高校野球ドットコム
ベンチ前で仲間を迎え入れ、ハイタッチを交わす田中誠也

 そこから、田中はベンチ内では大きな声を出し、選手たちを盛り上げるようになり、今ではその姿を称える声が多い。決して最初からできたわけではなく、1つのKO劇が田中を変えたのだ。
「それまでは自分の中でいっぱいいっぱいでしたが、だいぶ変わりました。この年、リーグ優勝も、全国優勝もさせていただきましたが、僕にとっては優勝よりも大きい経験でした」

 チームを代表する投手として試合に対する姿勢を改めたが、投球術も高校時代から進化をさせた。その1つがタイミングの外し方だ。そのために試合前の準備を怠らない。

 「まず1週間前に対戦予定のチームの映像を見ます。そこで、打者のタイミングの取り方を見たり、春、秋で調子の良い打者、悪い打者が変わってきますので、どういうスイングをして、どういう方向にヒットが出ているのか。それを頭に入れて投げています」

 そして試合に入ると、事前に1人1人の打者にどういう攻めをすればいいのか頭に入っているので、主体的にピッチングができる。またそして試合を進める中、実際に対戦をして、スイング、ボールの見逃し方を見て、二巡目、三巡目でピッチングの組み立てを工夫している。田中は経験を積み重ねるごとに打者にどういうビジョンで攻めていけばいいのか、考えられるようになった。

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研究を重ねてどり着いた回転数の高いストレートと決め球・チェンジアップ

研究を重ねてどり着いた回転数の高いストレートと決め球・チェンジアップ  田中誠也(立教大)【後編】 | 高校野球ドットコム
ストレートは『なめる』ようにリリースするのがポイント

 そして田中のピッチングで特徴的なのはストレートが140キロ前後でも空振りを奪うことができることだ。左腕でも田中より速い投手は大学生になると多くいるが、なぜストレートで勝負できるのか。その理由は独特のリリースポイントにあった。

 「僕は『ボールをなめる感覚』で投げています。僕は指先にマメはできず、親指部分にマメができるんです。ゆっくりキャッチボールしてみたら、親指に強くかけて、最後は中指と人差し指のリリースで外す感覚で投げているのに気づいたんです」

 ちなみにチーム内でボールの回転数を測るラプソードを導入しているが、田中の場合、130キロ前半ながら、ボールの回転数は2300と驚異的な回転数を誇る。130キロ前半を投げる高校生の場合、回転数は2100台がほとんどなので、数字面からでも田中のストレートは切れ味が鋭い事がわかる。

研究を重ねてどり着いた回転数の高いストレートと決め球・チェンジアップ  田中誠也(立教大)【後編】 | 高校野球ドットコム
左:深い握りのチェンジアップ 右:浅い握りのチェンジアップ

 

 さらに田中の決め球の1つとされるチェンジアップ。縫い目に沿って人差し指と中指を挟んで握る。薬指を添えているのがポイントだ。
「フォークを投げたい気持ちはあったのですが、指が短いので落とせなかったです。薬指を添えてみたら、投げられるようになりました。よく、教えてくれといわれるのですが、握りが独特なので、教えるのが難しいですね。やっぱりチェンジアップは抜き方を自分の感覚で、見つけていかないと投げられないので、独自の握りになると思います」

 田中はチェンジアップについての話題になると饒舌に語りだす。握りのポイントをさらに聞いてみた。
「自分は浅く挟んだ握りと、深く挟んだ握りの2種類で投げ分けています。鷲掴みをして、ストレートを減速させたチェンジアップを投げる投手もいますが、自分の場合は挟んで球速を落として空振りを奪ったり、打たせて取る事を考えています」

研究を重ねてどり着いた回転数の高いストレートと決め球・チェンジアップ  田中誠也(立教大)【後編】 | 高校野球ドットコム
秋こそは優勝し、後輩へバトンをつなぐことを語った田中誠也

 球速が速いのが浅い握りで、深い握りで抜くことで変化が大きいものとなり、空振りを奪うことができる。この投げ分けも大学入学後から実践できるようになった。大学2年生から登板数を重ねるごとに投球について考えるようになり、勝ち星、奪三振を積み重ね、通算勝利は13勝、奪三振も203まで積み上げた。

 田中の話を聞くと、とても研究熱心な姿勢であることが分かる。田中はピッチングについて突き詰めることが楽しいと語る。
 「試合である程度投げさせてもらったことで、ピッチングについて振り返られるようになりましたし、監督さんからいろいろ試していいといわれているので、遊び感覚ではないですが、あれもこれも試そうと、思うようになると、ピッチングは面白くなります」

 だから練習にも意味を求める。
「あまり意味がない練習をしたくないほうです。例えばコントロールを良くするには、フォーム、体の使い方を突き詰めて、コントロールが良くなる裏付けを作りたいタイプです。また上達の楽しさを知ることも大事です。そこからどんどん練習したい意欲が出てきますね。いろいろ試すことで掴むこともあります。決め球のチェンジアップもそこから掴んだものです。コントロールを良くしたいと思う方はいろいろなことを試す大切さが大事だと思います」

 秋のラストイヤーを向けて、こう意気込みを語った。
「4位に終わってしまったので、学生生活のシーズンになるので、最後は思い切ってプレーをしていきます。エースとして秋は優勝に導いて、後輩たちに良いバトンをつないでいきたいと思います」

 ピッチングではさらなる進化を求めて、探求を続け、そしてグラウンドでは誰よりも大きな声をあげ、チームメイトを盛り立てる。その姿はまさに投手の鑑である。

文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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