Interview

コントロールで生きる!自身のスタイルを確立させた大阪桐蔭時代 田中誠也(立教大)【前編】

2019.06.25

 今年の大学生を代表する技巧派左腕として注目される田中誠也。ストレートは140キロ前後ながら、空振りが奪え、さらにストレートと同じ腕の振りで投げ込むスライダー、チェンジアップと次々と打者を手玉に取る投球で、大阪桐蔭時代は甲子園優勝、ベスト4に導き、立教大入学後はリーグ通算13勝、2度の最優秀防御率を獲得している。

 その野球人生を追っていくと、投手ならば、誰しもが学べる要素が詰まっていた。前半は大阪桐蔭時代の取り組みについて語っていただいた。

周りはすべて速い投手ばかり。コントロールを突き詰めようと考えた

コントロールで生きる!自身のスタイルを確立させた大阪桐蔭時代 田中誠也(立教大)【前編】 | 高校野球ドットコム
インタビューに答える田中誠也

 田中の野球人生の始まりは小学校3年生から。左投手ということで、入部のときから投手を始め、試合で投げ始めたのは5年生からだ。

「野球を始めた時からキャッチボールは投球につながると思っていたので、投手の憧れはずっとありました」

 小学校時代の憧れの左腕は智弁和歌山時代の岡田俊哉(現・中日ドラゴンズ)。細身で球速が速く、切れのあるスライダーを投げ込む姿に惹かれていた。

 今でこそ制球力抜群の左腕として活躍する田中だが、小学校時代、コントロールには自信がなかった。そして生駒ボーイズに進むと少しずつ頭角を表していく。

「練習量は中学のクラブの中ではかなりあるチームで、土日合わせて週5日で練習するチームでした。平日だと17時~22時まで練習をしていて、たくさん走りましたね。コントロールは少しずつ良くなっていたと思います」

 コントロールを良くするためにひたすらピッチング練習を取り組んで、コントロールを良くする感覚を掴んだ。

「僕は理論も大事にしていますけど、感覚も同じくらい大事です。僕は独特の握りをしていて、普通ならば握った時、Cの字になると思うのですが、僕の場合、逆のCのような形で、普通の投手が投げている握りのほうが投げやすいですね」

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田中誠也のストレートの握りはシームの形が逆Cになっている

 そして中学では無安打無得点試合を2回、完全試合を1回達成するなど活躍を見せ、大阪桐蔭の門を叩く。大阪桐蔭に進むきっかけとして、
「生駒ボーイズのグラウンドは大阪桐蔭のグラウンドが近かったというのもありますし、僕の中学3年生のときに、藤浪晋太郎さんがエースとなって、春夏連覇を果たしている姿を見てきて、そういう学校からお誘いをいただいて、中学の指導者、両親からも『いくしかないんじゃないか』といわれ進学を決断しました」

 入学後、練習メニューの質の高さに驚く。

「1つ1つのメニューをしっかりとこなさない後れてしまう感じはありました」

 練習についていくだけではなく、周りのレベルの高さにも驚かされた。

「先輩だけではなく、同級生もみんなボールが速くて、自分はかなり遅い方です。体が大きかったので、凄いところに来てしまったと思いました」

 中学3年生のときの最速は128キロ。同級生には自分よりも速い投手もいて、1年立つと、自分よりも球速が速い後輩投手も入部してきた。それを見てきて田中は「スピードで勝負するのではなく、他の部分で勝負しようと考えました」

 もちろん球速を高めたい考えはあったが、同じことをしていてもライバルに勝つことはできない。そこで、田中はコントロールを突き詰める事を考えた。

[page_break: 全国舞台で活躍も敦賀気比戦の投球は自分を変えてくれた]

全国舞台で活躍も敦賀気比戦の投球は自分を変えてくれた

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大阪桐蔭時代の田中誠也

 そして西谷監督から低めの重要性を説かれ、さらに好投手になるために、3つのポイントを指導された。

「リズム、タイミング、コントロールですね。捕手からボールを受け取ったらすぐに投げて、低めに投げる。試合でもそれを意識していたら、ゲームを作れる回数が増えるようになりました。ずっと同じ低めに投げ続けることで長打を防ぐことはできましたし、変化球を低めに落とすことができれば、空振りを奪うことができました」

 西谷監督のアドバイスを忠実に守り、練習試合でも結果を残し続けた田中は春の大阪府大会でベンチ入りを決め、春の大会でも結果を残し、夏でもベンチ入り。夏の大阪大会決勝では先発マウンドにたつ。

「決勝戦の前日の夜に先発を言われて、その夜はあまり眠れなかったです。とりあえず気持ちで投げた感じですね」

 決勝戦では完投勝利を挙げ、見事に甲子園出場を決める。甲子園でも八頭戦(試合レポート)で完封勝利を上げるなど、甲子園でも好投を見せ、優勝を味わう。

「あの時の3年生は取られても取ってくれる素晴らしい打線で頼もしさを感じましたし、投げやすかったです」

 3年生たちへ感謝の思いを口にした。そして2年秋はエースとしてマウンドに立つ。春、夏を経験し、余裕を持ってマウンドにたつことができていた。

 秋は9試合57回を投げ、74奪三振、防御率1.74と好成績を挙げ、近畿大会ベスト8入りし、センバツ出場に貢献。センバツでも好投を続け、東海大菅生八戸学院光星常総学院を強豪相手に三試合連続完投勝利。27回を投げて4失点と抜群の安定感を示していた。

コントロールで生きる!自身のスタイルを確立させた大阪桐蔭時代 田中誠也(立教大)【前編】 | 高校野球ドットコム
田中誠也

 入学から磨き続けてきたコントロールはさらに精度が増し、高校に入ってマスターした縦横のスライダーが冴え渡り、大会を代表する左腕として前評判どおりの投球を続けていた。夏春連覇へ準決勝に臨んだ敦賀気比戦だったが、2回途中まで投げて満塁弾2本浴びるなど、10失点で降板。チームは敗れた。この敗戦は今でも忘れられない。

「人生でもあんなに打たれた経験はないと思うほど打たれた試合です。悔しい気持ちはありますが、逆にあの経験がなければ、野球に対する取り組みは変わっていなかった出来事だと思っています。その時のチームメイトには本当に申し訳なかったのですが、まだ甘かった自分の取り組みを変える良い敗戦だったといえます」

 敗戦をしっかりと受け止めて、変わることができたといえるほどの成長を見せた田中。西谷監督は高校時代の田中のことを、「負けん気が強くて、向上心も強い投手でした。だから練習中ではコーチと何度も相談しながら、練習に取り組んでいた投手でした」と称えるように、さらに強い向上心を持って練習に取り組むようになった。

「チームに迷惑をかけたので、それを取り返すつもりで取り組むことができました。春に打たれたからこそ、直向きに夏に向かって取り組む事ができたと思います」

 最後の夏はベスト8止まりで、夏4連覇とはならなかったが、成長を実感できる夏だった。田中は高校から大学までの野球人生を振り返る上で、野球に対する取り組みを変える2つの出来事があったと語る。その1つ目が敦賀気比戦の投球なのだが、もう1つが立教大進学後のあるリーグ戦だ。その出来事については後編で触れていきたい。

 前編はここまで。後編では野球への取り組みを変えるきっかけとなった二つ目の出来事について伺いました。後編もお楽しみに!

【後編を読む】研究を重ねてどり着いた回転数の高いストレートと決め球・チェンジアップ 田中誠也(立教大)【後編】

文=河嶋 宗一

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7月2日12時 OB 田中誠也選手(立教大)インタビュー【前編】「コントロールで生きる!自身のスタイルを確立させた大阪桐蔭時代 田中誠也(立教大)」


7月3日12時 OB 田中誠也選手(立教大)インタビュー【後編】「研究を重ねてどり着いた回転数の高いストレートと決め球・チェンジアップ」

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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