主演・堤真一さんが語る高校野球を題材にした映画「泣くな赤鬼」の魅力と伝えたいメッセージ
作家・重松清の短編小説「泣くな赤鬼」が映画化され、6月14日に全国上映される。高校野球を題材にしたこの作品は、かつて強豪校の野球部の監督として熱血指導ぶりに「赤鬼」と呼ばれた小渕隆とその教え子の斎藤智之(愛称ゴルゴ)との関係性を描いた作品である。赤鬼とゴルゴは病院で久々の再会をするが、ゴルゴは末期がんを患い、余命半年と宣告されていた…。赤鬼はゴルゴとの高校時代のやり取りを思い出しながら、自分にできることはないかと考える。そこから見えてくるものとは。
今回は赤鬼先生を演じる俳優・堤真一さんに映画の見所、作品に対する思いを語っていただきました。
重松清作品の魅力とは
インタビューに答える堤 真一さん
―― まず今回の作品の脚本を読んだときの感想を教えてください。
堤 真一(以下、堤) 先生と生徒の関係が丁寧に描かれていて、良い話だなと感動しました。でも、良いお話すぎると、泣かせるだけの映画になってしまわないかな、と最初はちょっと迷ったのですが、柳楽(優弥)くんが出ると聞きましたし、また川栄李奈さんとも一緒に仕事をしてみたかったので、これはやろう!と思いました。
脚本の面では、今回、ト書き(※脚本で、せりふの間に、俳優の動き・出入り、照明・音楽・効果などの演出を説明したり指定したりした文章)による決めごとがなくて、台本に余白があるのがよかったんです。なので、いろいろな可能性や広がりを持った作品だなと感じました。
―― 今回のお話を聞くと、出演を決められたのは脚本ということでしょうか。
堤 僕は脚本で出演するかしないかの判断をしています。今回、脚本が素晴らしかったことは勿論ですが、先ほどもお話した通り、柳楽くんや川栄さんとの共演も決め手でしたね。
―― 柳楽さんとは特別な思いもあったのでしょうか。
堤 特別な思いというよりも、彼はすごい俳優さんだと常々思っていたので、そういう方とご一緒できるのならば、僕にとっての勉強にもなりますから。真っ直ぐ役に向き合って演じるところが素晴らしい方ですね。
―― 今回の映画は作家の重松清さんの原作となりますが、この作品の魅力はどんなところにあるとお考えでしょうか。
堤 重松さんの作品の登場人物たちはごくごく普通の人たちで、物語上も特別な大事件が起こるわけではありませんよね。
その中で、登場人物それぞれのキャラクターがとても深く描かれています。人間関係の捉え方、描き方が細やかで、いろいろなところで絡み合っているところが魅力的です。
でも、こういう作品の映像化は、役者にとってはとても難しいんですよ (笑)。
重松さんの作品は教師を描いたものが多いですが、重松さんの経験から得た思いも込められているのかもしれません。考えてみたら、男の先生というのは、父親でもなく、上司でもない。子どもたちが社会に出ていく上で、先生は両親以外で初めて接する大人なんですよね。
その関係性は微妙ですが、学ぶことがあると思います。
学生時代の僕はゴルゴだった
赤鬼先生を演じる堤 真一さん
――どのように赤鬼先生のキャラクターを作り上げていきましたか?
堤 どういうふうに作っていこうと特別に考えたことはありません。ただ、僕は中学時代に野球をやっていて、当時の先生がめちゃくちゃ怖くて、めちゃくちゃ厳しかったんですよ。今回の脚本を頂いた時、自然にその経験がこの役のベースになったところがありますね。
――ゴルゴと同じように、何か壁にぶつかったり、悔しい思いをしたなどのエピソードがあれば教えてください。
堤 高校でも野球を続けたんですが、正直、勢いで野球部で入ってしまったので、すぐにつまらなくなって、辞めたいと思いました。でも、夏休み前に辞めてしまうと、夏休みの練習がしんどくて逃げたと思われるのが嫌だったので、夏休みまでやり抜いて新学期で辞めることにしたんです。
そうしたら、辞めたはいいけど、何をやればいいか分からなくなってしまって…。ほとんど学校いかなくなってしまったんです。だから僕はどちらかというとゴルゴだったんですよ。
授業は当然全科目欠字(赤字)です。その欠字補充のために、冬休みに全科目のレポート提出の課題が出されました。毎日、睡眠時間は2時間ぐらいでしたね。その時、思ったんですよ。補充のためにこれほど頑張れるなら、最初から学校いっておけ(笑)って。でも、必死でやり遂げたことが自信になって、それから卒業まで、ほぼ休みなく行くようになりました。
僕は挫折だらけの人間でした。高校を卒業して、特にやりたいこともなかったのですが、身体を動かすことは好きだったので、アクションの稽古を始めました。それも怪我が多くてリハビリばかり。でも、そこから坂東玉三郎さんの舞台に参加する機会を頂戴して、その世界観に圧倒されて一生舞台に関わって行こうと決心したわけですから、挫折ばかりの経験からも、何か新しいものが見えてくるものなんだな、と今は思っています。
―― 今回は野球が題材となっており、野球関係者、野球ファンも注目する今回の映画ですが。注目してほしいポイントを教えて頂けますか。
堤 野球はもちろんですが、この作品では、先生と生徒との関係性を見ていただきたいです。赤鬼とゴルゴのやり取りは、男同士であり、あるいは親子のように見えたり、先生と生徒との微妙な距離感と関係性など、人と人が向き合う大切さを感じていただければと思います。
取材=河嶋 宗一