Interview

活躍するために持つべき3つの視点とは 前U-15侍ジャパン監督・清水隆行氏(元読売ジャイアンツ)vol.2

2019.06.07

 読売ジャイアンツと西武ライオンズで現役14年間プレー。1485試合に出場し、通算打率.289、最多安打のタイトルにベストナイン選出、チームの優勝に幾度も貢献した華々しい実績。清水隆行氏の現役時代を知る人なら、間違いなく「一流選手」と言うだろう。だがその裏にあった意外な気持ちと、それに伴う活躍の秘訣。もし悩みの沼にはまっている高校球児がいるとしたら、清水氏の言葉から救いのヒントが得られるかもしれない。

 本編では活躍するために必要な要素と、その要素を身に付けるための考え方を紹介していただく。

◆前U-15侍ジャパン監督 清水隆行氏(元読売ジャイアンツ)インタビュー 「怖さ」は「強さ」になる vol.1
◆前U-15侍ジャパン監督・清水隆行氏が読売ジャイアンツ時代に実践し続けた「一流の習慣」vol.3

的確な「考え方」を身につけるために

活躍するために持つべき3つの視点とは 前U-15侍ジャパン監督・清水隆行氏(元読売ジャイアンツ)vol.2 | 高校野球ドットコム
的確な「考え方」について語る清水隆行氏

 「よくプロ野球選手がメディアで話す時に『楽しむ』と言うことがありますが、楽しんでいるように見えても、それは怖さを知った上での発言なんです。その証拠に、みんな信じられないくらい練習する。なぜかといえば不安だし怖いからです。直接確認したことはありませんが、みんな、そんな負の気持ちを振り切りたいから練習に励む。
 僕なんかはたとえ試合を決める一打を放ったとしても『やった!』という快感は湧いてきませんでした。逆に『よかった…』とホッと安堵する気持ちが湧いてきたものです。辛いように聞こえるかもしれませんが(笑)、それでもやらなければいけないのがプロの世界なので」

 毎試合、足を震わせながら打席に立つ。緊張しているのが自分でもわかる。体が硬直している。力みかえっている。それでも打たなければいけない。緊張を解くことはできない。ではどうするか。

 「力を抜こうと思っても抜けない。その時にどう考えるか。僕の場合は左バッターなので、少なくとも力みがライト方向へ向かないようにだけ心がけていました。同じ力みでもセンター方向へ向けばいい方向に作用するので。というように、常に緊張状態の中でもどうにかしようと考え、動き続けること。その経験の蓄積が結果を、数字を残すことにつながります。一番よくないのは『考えない』ことです」

 プロの世界ではいかに考え、具体的にプレーに適用するか、が成功するかしないかの分岐点になる、と清水氏は考える。
では、高校球児に当てはめてみる。おそらく何も考えないで練習やプレーをしている選手はいない。だが重要なのはさらにその先、「考え方」だ。考え方ひとつで、同じ練習メニューでも、その効果はマイナスにもゼロにもプラスにもなる。的確な考え方を身につけることは簡単ではないが、ヒントとなるポイントを3つ、清水氏が教えてくれた。

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[page_break:「勝ちたい」より「負けたくない」]

的確な考え方を身につける3つの視点

活躍するために持つべき3つの視点とは 前U-15侍ジャパン監督・清水隆行氏(元読売ジャイアンツ)vol.2 | 高校野球ドットコム
清水隆行氏

【1.聞く耳を持つ】
 「結果を残しているのであればまだしも、結果が出ていない状況下で周囲の人のアドバイスを聞かないのはよくありません。なぜアドバイスされるかというと、明らかな問題があるからなわけで。ただし、言われたことを単純にこなすだけでは考えていることにはならない。言われたことは、自分の中にある問題を解決するひとつの“例”にすぎないのであって、決して正解とは限らないということにまず気づきましょう。

 そしてたいせつなのは、言われたことをヒントに、問題の原因を自分で探って見つけようとすること。コーチや監督など、アドバイスをする方も、なるべく選手本人が理解しやすいように、問題の原因を明らかにしてあげた方がいい。さらに、自分の助言が決して正解ではなく一例を示しているに過ぎないということを丁寧に教えてあげる。そうすれば間違った方向に進む可能性は少なくなると思います」

 珍しくないケースとして、周囲の人からばらばらのアドバイスを受け、それをそのまま取り入れてみたら混乱が増し、本来の自分を見失ってしまった…ということがある。そういった迷いに陥らないためには、言われたことをただ受け売りするのではなく、あくまでヒントにとどめて、自分で解決しようとする姿勢をとることだ。

 「ひとつのアドバイスで問題が解決するかどうか、は選手によって違ってきます。感覚的なものなので、どういうイメージを持てば言われたことができるようになるか、自分で考えてみる。するといろいろな方法が頭に浮かんでくるはずです。
そうすると、考えただけ頭の中で引き出しが増えることになる。プロ野球選手よりキャリアが少ない16~18歳の高校球児にとって、『なぜ言われたか』を出発点に考えることは、引き出しを増やすきっかけとしてとても貴重な経験になります」

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「プロで成功する人しない人」を上梓した清水隆行氏

【2.アンテナの感度を上げる】
 著書にも出てくるが、より的確な考え方を身につけていく上で格好の材料を集めるためには「アンテナの感度を上げる」ことが重要だと言う。ここで言う「アンテナ」とは、プレーの中で気になる点を見逃さずにとらえる感覚を指す。

 「試合の結果、練習の結果、とにかく“結果”に対して向き合うことでアンテナの感度は上げられます。なぜその結果になったのか、その原因を考える習慣をつける。最初は試合での結果からスタートしてみるのがいいかもしれません。たとえばセカンドゴロを打った。ではなぜセカンドに飛んだのか。なぜボテボテになったのか、など、打球の方向や質の原因を考えてみるんです。これを突き詰めていくと、ティーバッティングひとつとっても考えるようになる。どの方向に、どのような打球を打つ、と決めてバットを振ったら思ったような結果が出なかったとします。そこには体の動かし方やバットの振り方など、いずれかに理由がある。自分なりに理由を見つけたら、その改善方法を自分なりに考えてみてまた試してみる。試行錯誤を繰り返すことで考え方は鍛えられていきます」

 日々の練習、試合でアンテナの感度を上げることは、非常に疲れる。しかし、「わずらわしいかもしれないですが、一つ一つの結果を流さず、向き合うことが大事」と清水氏は説く。
「極端なことを言うと、打席での一球の見逃し方にだってヒントが隠されていることがあります。見送った時に体が突っ込んでいたから、もう少し頭を残して見ようとか。ファールひとつにしても、自分が思っていた方向と逆方向にファールになったら思っている以上にバットが出てないから始動を早めてみよう、とか」

 プロの一流選手の中には、一打席ごと、一球ごとに考えて修正を加えている人もいる、と清水氏は言う。逆に考えていない選手は、どの打席でも同じ結果に終わることが多い。
 おそらく、「考えてプレーしろ」と言われた経験は誰にでもあるだろう。しかし、そもそもどう考え出したらいいのか、とっかかりをつかめていない選手も少なくないのではないだろうか。そういう時は、まず自分のプレーを振り返ることから始めるのが手っ取り早い。最初は分析が誤ることもあるだろう。それでも続けていくうちに、分析の精度は高まっていくはずだ。するとそのうち、自分のプレーだけでなく他人のプレーにもアンテナが張られるようになる。そのスパイラルにはまれば、アンテナの感度は加速度的に上がっていくことになる。

【3.変わる勇気を持つ】
  思ったような結果が出ない時期に「己を貫く」「自分を信じる」ことで状況を改善した、という話も聞く。しかし清水氏は著者の中で、「結果を出し続けている一流選手は『変わる勇気』を持っている」と言う。

 「決して好調でない時に変化を加えたとしても状況がよくなる保証はないし、さらにマイナスになってしまうかもしれない。プレーを変えるということは先が見えないぶん、リスクが伴いますし怖いものです。ですが、変えなければ状況も変わらない。そう考えたら変わらざるをえない。ではどう変わるか。その際に重要になるのが引き出しの多さです」

 先に紹介した【1.聞く耳を持つ】、【2.アンテナの感度を上げる】を習慣化していれば頭の中の引き出しは増えていく。引き出しが多いほど、状況を上向きにする方法も見つけやすい。

 「プロ野球選手に比べて高校球児の方がどうしても引き出しの数が少ないぶん、『変わる勇気』を持ちづらいと思います。引き出しが多いほど、どういう状態になったときにどうすればいいか、ある程度見えますしアレンジできますから。それは分かりますが、少なくとも試行錯誤だけは続けた方がいいです。
 ただがむしゃらにティーバッティングでバットを振っても、ただ振るだけでは準備運動になってしまう。迷ったり焦ったりしている時ほど目的を持つ。そこからいろんなことを考えだすはずです。今振り返れば、自分は細かく言ったら飽きられるほどいろんなティーバッティングを試したものです(笑)」

 変わらなければいけないのに頭と体が動かない。そうして現状に固まってしまっている選手がいたとしたら。まずは自分の頭の中に引き出しを増やすように心がけてみよう。止まったままでは何事も進まない。だが、考え方が広がるほど対応は柔軟になっていく、と思えば現状を切り拓くたいせつな一歩を踏み出せるはずだ。

文=伊藤 亮

活躍するために持つべき3つの視点とは 前U-15侍ジャパン監督・清水隆行氏(元読売ジャイアンツ)vol.2 | 高校野球ドットコム

◆前U-15侍ジャパン監督 清水隆行氏(元読売ジャイアンツ)インタビュー 「怖さ」は「強さ」になる vol.1
◆前U-15侍ジャパン監督・清水隆行氏が読売ジャイアンツ時代に実践し続けた「一流の習慣」vol.3

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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