Interview

前U-15侍ジャパン監督 清水隆行氏(元読売ジャイアンツ)インタビュー 「怖さ」は「強さ」になる vol.1

2019.06.06

 読売ジャイアンツと西武ライオンズで現役14年間プレー。1485試合に出場し、通算打率.289、最多安打のタイトルにベストナイン選出、チームの優勝に幾度も貢献した華々しい実績。清水隆行氏の現役時代を知る人なら、間違いなく「一流選手」と言うだろう。だがその裏にあった意外な気持ちと、それに伴う活躍の秘訣。もし悩みの沼にはまっている高校球児がいるとしたら、清水氏の言葉から救いのヒントが得られるかもしれない。

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「打席では足が震えていた」

前U-15侍ジャパン監督 清水隆行氏(元読売ジャイアンツ)インタビュー  「怖さ」は「強さ」になる vol.1 | 高校野球ドットコム
「プロで成功する人しない人」を上梓した清水隆行氏

 浦和学院、東洋大学、読売ジャイアンツ。プロ入り後はルーキーから開幕1軍でレギュラーに。プロ7年目にはシーズン191安打で最多安打のタイトルを獲得。清水隆行氏のキャリアを並べてみると「野球エリート」という言葉がぴったりと当てはまる。

 しかしその実、本人はずっと「自分は劣っている」と思っていたと言う。
 さらに、いつも「怖かった」とも。

 「毎試合、最初の打席は足が震える感覚がありました」

 現役14年間で出場した試合は1485。その内、打席に立った全ての試合の第1打席は最後まで足が震えていた――。プロで残してきた華々しい実績と比べると予想外の告白だった。

 「楽しさがあったのはデビューして最初の頃だけです。なぜなら怖いものがなかったから。高校から大学へ行ってプロへ進んで。東京出身で幼い頃からずっと見てきたジャイアンツへ入団して。まさかプロへ行けると思っていませんでしたから、その世界でやらせてもらえることに対して最初は楽しみを覚えました。でもだんだん怖さの方が上回ってきて。
 試合に出るようになり、レギュラーになると、失敗することの怖さがだんだん出てくるんです。結果を出し続けることでしか自分の置かれた状況を守り、さらに地位を向上させることはできませんから。となると、毎日積み重ねることが必要になる。その大変さと同時に、もし失った時の怖さが常にありました。他の選手はどうかわかりませんが」

 5月31日に発売されたばかりの著書『プロで成功する人しない人』(竹書房)には、そんな清水氏の決して野球エリートでなく、それでもプロ野球の第一線で活躍し続けてきた秘訣が綴られている。そこには高校球児にとってもとても気づかされるヒントが散りばめられている。今回は書籍の内容に即しながら、ご本人の言葉で気づきのヒントを拾い上げてみたい。

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[page_break:「勝ちたい」より「負けたくない」]

「勝ちたい」より「負けたくない」

前U-15侍ジャパン監督 清水隆行氏(元読売ジャイアンツ)インタビュー  「怖さ」は「強さ」になる vol.1 | 高校野球ドットコム
高校時代を振り返る清水隆行氏

 話の端々からは、清水氏のリアリストとしての側面が見て取れた。夢を抱いたら迷わず一直線に突き進む…のではなく、どこか冷静に客観的に自分を分析している自分もいるのだ。それは浦和学院時代から変わらない。

 「[stadium]甲子園[/stadium]に行けたらいいな、とは思っていましたけど、『絶対に』というほどではありませんでした。なぜそんな冷めた部分を持っていたかというと、具体的に[stadium]甲子園[/stadium]に行けるイメージを描けなかったのが一番の理由です。周囲のよく知るチームが甲子園に行ったこともなかったですし。最もイメージできたのは2年夏に埼玉県予選決勝まで行った時ですけど、大宮東に2-12で大敗してしまったので、やはりリアルにはイメージできず。これは性格や環境が影響しているのかわかりませんが、何事に対しても希望と現実の両方の見方を持っていましたね」

 だが、そこまで勝利に執着することはなくても、練習で手を抜くことはなかった。なぜなら、生粋の負けず嫌いだったから。

 「負けず嫌いでも、ちょっと違うのは『勝ちたい』より『負けたくない』という思いの方が強かったことです。失敗したくない、最悪の結果だけは出さないようにしよう、という気持ちが根底にあるので、そのためには与えられた目の前のことに対してはしっかりやらざるを得ない。さぼりたい気持ちがないわけではなかったですけど、それよりも、さぼったがために結果が出なかったら、自分の中では消化しきれない後悔が残ってしまう」

前U-15侍ジャパン監督 清水隆行氏(元読売ジャイアンツ)インタビュー  「怖さ」は「強さ」になる vol.1 | 高校野球ドットコム
清水隆行氏

 当時は強く意識することはなかったという。しかし今振り返ると、なぜ自分が努力を続けてこられたか、わかる。もちろんいい結果に結びつけばそれに越したことはない。だが練習をしたからといって、理想の結果が保証されるわけではない。ただ、最悪の結果は避けられるのではないか。少なくとも、やることをやりきっての結果なら納得できるのではないか。とにかく悪い方向に向かいたくない。その恐怖心が、結果として「質の高い準備をする」原動力となった。

 「いろいろなところで劣っている、というのが自分の中にすごくあって。でも結果がどうなるかなんて、自分では決められない。自分が決められることといったら、できる限り練習して、やれることをやって準備するだけじゃないですか」

 著書に詳しいが、高校時代から無意識に続けていた「準備」が奏功したのであろう、清水氏はその後の大学、プロでチーム内のレギュラー取りのかかる“ここぞ”という勝負所で結果を出し続けることになる。そして自称「劣った自分」が厳しいプロの世界で成功し続けるために、さらに思考を極限にまで突き詰めることになるのだ。

 「先ほども言ったように、怖さもあれば緊張、不安もある。打率3割の好打者といえど、7割は失敗する。つまり、打席に立てばほどんどが悪い結果に終わる。それが怖い。でもプロとして野球が仕事になった以上、怖くたって打席に立ち続けなければいけまえん。怖い。でも打たなければいけない。では、どうするか」
 重要なのは、「考え方を鍛える」ことだった。

文=伊藤 亮

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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