Interview

野球センスと思考力の高さを秘めた東京都屈指のアスリートプレーヤー柳本康希(都立片倉)

2019.04.06

 東京都八王子市・都立片倉にプロのスカウトも注目するアスリート型。それが柳本康希だ。本人によると遠投100メートル、50メートル6秒3と、彼よりもスペックが高い選手は全国に多くいるだろう。だが柳本はその身体能力をグラウンドで表現できる選手だ。

 そのパフォーマンスの高さに惹かれ、今ではNPBスカウトも練習を視察するほど。また3月17日の国士舘との練習試合ではバックスクリーン弾を放ち、順調に成長を見せている。勝負をかける柳本の素顔に迫る。

大きなインパクトを与えた東京代表セレクション

野球センスと思考力の高さを秘めた東京都屈指のアスリートプレーヤー柳本康希(都立片倉) | 高校野球ドットコム
バットを持つ柳本康希(都立片倉)

 11月5日の東京代表のセレクションで大きな衝撃を与えた。この日のスケジュールは午前組、午後組で分けられ、柳本は午後組での参加となったが、そこで見せたシートノックで大きなインパクトを見せつける。ライトの守備位置は柳本はバックセカンド、バックサード、バックホームといずれもダイレクト、あるいはワンバウンド返球を見せた。しかも浅い位置からではなく、遠い位置からでも、鋭い返球を見せるのだ。

 その送球は他の外野手と比べても誰よりも強かった。この反応は筆者だけではない。ネット裏から選手の引率で見ていた指導者も同じ反応だった。ちなみに都立片倉の宮本秀樹監督はこの場面をあまり見ていない。ちょうど弁当を買いだしていた時だった。
「戻ってきたら、知り合いの指導者から都立片倉の外野手すごいぞといってきて、あいつそんなすごいことやったんだな」と驚きのコメント。都内の指導者だけではなく、このセレクションを見ていたNPBのスカウトにも目が留まり、セレクション後、練習を見るスカウトもいた。

 さらにベースランニングでは13秒94と驚異のタイムを計測。その俊足ぶりについて都立片倉の主将・松井晴比古はこう証言する。

「練習試合ではいろいろなチームと対戦しますが、あいつ以上にベーランが速い選手は見たことがないです」

 松井だけではなく、他の選手も同調する。いつから速かったのかを柳本に聞くと、「多分、野球を始めてからずっとだと思います」

 足が速い選手ほど陸上部経験があったのかを聞かれるが、柳本はその経験もないという。中学時代は俊足を生かした左打者だったが、都立片倉に入学してからは宮本監督の勧めから右打ちに変更した。

 これは柳本の将来を考えての変更であった。
「よく足を生かすために左打ちにする考えはありますが、私は反対です。左打ちでも強いスイングができるのならば別ですが、三遊間へ緩いゴロを打って足でヒットを稼ぐなら、シングルヒットと同じじゃんと思っていて。それならば、常にシングルヒット以上の結果を残せるよう、強いスイングをすることを求めてきました」

 この方針のもと、2年生になると都立片倉の練習グラウンドの外野後方にあるネット上段まで飛ばすまでになった。実際に取材日で打撃練習を見る機会があったが、フェンス上段まで飛ばす打球が多かった。

 中学時代まではショートだったが、高校では外野手に変更した。ここからスローイングについてもフォームを見直し、胸を張り、体全体を使ってスローイングすることにこだわると、一気に送球が強くなった。攻守で自信をつけた柳本はレギュラーの座を獲得し、2年夏はベスト8入りを果たした。

[page_break:高い身体能力を表現できる、言語化できる野球センスと思考力がある]

高い身体能力を表現できる、言語化できる野球センスと思考力がある

野球センスと思考力の高さを秘めた東京都屈指のアスリートプレーヤー柳本康希(都立片倉) | 高校野球ドットコム
守備練習中の柳本康希(都立片倉)

 そして秋の大会後に行われたセレクション。ライトのポジションに入った柳本は、「自分の肩をアピールするつもりでした」とシートノックから全力投球。走塁、守備では思い通りのアピールができたが、打撃では木製バットの対応に苦しみ、しっかりとした打球を飛ばすことができず、代表選手に選出された選手との力量差を痛感した。

 この冬では打撃フォームを入念に見直した。チーム内で長打力がある選手のフォーム、体の使い方を参考にしたり、野球ノートには自分の調子が良い状態はなぜ良いのか、悪い状態はなぜ悪いのかを記した。その中身は宮本監督が絶賛するほど。
「あいつは練習からいろいろ工夫しているのですが、そういう取り組みの意図をしっかりと書いてあるんですよね」

それは、取材日の練習中からでもうかがえた。打撃投手が投げるゲージでは、足を上げたり、ノーステップで打ったりすることがあった。柳本に聞くと、「投手によって、ゆっくりと投げたり、クイック気味に投げる投手がいます。そういう投手を想定して練習をしています」と意図を明快に答えられる。

 打撃練習から外れても、自分の姿が鏡のように窓や壁があれば、そこで確認したり、狭いスペースでインコースを打つイメージでスイングしたりと、工夫を重ねている。

 そして柳本は2年秋から遊撃手に転向したが、秋の大会後では極力、逆シングルで捕球するようにしている。理由は「より速く送球に移りやすい」からだ。
「チームメイトが逆シングルで捕球をしていて、その方が速いかなと。まだ完成度は低いです」

 とはいえ、取材日のシートノックでは重心が低い位置で構え、猛然とボールに突っ込み、少し腰をかがめてから逆シングルで捕球して素早く持ち替え、スローイング。その動きは無駄がなくそつがない。複雑な動作をスピード感があり、チームメイトからもすごいという声が。

 宮本監督は「よく待って捕る、両手を使って捕るといわれますが、うちはアウトを速く取る方法ならば、どんな形でもいいと思っています。あいつの場合、それが逆シングルで、私も状況によっては逆シングルで捕球するべきだと考えています」

 柳本は肩が強いので中継プレーでカットマンに入ったとき、三塁や本塁に投げたとき、送球の乱れがほとんどない。チームメイトからも「カットマンに入って走者を刺すことも多いですよ」と語る。外野手としても、遊撃手としても身体能力の高さを発揮している。

 柳本は高い身体能力を瞬時に表現できる野球センスの高さがあり、そして理屈を持って説明することができる。身体能力が高い選手でこれほど自分の動きを言語化できる高校生はあまり見たことがない。

 技術が優れた選手に対し、そのルーツをたどるべく、どのプロ野球選手なのかを参考にしているのか?と必ず聞くが、柳本の場合、誰もおらず、自分が見て参考になるものを貪欲に取り入れ、それをものにしたという。まさに我が道を行くプレーヤー。

 ぜひ走攻守で高いパフォーマンスをグラウンドで表現し、東京都の高校野球ファンを驚かせてほしい。一気にブレイクする可能性は十分に秘めている。

文=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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