名手の系譜を受け継ぐショートストップ・成瀬脩人(東海大菅生)【前編】
今年の高校生ショートで最も注目してほしい選手がいる。それが東海大菅生の成瀬脩人だ。高いコンタクト力と高校通算15本塁打を記録する長打力を秘めた打撃と俊敏な動きと強肩を兼ね備えた遊撃守備は超高校級のレベルにある。昨年は東京代表に選出され、キューバ遠征を経験。木製バットを使った打撃でも長打を記録し、天然芝のキューバのグラウンドに苦しみながらも好プレーを見せるなど日増しに評価が上がっている成瀬脩人の歩みを振り返る。
中学時代は強肩捕手として活躍。そして中学から世界の舞台を経験
腕を組む成瀬 脩人
今でこそ今年の高校生でもトップクラスのショートストップとして注目される成瀬だが、中学までは捕手だった。むしろ強肩捕手として自信を持っていた。
小学校1年、甚目寺キングナインズ(甚目寺ジュニアベースボールクラブ)に入団し野球人生をスタート。捕手を任された理由は当時から強肩だったことをチームの監督に見込まれたからだ。
「試しにノック入ってみて、スローイングしてみたら結構強いボールが投げられて、捕手をやることになりました」
それから成瀬は強肩強打の捕手に成り上がる。稲沢シニア時代は中学生ながらスローイングタイム1.92秒を計測するほど。そのスローイングの強さの秘密は手首の柔らかさにある。
「父親から手首の柔らかさは野球にはとても重要だよと教わっていて、お風呂の中でストレッチをしています。これは今でも実践していることです」
実際に手首がどれだけ柔らかいのかを見せていただいたところ、かなり深く曲げられていて驚かされた。この手首の柔らかさが成瀬の強打、強肩の源となっている。
この手首の柔らかさが成瀬脩人のプレーを支えている
成瀬の攻守の総合力の高さは東海地区で知れ渡り、東海地区連盟の推薦もあり、シニア日本代表に選ばれ、世界と戦う。そのメンバーの中には石崎聖太郎(春日部共栄)、江川侑斗(大分)と選抜甲子園出場メンバーがいた。成瀬にとってはまさかの日本代表だった。
「最後の大会は初戦敗退でしたから、日本代表選出は自分にとって驚きでした。初めての日本代表は海外遠征(アメリカ)でした。全国から良い選手が集まってきてその中でプレーしたのは良い刺激になりました」
そして東海大菅生に進むきっかけは小山 翔暉が所属している愛知木曽川シニアの那須 聡監督に誘われたのがきっかけだ。
「那須さんから『小山と一緒に菅生に行かないか、一緒に頑張ろうよ』と誘いをいただきまして、その後、小山と出会って、一緒に頑張ろうと健闘を誓ったんです」
成瀬にとって小山は大きな存在だった。
「やはり走攻守三拍子そろった選手で、特に足の速さは凄いものがありました」と刺激を受けた成瀬。今では欠かせない東海大菅生コンビの交流はここから始まった。
名手・田中幹也との出会い そして田中との自主練習で守備力を高める
ノックを受ける成瀬脩人
東海大菅生に進むと、今までにない野球の密度の濃さ、プレッシャーに圧倒された。また高校から内野手へ転向となった。東海大菅生の厳しい練習も前向きにとらえていた。
「東海大菅生の野球といえば、とにかく頭を使う野球で非常に細かいです。ノックをする若林監督はいつでも真剣で最初は戸惑いましたし、プレッシャーもかかりましたが、いざ公式戦になったらそういう緊張感で戦うことになりますので、よかったなと思いました」
さらに、内野守備を大きくレベルアップさせる出会いがあった。それが1学年上の田中幹也(亜細亜大)との出会いである。成瀬にとって、忍者と表現できる動きを見せる田中は憧れであり、手本だった。全体練習後の自主練習では一緒に練習をする仲になっていく。
「幹也さんと練習した場所は寮の近くにある倉庫なんですけど、そこで2時間ほど練習していました。幹也さんからいろいろ守備を教えてもらい、非常にうまくなったと思います」
2年夏はセカンドとして出場。本塁打を打つなど、攻守で活躍を見せる大会となった。
そして最上級生となって遊撃手を任されることとなった成瀬は、再び田中から教えを受けた。
「幹也さんの次のショートということでプレッシャーもあったんですけど、一から守備を教わりたい思いで、幹也さんに教えてもらいました。そこで意識していることは、下からグラブを出すこと、打者が打った瞬間に頭を上げないこと。常に低い目線でボールを見ることを意識しつづけてから、捕球は良くなりました」
また成瀬は遊撃守備だけではなく、打撃面でも存在感を示していく。一次予選では日大豊山戦で特大本塁打。都大会では22打数10安打を記録し、5番打者としてチームを牽引した。ミートすることには自信を持つ成瀬。新チームがスタートしてからも意識付けを変えたことが大きいと語る。
日々の打撃練習では、カウントや走者を置いた場面を自ら設定、あるいは心の中でシミュレーションして、狙い球を逃さず打つことを打ち続け、また練習試合や公式戦では相手投手のボールの軌道をイメージし、どうすればボールに合わせられるのかを考えてスイングをしてきた。
2年秋を終えて、成瀬は東京都を代表するショートストップとして成長を見せていた。
前編はここまで。後編では大きな経験となったキューバ遠征をメインに語ってもらった。
文=河嶋 宗一