名将が考える、4次元のコミュニケーション!大脇 英徳監督(東海大札幌)
大脇 英徳(おおわき・ひでのり)監督は、高校時代に東海大四(現:東海大札幌)の主将、4番・捕手として甲子園に出場している。高校卒業後は東海大に進学、その後NTT北海道で社会人野球を経験した後、母校東海大札幌に戻る。04年に監督に就任し、14年、15年とチームを甲子園に導いている野球エリートである。
では大脇監督の野球人生は順風満帆だったかと言うと、そうではない。「いっぱい、右往左往している」と語るように、山あり谷ありの野球人生を送ってきている。そんな色々な経験を通して今はどのような指導方針に行き着いているのか、大脇監督の指導論に迫ってみた。
暗闇の中でも前を向いていた野球人生
大脇 英徳監督(東海大札幌)
監督に就任した当時は香田 誉士史監督率いる駒大苫小牧が全国連覇を成し遂げるなど大脇監督率いる東海大四の前に立ちはだかった。また、05年には部員への体罰で半年の謹慎処分を受けた。
ともすれば、マイナス思考に陥りやすい状況でも、大脇監督は前を向いていた。
「香田さんが活躍されて、駒大苫小牧が勝って、やっぱりやればできるじゃんという自信をもらいました。また、その直後だったんですけど、体罰で自分が謹慎処分を受けて、その半年間でものの見方がガラッと変わって、指導方法も今までのままではダメなんだなと素直に考え直すことができました」
「練習の中身もそうですけど、強制が多かった。怒られたくないから選手も怒られないように野球をする・生活するというところから違うアプローチの仕方を考えるようになった。どういう風に言葉で導くかというのを考えました」
自分の状況を受け入れる。これも大脇監督の魅力の一つではないだろうか。自分の弱みを受け入れられる器の大きさがあるからこそ、自分に足りないところを補完する建設的な方法を考えることができる。弱さも受け入れ、次のアクションを取れるのが大脇監督なのである。
言葉で伝える
指示を出す大脇 英徳監督(東海大札幌)
自身を見つめながら、前向きなアクションを続けると、周りの環境も良い方に好転してくる。戸田 敬太部長を始め、清水 大志コーチ、山本 浩司コーチ、などが加わり、コーチ陣がしっかりした。コーチ陣に細かい指導を任せることで、一歩引いてチームを見れるようになった。このことで、技術以外の「心と心の対話」にも時間をより割けるようになった。
このことは、「言葉で導く」を考えている大脇監督にとっては追い風になった。また、東海大学札幌の千葉 秋彦OB会長を始め、大脇監督を支える人間が常に周りにいたことも大きかった。千葉会長とのディスカッションで言葉の力を学んだ。また、本を読むことで伝える言葉を増やすなど自身を変えてきた。
大脇監督も、「強制」でなく「言葉で導く」ことで選手の変化も感じている。
「やっぱり自発的な動きと言うかそういうのは多くなってきたかなと思いますよね」
これこそが、大脇監督の狙っていたことなのだろう。
[page_break:相手の立場に経つ]相手の立場に経つ
ノックをする大脇 英徳監督(東海大札幌)
ここで1つ強調しておきたい。語彙や言葉を伝える方法が増えれば、相手に気持ちが伝わるかと言うと、それだけでは不十分なのである。
もう1つの大事な要素、
「伝えられた相手がどう感じるか?」
を考えられるかが大事になってくる。
相手の立場に立って言葉を選べるかどうかなのである。
「生徒によっては、たまには動機づけるために乱暴な言葉を、わざと使うこともあります。そのような言葉で伝えたほうが入ってくる子もいます。先生と生徒じゃないんだと人たい人なんだという付き合い方をしていくようにしています」
この言葉に大脇監督の凄さが詰まっている。相手によって「伝わる言葉」を変えているのである。相手の目線を持つことが出来るからこそ、言葉の引き出しを増やすことにより意味が出てくる。
「僕も生徒に言うんですけど「気遣いさせない気遣い」こそが究極だと思うんです」
これは大脇監督の言葉である。この裏側には相手の立場にどれだけ立てるかという思いが詰まっている。
言葉の時差
大脇 英徳監督(東海大札幌)
最後に大脇監督は、言葉にもう一つのベクトルを付け足している。それは、今伝える言葉だけでなく。伝えた言葉を、いつか相手が理解すれば良いという、時間軸なのである。
「言葉の時差を持とうと思って、日付の時差があるように、「あの時先生言ってたなぁ」というそういう時差を意識してますね。今わかんなくてもいいやぁ、後でこいつが生きている中であの時言ってた事ってこういう事って気づいてくれればいいと、そういう時差をつけると言うか、そういう思いでしゃべると生徒の心にも入っていきます」
大脇監督の「言葉」には、相手の立場に立つだけでなく、時間の概念を追加しているのである。
4次元のコミュニケーション、それこそが大脇監督のリーダシップの根源である。
文=田中 実