Interview

世代ナンバーワンピッチャー・奥川恭伸(星稜)は野球頭も一流だった【前編】

2018.12.21

 2019年度の高校野球をリードする存在といえば奥川恭伸星稜)だろう。2016年・かほく市立宇ノ気中で第38回全国中学校野球大会初優勝を果たし、星稜高校に入学すると、2年春、夏と[stadium]甲子園[/stadium]に出場。さらに2年生ながらU18代表に選ばれ、第12回 BFA U18アジア選手権に出場。その後、秋の大会でも圧巻のピッチングを見せ、秋は60.1回を投げ、82奪三振、四死球率0.75と抜群の安定感を発揮した。
 最速150キロのストレートと切れ味鋭いスライダー、スプリットで三振を量産する高次元のピッチングはなぜ実現できるのか?今回はその原点に迫った。

U18の経験は自分を大きくさせた

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U18代表時の奥川恭伸(星稜)

―― 奥川投手は2018年、春、夏と甲子園を2回経験しましたが、どんな経験を得ることができましたか?

奥川恭伸(以下、奥川) まず1回目のセンバツでは、[stadium]甲子園[/stadium]独特の緊張感を初めて味わってみて、[stadium]甲子園[/stadium]の凄さというのを学べました。
 夏の[stadium]甲子園[/stadium]では途中降板などいろいろアクシデントなどもあって、[stadium]甲子園[/stadium]で勝ち上がるのはとても難しいんだなということを思った大会になりました。

―― その後、奥川投手は2年生ではただ1人だけU18代表に選ばれ、アジア大会を経験しました。秋の奥川投手の投球を見ると、この経験を機にさらに凄くなった印象を受けるのですが、いかがでしたか?

奥川 テレビでしか見たことがない選手を生で見られて、例えば走ることにしてもスピード感をじかに触れられたのが大きかったかなと思います。

―― ほとんどのピッチャーがドラフト指名されましたが、どういうことを学びましたか?

 

奥川 根尾さんから球種を教わったりもしたんですが、自分の目でそのピッチャーを見られたのが、すごく大きかったと思います。投げる時の工夫とかもしっかり学べた合宿になりました。

―― 奥川投手は合宿では立教大戦、明治大戦、そしてアジア大会では香港戦、スリランカ戦と、4試合登板しました。奥川投手としては、どの試合が一番学びになりましたか?

奥川 個人的には明治大学戦かなと思います。投げてみて、全然通用しませんでした。その大会期間中、本調子ではなく、星稜の環境だと自分を全部解ってくれているコーチや監督さんがいて、バランスが崩れている時にはしっかり修正をかけてくれるところを、代表に行った時に自分で修正をかけられずにダメなままやってしまっていたので、大会通して、投球の内容は良くなかったです。
 それなかでも大学生のレベルの高さを感じて、まだまだだと痛感した試合となりました。自分はプロ野球選手を目指しているので、大学生にああやって打たれたことによって、高校生レベルでものを考えていたらダメだなと思いました。

―― 筆者もあの試合を観ていて、普通の高校生では打ち取れるだろうというボールが、けっこう粘られたりヒットになったりして、なかなか思うようにできないピッチングで、逆に勉強になったのでは?と感じました。

奥川 大学生は身体も大きくて、自分から見て今までのバッターの見え方ではなかったです。そういうことも含めて、今経験できたことはすごく大きかったと思います。

[page_break:最も理想的なピッチングができたのは明治神宮大会]

最も理想的なピッチングができたのは明治神宮大会

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北信越大会での奥川恭伸(星稜)

―― そういう経験を経て、奥川投手は秋の大会では大きくなって帰ってきました。まず印象的だったのは北信越大会の松本第一戦で『十者連続三振』というのがありましたが、どうしてそんなにうまくいったのでしょうか?

奥川 代表から帰ってきても、県大会もずっと不調が続いてぜんぜん良くなかったということで、フォーム改造に取り組みました。少し投げ急いでいたというところがあったので、そこを少し修正して北信越に臨んだんですが、いつも自分は大会の2日目、3日目に調子が上がってくるのですが、あの試合はちょうど2回戦で本当に良くて真っ直ぐで空振りを取れていたので、そこは真っ直ぐ中心で攻めていこうと考えました。

―― 投げ急いでいた時は身体が突っ込み気味だったということでしょうか?

奥川 少し早いというか、投球動作や体重移動が少し早くなってしまっていたので、修正をかけました。ボールが行かない時にちょっと投げ急いだりしてしまっているので、悪循環がありましたので修正しました。

―― 神宮大会のピッチングを振り返ると、スライダー、スプリットを見ると、これまでの試合と比べて変化球の変化量がすごく多くなったり、ストレートも威力というよりも回転数の高いストレートに変わったんじゃないかという印象を受けます。

奥川 意識して練習していたのもそうなんですが、[stadium]甲子園[/stadium]も自分が思った通りの投球じゃなくて、この前の神宮大会で初めて、公式戦で自分の100%の力が出せたかなと思っています。
 夏の時点でも、スライダーの切れもぜんぜん納得のいくものではなかったですし、調子の面で神宮では自分の力を100%発揮できたことが良かったです。

―― 奥川投手の決め球といえるスライダーですが、ご自身の中ではどんな役割を果たしていますか?

奥川 カウントを取るためのボール、決め球のボールと、メリハリをつけることを意識して投げていました。ただ、それを大学生を相手にやろうと思った時に、まだ難しいですね。
 高校生が相手だからできたことであって、カウントボールの質をもう少し上げていかないといけないと思います。

[page_break:「ボールの重みを感じるリリース」とは何か]

「ボールの重みを感じるリリース」とは何か

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奥川恭伸(星稜)

―― よくわかりました。驚異的な変化を生むスライダーの投げ方について聞いていきたいのですが、球種が分からないように、ストレートと同じように腕を振る感じでしょうか?

奥川 僕の場合、ストレートよりも強く振るというイメージです。ストレートは7、8割の力で腕を振る。変化球はストレート以上に腕を振るというイメージでやっています。
 どちらも10割で投げた時に、やはり変化球の方が腕の振りが遅くなってしまうと思うので、7、8割で投げるストレートの質をこれからもっと向上させて、変化球になった時には10割で腕を振って、自分が思ったコースに投げられるようにしていければ、もっと良くなるんじゃないかと思います。

―― もう少し、ストレートの投げ方について聞いてみたいのですが、まずストレートの握りやリリースで意識していることは何でしょうか?

奥川 僕はボールの重みを感じるリリースができるように意識しています。

――「ボールに重みを感じる」。初めて聞いた表現です。その感覚をもう少し詳しく教えてください。

奥川 僕の場合、手首がうまく使えないとロックした感じの腕の振りになってしまいます。連続写真で見ると同じように見えるかもしれませんが、実は感覚的に全く違います。理想はムチをしならせるように腕を振ること。肘がうまく使えて、回転の良いボールを投げられた時というのは、ボールの重みを感じることができるんです。[stadium]神宮[/stadium]大会では広島広陵戦の試合前のブルペンからその感覚で投げることができたので、良い状態で投げることができたと思います。

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広陵戦での奥川恭伸(星稜)

―― なるほど。そういう感覚を確かめるために日頃のキャッチボールから確かめているのでしょうか?

奥川 そうですね。キャッチボールではいろいろな方向から自分のフォーム、感覚をチェックしているので、キャッチボールから意識します。

―― そして神宮大会では135キロ前後のフォークも光っていました。

奥川 広島広陵打線の話を聞いて、これはフォークを投げないとまずいと思って、荒山コーチに相談をして、選抜前以来のフォークを解禁しました。うまくいったと思います。広島広陵打線は速球を打ちに行くときも、変化球を打ちにいく時も体をつっまず、しっかりとした構えからボールを見に行っているし、振ることもできている。芯に当たれば強い打球がいく怖さがありました。いずれ対戦するチームだと思うんですけど、次当たった時はかなり苦労するかなと思っています。

―― 高速フォークは奥川投手にとって大きな武器になったと思います。やはりこのフォークをブラッシュアップすることが課題になりますか。

奥川 そうですね。今の精度ではまだまだだと思いますし、やはりレベルアップをさせる必要があります。球種も増やそうかなと考えたんですけど、今の自分にとっては今ある球種をレベルアップさせることが大事だと考えています。

 前編はここまで。話を聞いていると、自分のピッチングの意図、立ち位置をしっかりと把握している。高校生でこれほどの野球頭を持った投手はなかなかいない。
 今度は奥川投手を目にした人ならば誰も気になるステップ幅が狭い投球フォームを貫く理由や、奥川投手の野球頭の良さの原点について迫っていきたい。

 高次元なピッチングは理解力の高さから生まれる!奥川恭伸(星稜)【後編】 へ続く!

文=河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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