名打撃コーチ・石井琢朗が高校球児へメッセージ「自分がなりたい打者像を見つけよう!」【後編】
プロ野球界きっての打撃コーチとして評判の東京ヤクルトスワローズ・石井琢朗コーチ。現役時代は通算2432安打を放つなど、アベレージヒッターとして活躍。2012年に現役引退後は広島東洋カープの内野守備・走塁コーチに就任し、2016年から広島の一軍打撃コーチを務めた石井氏は2年連続の優勝に貢献。そして今年から東京ヤクルトスワローズの一軍打撃コーチに就任し、2位に進出するまでにチームを成長させた。
石井コーチが打撃コーチに就任した3年間は、いずれも強打のチームを育て上げている。
2016年 打率.272 153本塁打 684得点 すべて1位
2017年 打率.273 152本塁打 736得点 すべて1位
2018年 打率.266 135本塁打 658得点 打率はリーグ1位、得点はリーグ2位
前編では選手への指導法を伺ったが、後編の今回は振る力の大事さや高校球児に向けてのメッセージを頂いた。
3年連続チーム打率1位!名打撃コーチ・石井琢朗が語る「振る力の重要性」【前編】
対応力は打撃練習で 振る力は素振りで
ユニフォーム姿の石井琢朗打撃コーチ
ーー 試合となると、いろんな対応力をつけたいとか、対応力を広くしたいという選手もいると思いますが、そういう選手に対してはどういうアドバイスをしているのでしょうか?タイミングを取ることというのは大事だと思うのですが。
石井琢朗打撃コーチ(以下、石井) もちろん、『自分のタイミングをしっかり確立している』ということが第一条件だと僕は思います。フォームより。もちろんフォームというのは大事なんですけれども、フォームを意識するだけでは、ボールは打てないと思うので。
ーー タイミングの取り方はもう、自分なりに掴んでいくという感じですか?
石井 僕はもう人それぞれだと思います、タイミングの取り方というのは。こうしなさい、というのは無いので。自分とタイプが合えばその指導で合うかもしれないですけど、僕は指導の仕方というのは個々違うと思っているので、それはもう自分で確立していかないと。
結局、野球というのは『間』のスポーツなので、相撲の間合いじゃないですけれども、ピッチャーが投球動作に入って、自分が打つまでの『間』というかその空間を・・・空間のスポーツなので、その中で自分の間合いというか、タイミングをいかに取れるかということですよね。
ーー 今年からヤクルトの打撃コーチになって、取り組み方というのは広島とあまり変わらないのでしょうか?
石井 変わらないですね、基本的な部分は。ただやはり、個々のポテンシャルだったりとかいうのは全然違いますけど、ベースとなる部分は一緒です。
あとは個人で、気づいたところと、それプラスアルファでの指導だったりというのはありますけど、振らせるということに関しては何の変わりもないです。
[page_break: 一打席にかける高校野球のスタイルは野球選手として真の姿]一打席にかける高校野球のスタイルは野球選手として真の姿
「今が大切!」と色紙に書いた石井琢朗打撃コーチ
ーー 攻撃だと“点を取る”というスポーツになるので、非常に進塁だとか状況判断に応じたバッティングが、高校野球は大事にされるのですが、そこはいかがでしょうか。
石井 そうですね。僕の目指してるところはそこなんですよ。原点は。プロになって一番疎かになってくるのはそういうところだと思うので。
どうしてもやはり「今日失敗しても明日がある」「今日負けても明日また試合はある」という中で、一試合だったり、ワンプレーだったり、1打席というのはどうしても無駄に終わってしまうというか、疎かになってしまうというのがプロ野球だと、僕は思っているので。
もちろん個人個人で年棒がありますし、数字の世界なのでそれなりに数字を残さなきゃいけない。残すためにはどういうバッティングをしなきゃいけないか、その中にもやはりケースバッティング、チームバッティングというのが入ってくるわけですけど、ただやはり「この試合に勝たないと!」「この試合で終わってしまう!」という気持ち、勝ちに対する執念だったり、1打席にかける執念だったり、「この試合で最後かもしれない!」というところに比べると、プロ野球というのは高校野球よりも薄いと思うんですよね。
だからWBCだとかオリンピックだとか、日の丸を背負って日本代表として、他国の選手たちと戦ってる姿、あれこそが真の姿だと僕は思ってるんで。
だって普段ヘッドスライディングとかしないような選手が、一生懸命一塁に全力疾走してヘッドスライディングするじゃないですか。みんな必死じゃないですか。負けられないというか、負けたら終わりというのがあるので。あれが“あるべき姿”なんじゃないかなって。
もちろん百四十何試合あって毎日続けるのはきついですけども、でもやっぱり僕はそこが原点だと思っているので、そうなってくるとケース打撃だったりチームバッティングというところも、もう少ししっかりとした形ができてくるんじゃないかなと思います。
ーー これはもう執念というか、何としてもしたいという思いの方が大切ということなのでしょうか。
石井 そうなんです。ただ「右打ちしなさい」とか「右に転がしなさい」とか言うんですけど、先ほども言いましたが『形』って、もうこうれをしたら絶対できるっていう『形』って無いんですよ。人それぞれ身体の造りも違いますし、細かいことを言ったら軸の使い方も全然違うので。
ただやっぱり「右に絶対に転がしてやる!」「向こうに打たなきゃいけない!」っていうしっかりとした意思があれば、そういう形って後から自然にできてくると思うんですよ。
だからそういうところから、話が最初に戻るんですけど“形から入らない”って。とにかく意識ありきなんで。意思があるところにしか形はできないと思ってるんで。
[page_break: 自分にあった打撃理論を見つけ、振る力を身につけよう]自分にあった打撃理論を見つけ、振る力を身につけよう
腕を組む石井琢朗打撃コーチ
ーー 最近の日本の野球はけっこうメジャーの考え方が流行るというか、メジャーで結構フライボールが上がってるんですけど、そこってプロ野球でも浸透するということもあるんですか。
石井 いろいろ取り入れてますよね。メジャーリーグで使われているバッティング理論がどんどん導入されてきたりだとかってしてるんですけども、それはそれで全然構わないと僕は思うんですよ。
いろんな理論があって、やっぱり正解が無いんで。その理論に合う選手がいれば全然やっても構わないと思いますし。ただやっぱり、身体の造り、身体の使い方によっては全然機能しないと思いますし。
やはり環境というか、どうしてもメジャーリーグと、NPB、日本の野球って土壌が違うので、生まれながらにしてアメリカの野球というかメジャーの野球というところから教えてきてもらってる選手たちはそれが当たり前、その理論が当たり前になってきている部分というのはすごくあるので。
今でこそいろいろ近づいてきている部分というか、実力的に遜色ないんじゃないかなと僕は思ってるんですけれど、パワーという部分で、どうしてもメジャーリーグというかアメリカの野球というのは“力勝負”という印象が強くて。そうなってくるとフライボールにしても、バッティング理論ひとつにしても、やはり強いピッチャーに対して力負けをしないバットスイング、バッティング理論というのが絶対あるんですけど、それはそれで、速い真っ直ぐに対して力負けしないバットスイングというのがおそらく主流でできている理論というのはあると思うんです、メジャーリーグは。
ただやはり日本のプロ野球って考えた場合、もちろんそういうピッチャーもたくさんいるんですけど、どうしても変化球が主流。
いろんな変化球に、バッターとすれば対応しなきゃいけないバットスイングというかバットコントロールというのは絶対あるわけで、力負けしないスイングだけだと対応しきれない部分というのはあるんです。より対応するバットスイング、バットコントロールというのが、日本の野球の形というか。
そうなってくると、技術的なことを言うとよく『ダウンスイング』とか言うんですけど、ダウンスイングが全ていいとは僕は思わないんですけど、ただバットを内側から出すっていう打撃理論というのは理にかなってるというか。いろんな変化球に対応するためには、ヘッドが先に出てきたら対応できないので、ヘッドを最後まで残してきて最後にヘッドが返るっていう。よく「バットを内側から出しなさい」っていうバッティング理論というのは、日本の野球に対応していくためには絶対に必要なバッティング軌道というかバットスイングだと思います。
ヘッドが先に出てもいいからとにかく力負けしないようにバットスイングを速くする、というメジャーリーガー式、アメリカ式のスイングというのは、それはそれで力負けしないためには必要なスイングだと思います。
一番いいのは、両方兼ね備えたスイングができるというのが最強のバッターなんじゃないかなと思いますけどね。
ーー ありがとうございます。それでは最後に、レベルアップを願う高校球児へメッセージをお願いいたします。
石井 小さくまとまらないと言ったらアレですけど、自分の力量なり形なりというのは早いうちから決めて欲しくない。おそらく可能性というのはまだまだ無限大で、伸びしろはあると思うので、その可能性を活かすための形というか、自分の形を身に着けてもらいたい。
そのためには形から入るんじゃなくて、まず自分がどう成りたいのかという意志が大事なので、そこからですよね。
ーー 振るということも大事ということですよね。
石井 もちろんそうです。スイングスピードをつけたい、力をつけたいというんだったら、まず振ることです。
振るにも土台、下半身ですよね。どうしても遠くに飛ばす、力で飛ばすとなると、メジャーリーガーなんかはそうなんですけど、上体の力が強いからあそこまで飛ばせるんですけれど、日本人というか東洋人は絶対下半身主導なんですよ。だから下半身がしっかりしていないと強いスイングはできないと僕は思うので、走り込めとまでは言わないですけど、やはり速いスイングをする、力強いスイングをするというのは、バランスだと思うんです。下半身と上半身のバランスだと思うので、下半身からしっかり連動して上半身に伝わる。
そういう意味でも『走る』というのは基本中の基本だと思ってるんです。バランスが良くないと人間って走れないので。左右対称じゃないですか。そういう意味でも『走る』ということは大事ですし、もちろん走る中で下半身を鍛えることはもっと大事ですし、そういう土台、基本をしっかりした中で『振る』というところを意識してやってもらいたいという気はします。
文=河嶋 宗一