Interview

「強い人間性」で150キロ・高卒プロをつかみ取る 加茂 優太(藤井学園寒川2年・投手)

2018.12.12

 「タイプとしては大学の後輩・入来 裕作(現:福岡ソフトバンクホークス3軍コーチ)タイプ。彼と同じように荒削りのよさは持っていながら、バランスでも投げられるようにしてほしい」。現役時代は松山商(愛媛)、亜細亜大で捕手を務め、松山商コーチ、京都翔英(京都)監督などを歴任し2012年秋には近畿大会優勝。翌年センバツで京都翔英を初出場に導く采配も発揮。そして今年4月から藤井学園寒川コーチに就任した太田 弘昭コーチは彼のことをこう評する。171センチ70キロのサイズにして最速147キロをマークする加茂 優太藤井学園寒川2年)がその人だ。

 では、そんな加茂はいかにして今の姿を形づくり、どこを目指そうとしているのか?四国地区高校生最速右腕が自らを語った。

藤井学園寒川で急激に伸びた球速

「強い人間性」で150キロ・高卒プロをつかみ取る 加茂 優太(藤井学園寒川2年・投手) | 高校野球ドットコム
ブルペン投球をする加茂 優太(藤井学園寒川)

―― プロフィールにもある通り中学時代までは本人曰く「最速128キロくらい」だった加茂投手ですが、なぜ高校に入ってから20キロ近く球速を伸ばしたのですか?

加茂優太投手(以下、加茂):僕は高校入学時に「甲子園に出てプロに進める選手になりたい」と思っていましたし、入学時の練習試合では130キロ前半のストレートを合わされることが多かったので、球速を上げることを最初の課題にしました。

―― 具体的にはどのような練習をしたのですか?

加茂:当時はまだ自分に知識がなかったので、チームの練習についていくことを第一に考えました。特にウエイトトレーニング、下半身のスクワットはコーチと一緒になって冬は一番取り組んで入学時に100キロ×10回だったものが、今では1回だけなら200キロ、10回なら160キロ上げられるようになりました。結果、下半身の安定感が変わってきたと思います。

―― チャンスはいきなり巡ってきました。1年夏の香川大会初戦で「18」をもらい、チームは観音寺総合に4対9で敗れましたが、加茂投手は3番手で公式戦初登板を果たします。

加茂:試合前は球場やグラウンドの雰囲気に圧倒されたんですが、いざマウンドでは点差も離れていたので緊張せず投げることができ、球速も135キロ。練習試合でも133キロが最高だったので、気持ちが球速に出たと思います。怖いものなしで投げられました。

―― ただ、ここからは少し苦しみまず。

加茂:そうです。夏を終えて右足首を痛め、次に右ひじを痛めて秋も1年生大会も投げることができなかったんです。でも逆にそれがあったから、1年冬はウエイトにも取り組みましたし「練習の質を上げる・1個1個のメニューを無駄にしない」を繰り返せたと思います。

―― その取り組みが2年春の「147キロ」につながったわけですね。

加茂:それでも春の香川県大会前は調子が悪かったし不安があったんです。ただ、実際の大会では初戦の尽誠学園戦が延長戦になったことで登板機会ができ、力を出せたんです。

―― 「力を出し切れた」手ごたえはどこで感じましたか?

加茂:ボールを離すときの指の感覚です。ボールが指の腹だけでなく先まで乗っていました。それで春は「147キロ」。相手打者が今までになかった振り遅れをして、ストレートだけで勝負できました。

―― その後も加茂投手は抑え役で1~3回を投げ続け、チームは準優勝。(佐竹 茂樹)監督さんの起用法も加茂投手にとっては大きかったのでは?

加茂:「リリーフだからこう作る」ということは意識せず二死満塁の場面での登板でも「今まで練習でやってきたことを出す」と、練習中かた短い時間で集中してきたことが成果として出ました。

[page_break:「バランスと腕を振る」を学んだ大阪桐蔭戦と2年夏]

「バランスと腕を振る」を学んだ大阪桐蔭戦と2年夏

「強い人間性」で150キロ・高卒プロをつかみ取る 加茂 優太(藤井学園寒川2年・投手) | 高校野球ドットコム
藤井学園寒川・太田 弘昭コーチ(左)と加茂 優太(2年・投手・右)

―― そして加茂投手といえばストレートに加えてスライダーの切れ味が特徴です。

加茂:スライダーは中学時代から得意な変化球だったので、高校に入って握りを変えたことはありませんが、ストレートの球速が上がったことでスライダーも球速が上がり、高速スライダーになった感じです。

―― 他の変化球はどうですか?

加茂:カーブはほとんど投げていなくて、夏以降に取り組んでいるのは3本指を使って投げるチェンジアップ。ストレートとフォームを変えずに投げられるのでいいですね。

―― そのチェンジアップ習得に至ったきっかけは?

加茂:6月の大阪桐蔭戦です。春以降先発を練習試合で経験しても状態が上がらない中で迎えた試合だったんですが、指にかかったストレートは通用しても少しでも自分がバランスを崩したボールになると打たれる。全国トップクラスのバッターと対戦できていい経験になりましたし、「完成度を高めないといけない」と感じました。

―― ちなみに大阪桐蔭の打者と、小中学時代に対戦した経験は?

加茂:中川(卓也)さん(早稲田大進学)とは小学校時代に対戦したことがあるんですが、その時はすごかったです。その意味では少しは当時から追いつけた感じはしました。

―― そういった大阪桐蔭戦を経て、さらに意識を高めた2年夏へ。この時期までに先輩投手たちから学んだことも多かったのでは?

加茂:髙橋(直希・3年)さんからは投球の際にしっかり立つことやコントロールのつけ方。山岡(龍弥・3年)さんからはスリッパの並べ方からゴミ拾いまで。寮生活を学びました。

―― 2年夏、チームは3回戦・甲子園に出場した丸亀城西に延長で敗退。9回・相手エースの大前 輝明(3年)に同点ホームランを打たれたのは加茂投手でしたよね。

加茂:ベストでない姿で夏の大会に入ってしまったことは、今でも反省しています。大前さんに打たれたホームランも置きに行ったストレート。あそこで腕を振れなかったことが自分の弱さです。
 でも先輩方は自分のせいで負けたのに「次に向けて折れずにやってくれ」と言っていただいた。その言葉は今も力になっています。

[page_break:2019年は「高卒プロ入りへ」勝負する]

2019年は「高卒プロ入りへ」勝負する

「強い人間性」で150キロ・高卒プロをつかみ取る 加茂 優太(藤井学園寒川2年・投手) | 高校野球ドットコム
加茂 優太

―― 秋はベンチ入りを逃し、みんながベスト4入りで権利を獲得してくれた11月の香川県高野連招待試合・報徳学園(兵庫)戦が公式戦初登板。それでも最速144キロを終盤に出しました。

加茂:この試合にかけていた部分が大きかったのですが、初回は変化球が入らず。最終回にはスタミナが切れてしまいました。チェンジアップの習得もまだまだ。反省点が多い中で練習試合とは違う雰囲気で投げられたことが収穫だったと思います。もっと頑張らないといけないですし、高卒で一番レベルの高いところに行くためにも冬は勝負だと思っています。

―― そのために必要なことは?

加茂:これは昨年、山岡さんに言われたことなんですが……。「人間性」だと思います。人間性がないと150キロも出ないし、勝てない。逆に人間性が備わればそれはできると思います。そして全部自分が投げてチームが勝てるようにするために、インコースの厳しいところにストレートを投げられるようにしたいです。

―― ライバルとしている投手はいますか?

加茂:香川県内であれば英明の黒河(竜司)くんや高松商の香川(卓摩)くん。僕はまだまだですが、去年から投げ合っている相手なので負けたくないですし、1番になれるように頑張りたい。
 そして創志学園(岡山)の西(純矢・2年)くん。彼は1年夏からすごいし、今は全然かなう相手ではないけど、最終的には追い越したい。MLBだとペドロ・マルティネス(元:ボストン・レッドソックス)のような打者を抑えられる投手になりたい。侍ジャパンも簡単なことではないけど、一日一日を大事にして目指していきたいです。

―― では最後に2019年に向けて、自分をアピールしてください。

加茂:皆さんには打者が球速表示以上に振り遅れる、手が出ない僕のストレートを見てほしいです!

―― 力強い意気込み、ありがとうございました!

加茂:ありがとうございました。

(エピローグ)
 佐竹監督は報徳学園戦後、こう加茂の近来について明かした。「冬は肩から先のスタミナをつけて、強弱をつけられるようにしたい。いい投手になるためのメドは立ちました」
 となれば、「幾多の」困難と「最後の冬」を乗り越えた先にあるには150キロと高卒プロ入り。そしてもちろん、彼が藤井学園寒川を選ぶきっかけになった2015年夏以来の甲子園出場・初勝利を目指して。「かも・ゆうた」の名が真に四国へ轟く日は、もう目前に迫っている。

加茂 優太(かも・ゆうた)
171センチ70キロ・右投右打・投手
 2002年12月12日生まれ・大阪府大阪市平野区出身。徳島県で野球をしていた父の影響で平野ベースボールクラブ(軟式)で投手として野球を始め、大阪市立加美北小5年時に東大阪布施ボーイズに移籍。大阪市立加美中では自宅に近い大阪生野リトルシニアに入団し同じく投手。中学全国大会の出場はなく、当時の最速は128キロ。
 高校は「もっと野球に打ち込める環境を求めて」香川県・藤井学園寒川へ入学。入学時から130キロ前半をマークすると、1年夏に背番号「18」で香川大会登板し最速135キロ。1年秋は右ひじを痛め登板は果たせなかったが、2年春には試合終盤の登場で最速147キロと順調に球速を伸ばし香川県大会準優勝に大きく貢献し、春の県高野連招待試合・大阪桐蔭(大阪)戦でも先発登板。2年夏も豊富な投手陣の抑え役として最速145キロを連発した。
 秋は県大会では登録を外れるも11月の県高野連招待試合では先発で7回までは報徳学園(兵庫)を5安打1失点に抑える奮闘で復活を印象付けた。

文=寺下友徳

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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