九州に現れた本格派右腕・浅田将汰(有明)の思考を読み解く!【前編】
九州地区を代表する投手として見逃せないのが有明(熊本)の浅田将汰だ。清水達也(花咲徳栄-中日)を彷彿とさせるようなテークバックが大きいフォームから繰り出すストレートの最速は147キロ。ブレーキングが利いたカーブ、曲がりが鋭いスライダー、チェンジアップなどを巧みに投げ分ける実戦力の高さもある。そんな浅田の成長の秘密をたどっていくと、高校生としてはかなり意識が高い選手であることが分かった。
有明高等学校との出会い
インタビューに答える浅田将汰(有明)
出身は福岡県飯塚市、中学時代は飯塚ボーイズのエースとして投打に活躍、また九州代表として世界大会も経験している浅田将汰。中学時代から注目されてきた本格派右腕が選んだ進学先は有明高等学校だった。
なぜ有明を選んだのか?この素朴な疑問に、浅田は「秀岳館がずっと[stadium]甲子園[/stadium]に行っていたので 、秀岳館を倒さないと[stadium]甲子園[/stadium]に行けないと思い、 有明高校に入って[stadium]甲子園[/stadium]を狙おうと思って決めました。」と淡々と答えてくれた。
この志望理由も実に浅田らしい回答だった。「[stadium]甲子園[/stadium]常連校に入り[stadium]甲子園[/stadium]を目指したい」ではなく、あえて有明に入り、浅田が中学時代に[stadium]甲子園[/stadium]を沸かせた強豪・秀岳館を倒し、[stadium]甲子園[/stadium]に行きたいと言うのだ。
以前、岩村明憲がメジャーリーグに挑戦したときに座右の銘として「何苦楚(なにくそ)魂」と語ったことがあった。この言葉を英語で「苦なくして前進なし」と説明していたが、この「何苦楚魂」こそ、浅田の根底にあるものだと思う。
この浅田を形成する「何苦楚魂」は、学校選び以外でも一貫している。
佐々木朗希(大船渡)・西純矢(創志学園)には負けたくない!
左:佐々木朗希(大船渡) 右:西純矢(創志学園)
「自分の性格は負けず嫌いです。特に野球だけは絶対に負けたくないというのはあります。」と語った浅田が意識する同世代の球児は佐々木朗希(大船渡)・西純矢(創志学園)である。
佐々木に対しては、「球速だと今年157キロを投げた佐々木だけには絶対負けたくないのでどうしても157キロを超えられるように、今年の冬は頑張りたいと思います。 」
そして、西については「中学の時に練習試合をして西純矢と投げ合って、その時に負けてしまって、西が高校で先に[stadium]甲子園[/stadium]に出たので、次は一緒に夏[stadium]甲子園[/stadium]で投げて戦って勝ちたいなと思います 」と語った。
やはり、会話の端々から何苦楚魂を感じる。
大局的な視点を取り入れた目標設定
浅田将汰(有明)
何苦楚魂と言えば、それで終わりだが、今回は更に浅田を掘り下げてみたいと思う。浅田のこの何苦楚魂は、言い換えれば常に目標設定をしているとも言える。
倒す相手を決め、目標を定めてそれに向かって進んでいくのである。ただ、それを単に手短なところから安易に持ってくる目標設定でないところに、浅田の凄さの秘密がある。
浅田は、いつかMLBの舞台で大谷翔平と対戦したいと語ってくれた。来年の高校最後の夏の大会の目標どころか、ずいぶん先の目標となる。ただ、その目標と現在地を浅田は結びつけ、そして各地点にマイルストーン(チェックポイント)を設定するのである。
最終目標に行くまでに、設定した多くのマイルストーンの一つが
“秀岳館を倒す”
“佐々木を抜く”
“西に投げ勝つ”
なのである。
目標だけを掲げていると、現在の自分の場所がわからなくなったり、目標を見失い安くなる。ただ、マイルストーンを設定してあれば、大きな目標までの小さな目標となり、最終目標を達成しやすくなる。
最終目標がある上で、何苦楚魂を上手に利用してマイルストーンとして設定しているのが、浅田の非凡な才能の一つと言える。
[page_break:マイルストーン設定に役立った野球ノート]マイルストーン設定に役立った野球ノート
野球ノートを読み返す浅田将汰
目標設定に対して、アプローチし続ける原動力は何苦楚魂である。目標設定と原動力の継続に一役買っているのが野球ノートである。
浅田は、「ノートは悔しさを思い出させるものです」と話してくれた。原動力の継続に役立っているのである。
そしてもう一つ、目標の気付きや、目標への現在地の確認、進むべき方向の修正にも、野球ノートはとても役立っている。浅田の野球ノートを一部抜粋してみる。
4月2日(月)
1回からチャンスだったけどあと1本が出なかった。3回は相手のバッターは投手からだった。投手だったから少し集中力がきれた部分もあった。そのあと、バッテリーミスもあり2点取られた。先頭バッターにファーボールで出さずに抑えていたら、3回はせめて1点で抑えられたかもしれない、たとえ投手がバッターでも集中してなげる。
<中省略>
自分をしっかり鍛え上げる!チームのみんなに勝たせてあげられなくて申し訳なかったし、悔しかった。
4月2日に書いた野球ノート
この思いに、中野賢哉部長も正面からぶつかり回答している。
エースはチームを勝たせることが仕事。まだまだ成長しなくてはチームを勝たせられない。3回の2失点は四球とパスボール、バッテリーのせいだ。
夏までに課題
・ストレートの精度を上げる (打たれたボールは高い甘い球があった)
<以下省略>
この、正直な気持ちのぶつかり合いのやり取りの中から、浅田が多くの気付きを得て、中間目標をその気付きから作ったり、目標への自分の現在地を確認していることは容易に想像できる。
さて、ここで浅田を紐解く前編をそろそろ終えようと思う。
浅田の魅力は、何苦楚魂、そして長期的な目標から落とし込み、短期的な目標を作れるという点である。後編では、会話から見る浅田の魅力に迫りたいと思う。
取材=田中 実