Interview

「野球に対する考えが180度変わった」米倉貫太(埼玉栄)が歩んだ「確かな3年間」

2018.10.21

 今年の高校生投手で将来性を高く評価されている投手が米倉貫太埼玉栄)である。184センチの長身から投げ込む投球フォームは埼玉栄・若生監督から大絶賛を受け、ダルビッシュ有と比較されながらの3年間だった。実際にグラウンドに立った時の出で立ち、ピッチング練習を見れば、華があり、だれも惹かれるスター性を備えている。そんな米倉はこの3年間をどう過ごしたのか?成長できたこととは。自身の言葉で語っていただいた。

投手育成名人・若生監督を慕い、埼玉栄へ

「野球に対する考えが180度変わった」米倉貫太(埼玉栄)が歩んだ「確かな3年間」 | 高校野球ドットコム
キャッチボールをする米倉貫太

 野球を始めた時から才能は際立っていた。小学3年で野球を始めて、小学校5年から投手となった米倉。コントロールは悪くても速球を投げることには自信があった。浮羽ボーイズ(福岡)の3年間で急成長を見せる。中1当時、身長168キロ、115キロ程度だったのが、中学3年生になると、183センチまで伸び、球速も130キロ後半に達した。

 そして中学3年時には県選抜に選ばれ、アメリカ選抜と対戦した。アメリカ選抜は九州に遠征しており、九州各県の選抜チームと対戦しながら北上していくスケジュールだった。その米倉がこの国際試合で輝きを放つ。米倉は2試合に登板し、その登板1試合目に先発した米倉は、9回一死まで無安打無得点の快投を見せた。

 「糸島ボーイズのグラウンドで僕は投げたんですけど、最初の目標が4、5回でした。ただ無安打できていて、それでヒットを打たれたら交代となっていました。9回一死で無安打が途切れたので、そこで代わったって感じですね。自信になりましたし、選抜に選ばれている選手はレベルが高い選手ばかりですので、いろいろ学ぶことができました」

 そして進路に埼玉栄を選んだのは、若生正廣監督は九州国際大付の監督時代から米倉に目をつけていたこと。また米倉も若生監督がダルビッシュ有をはじめ、さまざまな投手をプロに送り込んでいる話を聞いて、「(若生)監督さんの下で学びたいと思いました」と福岡を出ることを決心する。

 若生監督からは様々なことを学んだ。指導は投手論だけではなく、野球以外についても及んだ。
「自分は野球のことでは知識がゼロという状態で埼玉栄に入ってきて、野球以外でも色々なことを教えてもらったので良かったと思っています。中学校の時はただ投げてるといいますか、感覚だけでやっていたので、体の使い方や配球など、ほとんど何も考えずに投げてばかりでした」

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所沢商戦での米倉貫太

 特に3年間言われ続けてきたことは体重移動だ。

「しっかり沈み込んでから、体が浮きすぎず、打者へ向かって並進運動をしていくことなんですけど、ちょっとでも上に上がったりすると力が逃げていきますので、イメージとしては体重移動を一番に考えていましたね。そうすることで、監督さんからは下半身も粘れた状態で投げれると言われてきました」

 ただ実際には難しかった。

 「まだ1年生の時は、体も全然出来ていなかったので、難しかったんですけど、体が出来てきてからは球速も上がったり球の質とかも変わってきたので良かったと思います」

 そのためによくやったのが股関節の柔軟体操。いわゆる股割りである。実際に米倉に股割りをしてもらうと、地面に180度開く。画像を見ていただければその柔らかさを実感するはずだ。

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驚異の柔軟性を見せる米倉貫太

 最初は全然つかなかったようだが、股関節の柔軟性が出てきたことで、「力が伝わりやすくなったことで、怪我がしにくいです」と効果を実感。振り返れば、米倉はこの3年間、怪我はほどんどなかった。こうするとじっくりと投手スキルの向上に励むことができる。

[page_break:米倉が語る自身のピッチングスキル]

米倉が語る自身のピッチングスキル

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インタビューに答える米倉貫太

 投手については若生監督だけではなく、若生監督の教え子もコーチとしてグラウンドに訪れた。そこで、学んだことを記述していく。

 ■フィールディング
 速くて正確な球を投げるためにステップ、ボールまでのダッシュ、投げ終わりを教えていただきました。投げ終わりをしっかりすれば次に反応しやすいので、投げ終わった後、素早く移行することを意識しています。

 ■クイック

 クイックはどうしても素早く投げないといけないイメージがあるんですけど、タイムを縮めて投げようと意識しすぎると、頭が突っ込んで棒球で打たれてしまうということがあるので、意識しているのは軸足にしっかりと体重を乗せて、投げることをイメージしています。

 ■牽制

 牽制についてはコーチの方に、色々なパターンを教えていただきました。結構僕自身、得意で、走者を刺すことができていたと思います。

 1つ1つのスキルを覚えていくうちに、「投げる楽しさを実感しました」と笑みを見せる米倉。

 1年夏は「まだ何も考えずに投げているだけだった」と振り返るが、3回戦の川越東戦で4回無失点の好投を見せるなど、計8.1回を投げて1失点と、上々のデビューを飾り、順調にステップアップ。

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県立浦和戦での米倉貫太

 そしてエースとして臨んだ2年秋。「高校で投げた公式戦では、ベストピッチングに入る試合だった」と振り返るのが、3回戦の県立浦和戦だ。最速142キロのストレートとブレーキが利いたカーブを投げ分け、4回パーフェクト、9奪三振の快投を見せる。

 「あの試合は、どちらかというと勝手に良くなったというか、ストレートとフォームを意識した結果、変化球も活きるようになってきた試合でしたね。フォームの動きも良かったと思います」

 また、米倉はストレートを投げる際、リリースの音が聞こえるといわれる。その秘密について探ってみた。

 「リリースは人それぞれ感覚があると思うんですけど、僕の場合、指のギリギリまで使って弾き出すようにリリースをしていきます。

 最初は押し出すリリースで投げていました、ただそれだと、少しボールが垂れてしまいますので、中距離キャッチボールをやっている中で、回転数を上げて弾き出す意識をしたら結果音が鳴るようになりました」

 変化球では「すべて縫い目にかけて弾くことを意識しています」と語る。たとえばカーブ。

 「僕はスライダーとカーブの中間球であるスラ―ブ系なんですけど、指先というか中指の内側で全体でかけている感じです。
 よく変化球は抜いて投げろと言われるんですけど、僕の場合、抜くと腕の振りが遅くなって、ばれてしまいますので、引っ掛ける感じにしています」

 また、スライダー、チェンジアップ、フォーク、シンカーも投げることができ、フォーク以外は縫い目にかけながら弾くことを意識しているようだ。
 こうやって話を聞くと、米倉は自分の動きに対して言葉にして具現化することができる。指導者の指導に耳を傾け、自分のものにしている証拠である。

[page_break:夏は4回戦敗退 それでも3年間で得たものは大きかった]

夏は4回戦敗退 それでも3年間で得たものは大きかった

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米倉貫太のブルペンの様子

 実戦が始まっても、調整が進まない。

 「あの時はいろいろ考えていて、フォームもぐちゃぐちゃになっていましたね。考えすぎていたっていうのはあるんですけど、そこから春でワインドアップにしたり、試行錯誤しながら取り組んでいましたね」

 3年春の県大会・熊谷工戦では、4回9奪三振の好投を見せるが、準々決勝の山村学園戦では、8回7失点のコールド負けを喫し、そして夏になっても、本来のピッチングはできなかった。

 2回戦の細田学園戦では2失点完投勝利を挙げたが、4回戦の川口市立戦では5回5失点で、米倉の夏は終わった。

 「自分の納得した結果を出せなかった。自分が中学校の時に思い描いていた高校野球ではなかったです」

 甲子園にいって、快投を見せて、150キロを出して、吉田輝星のような注目を浴びて…。投手ならば誰しも描くような野望を米倉にも秘めていたが、それがなかなか実現できないのが野球の難しさである。

 それでも米倉が埼玉栄の3年間で得たものは大きかった。

 「昔と今では全く180度野球に対する考えが違うので、そこに関しては甲子園に行けなかったんですけど野球人として色々な事を学べたかなと思います」

 と胸を張る。夏が終わると、米倉はウエイトトレーニングを中心に体づくりに励む。184センチ83キロと夏よりも5キロほど増加し、「現役時のマックスの体重は83キロでしたが、その時よりも筋肉量は増えていますし、実際にピッチングをしていても夏の時よりもかなり状態は良いです」と充実した毎日を送っている。また、精力的に取り組むのは若生監督のアドバイスがある。

 「監督さんから高卒プロで活躍したいならば、夏が終わってからキャンプインするまでが一番伸びる時期だから今が大事といわれて、1日1日に大事に取り組んでいますし、僕自身、自分で考えて取り組めているので、合っていますね」

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チームを勝たせるピッチングを目指す!

 状態の良さは日々のピッチング練習でもうかがえる。取材日のブルペン練習では30球投げたが、力感がなくても、力強いストレートを投げ込み、ボールを受けていた捕手・庄司遥登(2年)から「米倉さんのストレートは本当に軽いフォームから、一気にボールが来るので、捕りにくいんです。状態は良いです」と絶賛していた。

 だが米倉は満足していない。「ブルペンでは歩幅が広すぎて、まだボールに力を伝えきれていません。自分に合った歩幅で投げられるようにしていきたい」とさらなる上達を目指している。

 プロではどのポジションでも勝てる投手を目指す。

 「やはり結果も大事ですけどチームを勝たせるピッチングをしたいです。これまで負けないピッチャーが1番目指していたところですので、それを目指してやっていけば成長できると思うので、勝たせて負けないピッチャーになっていきたいと思います」

 米倉自身、3年間の内容は満足していないだろう。だが、米倉の投手人生はまだスタートしたばかり。これから甲子園で活躍したピッチャーを追い抜く可能性を持っている。若生監督と二人三脚で歩んできた3年間が実りあるものだったことを証明するために、必死の覚悟で、同世代のトップに昇り詰める。

 プロで活躍する。それが若生監督へ最大の恩返しとなるのだ。

文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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