Interview

退部危機乗り越え 甲子園を強く見据える 渡邉勇太朗(浦和学院)【前編】

2018.10.19

 今年のミレニアム世代で大物と期待されるのが、渡邉勇太朗浦和学院)だ。190センチ90キロと恵まれた体格から投げ込む投球フォームは大谷翔平(エンゼルス)にそっくりといわれ、さらに149キロのストレートと多彩な変化球で勝負する大型右腕である。そんな渡邉の3年間は挫折を乗り越えたものだった。まずは下級生の歩みから振り返っていこう。

浦和学院の寮生活、早朝練習の過酷さは想像以上だった

退部危機乗り越え 甲子園を強く見据える 渡邉勇太朗(浦和学院)【前編】 | 高校野球ドットコム
インタビュー中の渡邉勇太朗

 剛腕・渡邉勇太朗の野球との出会いは小学校1年生から。小学校に入る前から兄とキャッチボールをしてボールに触れる日々。投手を始めたのは小学4年生から。

 そして羽生市立東中に進むと、投手として頭角を現す。2年夏には埼玉県大会で優勝を果たし、関東大会へ出場した。さらに渡邉は身長も中学入学から大きく伸び、166センチから中学3年には185センチまで伸び、球速も「そんな速くないですよ」と渡邉は謙遜するが、最速133キロ。将来性の高さは多くの高校関係者から注目された。その中で渡邉が選んだのは浦和学院だった。

 渡邉の6歳上の兄が浦和学院の選手と仲が良く、甲子園まで応援にいったこともあり、甲子園で活躍する浦和学院の選手たちは渡邉の憧れとなっていた。そして浦和学院に入学するために家を出て入寮。

 入学する前から厳しい野球部だと覚悟をしていたが、想像以上だった。

 まず朝練。だいたい5時半起床で、6時から朝練がスタートする。主なメニューはランニング、サーキットメニュー、学校の体育館にある綱を登ったりするメニュー。渡邉は「練習の中で朝練が一番きつかったです」と振り返る。そして寮生活も過酷だった。

 「浦和学院は全体的に分刻みで行動するんです。今まで細かい時間設定に慣れていない僕にとってはきつかったです。だけど、この寮生活は甲子園にいって大事だったんだなと分かったんです。甲子園ではホテルの生活、ベンチの入れ替え、1つ1つの行動にスピードが大切でしたので、役に立ったと思います」

 きつさを感じながらもタメになったと語る渡邉。また強豪校だと夜遅くまで練習するイメージがあるだろうが、実は浦和学院は睡眠時間を確保する意味でも、午後の練習は18時半に終わり、長くても19時半~20時に終わるという。強さを求めて隙のない生活を送る浦和学院の環境の下、渡邉はメキメキと実力を身に着け、1年夏の新人戦からベンチ入りを果たす。

 ここまで順調にきていた渡邉だったが、1年冬、寮を抜け出す。そこにはどんな理由があったのか。ここから一問一答で聞いていきたい。

[page_break森監督、仲間たちの配慮に感謝]

森監督、仲間たちの配慮に感謝

退部危機乗り越え 甲子園を強く見据える 渡邉勇太朗(浦和学院)【前編】 | 高校野球ドットコム
渡邉勇太朗

―― どういう理由があったのでしょうか?

渡邉勇太朗(以下、渡邉):まだ1年生の時は、先輩が中心の時期。冬は大会もなくて目先の目標を失ったというか。その時、僕は胃腸炎もあって、体調をちょうど崩してしまっていて。その時になぜ野球をやっているんだろうと考えこんで、寮を抜け出して帰ってしまいました。

―― 家に帰ってきたとき、保護者の方の反応はいかがでしたか? 

渡邉:もちろん驚いてましたね。事情を説明して、すぐその日、浦和学院に戻って森士監督とお話をさせていただきました。

―― 森監督はどういう反応でしたか?

渡邉:急がなくていいから、しっかりとメンタル面が万全の状態で戻ってこれるようにサポートするから一緒に頑張ろうと自分の気持ちを受け止めてもらいました。

退部危機乗り越え 甲子園を強く見据える 渡邉勇太朗(浦和学院)【前編】 | 高校野球ドットコム
少し考えながらもインタビューに答える様子

―― そうなんですね。森監督の優しさを実感しました…。そうなると部員からの激励もありましたか? 

渡邉:そうですね。部員みんなから(激励)してもらいました。誰がとかはなくみんなから声をかけてもらってたので本当に感謝してます。

―― 途中で寮を抜けだして、そこから部に戻ることは渡邉投手にとって大変勇気がいる決断だったと思います。それでも渡邉投手を優しく出迎え、励ました浦和学院は素晴らしいチームだと思います。

渡邉:本当にそう思います。浦和学院は人間的にも成長させてくれるので、すごい良い場所です。またメリハリを大事にしているチームですので、グラウンドでは全員がライバル。何かあれば厳しい指摘もされますし、刺激を受けます。

―― そうなんですね。渡邉投手はいつ部に戻ったのですか?

渡邉:2、3週間はずっと家で親の手伝いをしていたんですけどそこから、学校には通うようになりました。家から通える距離にあるので。寮に戻ったのは2月に入ってからですね。
 部から離れてしまっていたので手伝いなどから入って、徐々に練習に参加してという形でやらせていただき、春の関東大会からベンチ入りさせてもらいました。

[page_break2年夏は中心投手で活躍 秋の敗退を乗り越え 冬に進化のきっかけをつかむ]

2年夏は中心投手で活躍 秋の敗退を乗り越え 冬に進化のきっかけをつかむ

退部危機乗り越え 甲子園を強く見据える 渡邉勇太朗(浦和学院)【前編】 | 高校野球ドットコム
2年生春の横浜戦での渡邉勇太朗

 春の関東大会の初戦は増田珠(現・ソフトバンク)など多くの強打者を揃える横浜。だが、渡邉に気負いはなかった。

 「緊張は無かったですね。横浜のほうが上のチームだと思ってたので、打たれて当たり前と思って思い切って投げられました」

 なんと5回、被安打3、無失点の好投でチームを勝利に導くと、さらに準決勝の日大三戦では、6回まで2失点の好投。決勝の東海大相模戦では2回1失点と、計13回を投げて、3失点と上々の結果を残した。

 「この大会では調子が良かったですし、特に日大三校はセンバツに出ていたので、そのチームに勝てたことは自信につながりましたし、甲子園へ行きたい気持ちが強まっていました」

 目標を見失っていた半年前から一転、投手陣の中心となった渡邉。気力を漲らせながら夏に向かっていた。

 そして夏の埼玉大会では、準決勝まで無失点の好投。決勝戦で敗れてしまったが、6試合に登板し、計5失点と、安定したピッチング。夏には144キロをマークし、高卒プロをにわかに意識した大会でもあった。

 2年秋、肩を痛めて出遅れた渡邉はリリーフで待機。だが、9月29日の準々決勝の市立川越戦に完封負け。渡邉はベンチから敗戦を見た。悔しさは相当なものというより、チームにとってもかなりショックな負けだった。

 「1学年上の夏が花咲徳栄に負けて、その花咲徳栄が結果的に甲子園で優勝したので自分たちは絶対センバツ、夏と甲子園に行くっていう気持ちは強かったですね。秋の準々決勝で負けてしまって。しばらくは気持ちが入らなかったというか。それでも、森監督が喝をいれてくれてそこから冬全員で鍛えなおせたので春、夏の結果につながったと思います」

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2年生の秋 春日部東戦の様子

 二度目の冬。最後の夏は絶対に甲子園に出たい思いから、かける思いは違った。

 秋の準々決勝のショックを乗り越え、冬の練習に入った渡邉。去年と違い、夏の甲子園に出ることを目標に本気で取り組んだ。
 「1つのトレーニングに対しても、すごいこだわるようになりましたし、トレーニングも絶対に妥協を許さなかったですね」

 先を考えずに体が大きくなることを信じて、目の前のトレーニングに打ち込んだ。

 ここから体の使い方を学ぶために、様々なトレーニングに出会う。まず秋から「4スタンス理論」に出会う。渡邉は大谷翔平投手と同じB2タイプ。踵の外側が軸になっており、渡邉はその使い方をマスターするまでに時間がかかった。

 「僕は変化球を投げるのは得意で、すぐに投げられるんですけど、体の使い方は根本的な部分になるので、つかむのは時間がかかるタイプだと思っています」

 B2タイプをものにしたのは年明け。投げてみるとボールの勢いが違った。

 「4スタンス理論が全てかは分からないのですが、明らかに今までよりは、良いボールというのが多かったです。例えば10球中何球という割合を見ると、今までよりは良いボールの割合が多くなったと思います」

 4スタンス理論がすべてではないというのは、4スタンス理論の動きを身につける以外のトレーニングもレベルアップにつながったからだ。

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渡邉勇太朗

 浦和学院は動物の動きを真似た『クリーチャートレーニング』を取り入れるが、それについて「体の動きが分かり、効果的なトレーニングだったと思います」と効果を実感。4スタンス理論と同時に始めていた大谷翔平の模倣も年明けにはマスターしていた。

 大谷のフォームを真似した理由を聞くと、

 「理由は3つあります。脱力感があって、力感のないゆったりした全体的な動き、左脚を上げた時の立ち姿、スムーズな体重移動。この3つを参考にしていました」

 模倣するといっても、合う、合わないがある。渡邉が大谷翔平を真似できたのは、大谷同様、190センチの長身ながら下半身主導のフォームができるところである。野球界を見渡すとそれができる選手はなかなかいない。渡邉は周囲に自身の投球フォームを褒められたという。

 「投げ方は中学校の時からいろんな人に褒められていましたし、自分自身、下半身の力を上半身の指先まで伝えるというのが結構できていたと思います」

 高校で取り組んだ理論的なトレーニングは渡邉のフォームの完成度をより高め、さらに潜在能力を引き出すきっかけになったのだ。

 前編はここまで。下級生時代に多くの経験を積んだ渡邉。後編ではその苦労が報われた最後の夏の軌跡に迫ります。後編もお楽しみに!!

文=河嶋宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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