Interview

挫折と学習繰り返し「プロで長くできる」右のスリークォーターへ 市川 悠太(明徳義塾)

2018.10.18

 2017年秋、王者・大阪桐蔭がシーズンで唯一取れなかった「明治神宮大会」の優勝投手に輝いた明徳義塾の絶対的エース・市川 悠太。2018年はセンバツ3回戦でサヨナラアーチを浴び、夏の高知大会決勝戦で9年連続甲子園出場を高知商に阻まれるなど挫折が多かった半面、7月の最速149キロ到達、初の侍ジャパン選出と収穫も多かった日々を過ごした。
 では、プロ志望届を提出しドラフトを目前に控える彼は今、どんなことを考えて夢の世界に進もうとしているのか?「侍ジャパンU-18代表」の秘話も含め、市川 悠太の2018年と未来への展望を聴いた。

センバツの失敗を糧にして覚えた「シュート」

挫折と学習繰り返し「プロで長くできる」右のスリークォーターへ 市川 悠太(明徳義塾) | 高校野球ドットコム
神宮大会時の市川悠太(明徳義塾)

――昨年末にお話を伺った時から半年以上が経過しました。
その際は甲子園春夏連覇を目指し、高い意気込みを語っていましたが、今すべての公式戦を終えてみての収穫と反省はどうでしょうか?まずはセンバツからいきましょう。

※昨年末行ったインタビュー:前編
中編
後編

市川 悠太投手(以下、市川):センバツの前にはシンカーとスローカーブを練習してきました。練習試合までではうまくいっていましたが、センバツでは使えるボールにならなかったです。数球は投げましたけど。スプリットも1年生の時はよく投げていたんですが、スライダーの球速とキレが昨秋以降増したので、頼りすぎてしまった部分があります。
 加えて昨秋はアウトコース・インコースに悪い中でもストレートを投げ切れたことが明治神宮大会優勝につながりました。
 けど、センバツの初戦・中央学院(千葉)は僕が調子が悪くない中でもうまく対応してきました。谷合悠斗の逆転サヨナラホームランはタイミングが合っていたので「これは出るかもな」と思っていましたけど。
 逆に日本航空石川(石川)との3回戦は前半にスライダーが全く曲がらず、制球力も苦労していたころを調節していたのに8回まで3安打無失点。自分では「どうしてこんなに打たれないんだろう」という違和感がありました。

――その不安は最終回、的中してしまいます。

市川:9回表にウチがサインミスで点が取れず、9回裏先頭・右打者井川 隼吾選手の初球に、練習試合だったらスライダーを投げるところでストレートを選択して安打を打たれた。ここから歯車が狂っていきました。同じ右打者の原田竜聖くんに打たれた逆転サヨナラ3ランも、初球スプリットが落ちないところを捉えられたんですが、それまでの打席でインコースを見せていたらあんなに踏み込まれることもなかったんです。打たれた瞬間に「やられた」と思いました。

――このセンバツに敗れたショックは大きかったと思います。みんなが「勝たなければいけない」と思っていただけに。

市川:そうですね。組み合わせも厳しかったですけど。試合後はみんな落ち込んでいました。

――そこから夏に向かう上で市川投手が進化させたものはありますか。 

市川:シンカーは相手打者にとってはストレートのタイミングになっても半速球になるので、最終的にはスプリットとシュートを多く使うようになりました。シュートは5月の県総体後、ブルペンで(馬淵 史郎)監督さんから「お前、シュートは投げられないのか?」と言われて、「投げたことがないです」と答えたら教えてもらって、覚えたんです。縫い目に人差し指と中指をかけると真ん中低めを狙うとシュートして、高めを狙うとナチュラルに沈む。これは僕がサイド気味のスリークォーターだから出来る軌道だと思います。
 そして相手は僕のストレートが速いのを解っているから、右打者からは詰まって内野ゴロが取れるし、シュートがあるのを見せておけばスライダーも思い切って投げられる。自信のあるボールになりました。

[page_break「高知商戦」と「侍ジャパン」で学んだこと]

「高知商戦」と「侍ジャパン」で学んだこと

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市川悠太(明徳義塾)

――迎えた高知大会、準決勝の土佐戦までは明徳義塾も市川投手も順調でした。ただ、どうしても触れなくてはいけないのは、明徳義塾としては最後の公式戦となってしまった決勝戦・高知商戦になります。

市川:正直に言えば決勝戦での自信はなかったんです。これまでの公式戦でも高知商を抑えていたのは新人戦だけ。秋季県大会でも春の四国大会順位決定戦でも打たれていましたし、高知商の選手は僕のことを(高知市立潮江)中学時代から知っている。そこに対抗するための左打者に対する落ちるボールも最後まで完成できなかった。みんなも9連覇がかかっていて受け身になってしましたね。
 しかも高知商は事前に速いストレート、スライダーをマシンで打ち込んんでいたことも情報で入っていたし、試合が始まってみれば相手は詰まってもヒットになり、自分たちはいい当たりでもアウトになる。流れもなかったです。

――今の市川 悠太なら、高知商戦はどんな投球をしていますか?

市川:変化球中心で緩急を付けながらインハイも使った配球をしていると思います。変化球は低めにします。

――結果は8回被安打13の10失点。それでも市川投手は最後まで投げ切りました。

市川:人生で初めてあんなに打たれました。でも、あそこで抑えていたら自分は調子に乗ってピッチングスタイルを見失っていたと思うし、あの試合をきっかけに新しいピッチングスタイルを見つけられればいいと今は考えています。ただ、「僕が打たれたら悔いはない」と言ってもらったチームメイトには本当に感謝しています。

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U18代表時の市川悠太

――甲子園後には侍ジャパンU-18に選出され「第12回BFA U18アジア選手権」に参加しました。ここで得られたものは?

市川:まず有酸素運動などのトレーニング、栄養など、いろいろな話を聴けました。栄養面については栄養士さんが大谷翔平選手(MLBロサンゼルス・エンゼルス)を担当されている方だったので、グリコーゲンローディングなど食事面でのアドバイスも頂きましたし、けん制やストライクゾーンなど国際大会での傾向や、その中で小さな変化で打ち取る必要性も学びました。
 そして縦変化の必要性。韓国戦で言えば、吉田輝星・(金足農3年)のスライダーには相手打者が付いてきていたけど、彼が縦変化に変えてからは打てなくなった。その話を聴いて改めて小さな変化と縦の変化球の必要性を感じました。

――大会では香港戦1イニングのみの登板でしたが、印象に残った選手はいますか?

市川:壮行試合で侍ジャパン大学代表の頓宮裕真(亜細亜大4年)さんに打たれたホームランにはびっくりしました。真ん中外よりのスライダーをセンター方向に打たれたんですが、高校生ならまず打てない。そして侍ジャパン大学代表の選手は僕が自信を持って投げたスプリットに対しても配球を読んで、自分たちの間合いで振ってファウルを打ってくる。そこは強く印象に残りました。
 投手で言えばこれも侍ジャパン大学代表の津森宥紀(東北福祉大3年)さん。僕と同じサイドなんですが、下半身の使い方やリリースポイントが合った時のストレートは140キロ後半でボールにスライダー回転がかかる。韓国U-18で153キロを出していたソ・ジュンオンよりも感覚的には速いです。日米大学野球選手権でMLBのドラフトにかかる選手たちに対し完封したのもうなずけます。

[page_break明徳義塾で学んだ「人間性」をプロの世界で活かす]

明徳義塾で学んだ「人間性」をプロの世界で活かす

挫折と学習繰り返し「プロで長くできる」右のスリークォーターへ 市川 悠太(明徳義塾) | 高校野球ドットコム
U18代表の時の市川悠太

――プロに進む上での課題はありますか?

市川:球速も7月、関西(岡山)との練習試合で149キロを出しましたけど、自分としてはまだフォームも仕上がっていないし、フォームと身体づくりができればもっと球速が上がると思います。この冬は自分の良さである身体のしなりを保ちながら、ケガをしないように負荷をかけつつ、フォーム固めをしっかりしていきたいですね。
 縦変化球としては「落ちるボール」としてチェンジアップにもチャレンジしていきたい。変化球はあるにこしたことはないので。
 僕はドラフトで選んで頂いたとしても、プロに進むまでに何ができるかが重要だと思います。2年前、古賀優大さんが東京ヤクルトスワローズトに行かれるまでしっかりトレーニングをしていて、引退後に身体が大きくなった過程を僕は見ています。僕自身も負けず嫌いですから、他の選手と差がついてしまうのは嫌なので、古賀さんのような姿勢を見習いたいです。

――ではプロ入団後に描いている理想は

市川:自分で客観的にみると僕は先発というよりリリーフ・中継ぎでの起用されると考えているので、ピンチでも任させた場所を抑えられるようにしたい。できれば1年目から一軍で投げられるようにしたいです。U-18代表の経験を経て侍ジャパンへの想いも強くなったので、もう一度「侍ジャパン」のユニフォームを着たいと思っています。
 そして長くプロでできる選手になりたい。たとえ選手として引退しても球団に残れるように。人間性を高める中で野球の成績がついてくるようにしたいんです。

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「人間性」を胸にプロの世界に挑む!

――その「人間性」は全寮制の明徳義塾で鍛えられたものですか?

市川: そうです。明徳義塾に進学を決意したのも「自分を変えたい」が理由の1つ。技術的には振り返れば高校の時ずっと「完全なサイドは投手らしくない」とは思っていましたけど、2年春の四国大会翌日、練習試合中のブルペンでサイドに変えて最後に2回投げて130キロ前後でも空振りを獲れたことが今につながっていますし、回転数の大事さにも気付かされたし、侍ジャパン含めていろいろな場所でいろいろな経験ができた。明徳義塾じゃなかったら今の自分はありません。

――では最後に、これからの高校生に向けてのアドバイスをお願いします。

市川:最終的には自分。僕も最初はもっと腕を下げて投げていたのを自分で考えてスリークォーター気味にして、2年夏の高知大会前、監督さんから「それでいくんか」と聞かれて、「これで行きます」と返して今に至っています。自分の事は自分が一番解っているので、その言葉を胸を張って言えるように、自分の引き出しを増やしてほしいと思います。

  明徳義塾での二年半では挫折と学習を繰り返し、マウンドでの荒々しさを残しつつ、試行錯誤で技術力を高めてきた市川 悠太。プロの世界では「人間性」の三文字を軸に据え、「長く活躍できる」右スリークォーターとして、再び「侍ジャパン」のユニフォームを目指していく。

文=寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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