Interview

今も未来もただ勉強あるのみ 勝たせる捕手・柘植世那(Honda鈴鹿)

2018.10.14

 今年の社会人捕手の実力派として注目されるのがHonda鈴鹿の柘植 世那だ。健大高崎時代は2年夏から3季連続の甲子園出場を経験。強肩巧打の捕手として、2度のベスト8、残りの一度もベスト16進出と、勝たせる捕手としてドラフト候補へ成長した。

 Honda鈴鹿に在籍する今も、勝たせる捕手としてマスクをかぶる。社会人2年目に正捕手に定着し、2年連続の都市対抗出場に貢献した。そんな柘植世那はどんな思いをもってここまでの捕手となったのか。その軌跡を追った。

中学時代からあった「投手の持ち味を引き出し、勝たせる捕手像」

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柘植世那(Honda鈴鹿)

 柘植が捕手を始めたのは藤岡ボーイズに所属していた中学2年生と、意外にも遅い。それまでは投手・内野手を兼ねていた。捕手を始めてすぐに捕手の楽しさを実感したと言う。

 「相手の読みを外して空振りをとったり、打ち取ったりするのは楽しかったですね」
 捕手としてレベルアップするために、プロ野球の試合をテレビで観ていた。その中で参考にしたのが嶋基宏(東北楽天)だった。

 「嶋選手は投手の良さを引き出していますし、投手の気持ちもわかっている中でリードしているのが伝わってくるので、そういうところがすごいなと思いました」

 そして3年生になり、全国大会ベスト8を経験した柘植は健大高崎を進学先として選択。高崎出身の柘植にとって、中学3年の時に選抜ベスト4(2012年)に勝ち進んだ健大高崎は憧れだった。

 いざ健大高崎に飛び込むと、指導の細かさに驚く。技術面だけではなく、心理面にまで踏み込んだ戦略を教わった。

 「特に細かったのが葛原毅コーチです。技術面だけではなく、心理面まで踏み込んだ指導。相手の打撃フォームによって得意球と不得意球も見えてくるということも教えてもらい、いろいろ勉強をさせてもらいました」
 試合が終わると、コーチとの振り返りをしながら、リード技術を学んでいった。

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健大高崎時代の柘植世那

 そして2年生の夏に初の甲子園出場を果たす。
 「1回戦の岩国戦では、野球の試合に集中するよりも、甲子園の雰囲気を楽しんでいたらあっという間に5回が終わってしまった感じでしたね。タイムリーを打ったんですが、振ったらタイムリーになっていた感じでした(笑)」

 甲子園では4試合で18打数8安打、8打点と活躍。自慢の強肩を見せ、攻守で躍動した。

 しかし準々決勝の大阪桐蔭戦ではこう悔やむ。
 「2対2の同点から、勝ち越し2ランホームランは打たれたのは痛かったですね」

 この試合後、目標は打倒・大阪桐蔭となった。柘植は2年秋、主将に就任。チームの目標を打倒・大阪桐蔭とした。
 「2年の時は甲子園ベスト8だったので、僕らの代は絶対に優勝を狙いに行こうと思い、あの大阪桐蔭に勝つためにやってきました。とにかく先輩の記録を越そうという気持ちでしたね」

 秋は関東大会ベスト4、そして選抜では準々決勝に勝ち進んだが、「夏に勝たないといけないと思って、選抜のベスト8でもあまり満足した感じはなかった」と話す。

 夏の優勝を狙って、柘植は3季連続で甲子園出場を果たすが、3回戦で成田翔擁する秋田商に敗退。柘植は最後の夏の甲子園は3試合で、14打数2安打に終わり、悔しい結果に終わった。

 全国制覇はならなかったが、健大高崎の3年間で心身ともに成長した柘植は、プロ志望届けを提出するが指名漏れ。Honda鈴鹿に入社を決めた。

[page_break甲子園出場と同じぐらいの喜びがあった都市対抗出場]

甲子園出場と同じぐらいの喜びがあった都市対抗出場

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柘植世那の構え

 高校生の時からプロに進みたい気持ちがありながらも、それが難しい場合は社会人野球に進みたいと思っていた柘植。その理由として、「最もレベルが高いですし、社会人野球は大学野球で活躍してきた選手が集まるじゃないですか。大学よりもレベルが高いところでプレーしたかったです」と語る。

 入社までに、社会人野球について調べていた柘植だったが、いざその環境に飛び込むとレベルの高さに圧倒された。特に驚かされたのは投手のレベルだ。
 「ストレートのスピード、切れ、勢い、変化球、何もかも違いますし、投手、そして野手の方もプレーの安定感、正確性がすごかったですね」

 今では先輩投手から信頼されるキャッチング面でも、最初は苦労した。
 「先輩の鹿沼 圭佑さんのスライダーが最初は全く捕れなくて、はじいてしまうんです。こういう投手の球を捕れて、さらには打てないとやっていけない世界なんだなと感じました」

 柘植はマシン相手に速球、変化球を受け続ける練習を繰り返し、キャッチングの形を作った。そして、スローイングの確実性についても痛感した。
 「社会人にきて正確性と速さが大事だと思って、いくら肩が強くても、少しでも逸れたらアウトにならないので、そこはこだわりました」

 当時の正捕手で、オリックス入りした飯田 大祐からも教えをもらった。
 「飯田さんの安定感はすごかったです。スローイングの正確性もありましたし、捕手としてどっしりとしていて、物おじしなかったところがありましたし、間近で見ていてすごい勉強になりました。だけど最初は全く教えてくれませんでした(笑)だから僕はずっと一緒に飯田さんについていて、何とか教えてもらいました」

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マスク姿の柘植世那

 また木製バットの対応については、体を止めてバットを走らせるイメージで振り続け、攻守でメキメキと成長。1年目の秋、日本選手権に出場。2回戦の大阪ガス戦では代打を経験し、マスクもかぶった。
 「緊張しました。ロッテに進んだ酒居投手と対戦したのですが、プロに行く投手はこういう球を投げるんだと驚きました」

 そして2年目に入り、柘植は正捕手獲りに向けてアピールした。都市対抗出場を決める二次予選。特に東海地区二次予選は最も熾烈といわれるが、柘植はかなりのプレッシャーを感じながら試合に臨んだ。

 「高校野球より緊張しました。1週間かけてビデオを見て、リードの組み立てを考えて、試合に臨む。高校ではここまで準備して、データを見てリードするということはなかったので。対策を練る大変さを実感しました」

 ただ、いくら対策したからと言って、その通りにいくわけではない。試合展開に応じて変わっていく。
「当日の試合で起きた情報や試合展開によって動かすのが優先なので、データに頼って空回りしまってはいけないので、そこは臨機応変にやるのが大変でしたね」

 また、会社を背負って戦っているプレッシャーもきつかった。
 「会社を背負って戦っているので、プレッシャーはありました。負け続けるとただひたすら『すいません』!という気持ちでしかなかったですね」

 そして東海地区二次予選では第5代表決定戦で西濃運輸を相手に完封勝利へと導くリードを見せて、初めてレギュラーとして都市対抗出場を決めた。
 「出場が決まった瞬間は甲子園出場と同じくらいの喜びがありました。第一代表から3連敗していたので、決まって本当にうれしかったです」

[page_break正捕手として自覚を持ち、2年連続の都市対抗出場へ導く]

正捕手として自覚を持ち、2年連続の都市対抗出場へ導く

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インタビューに答える柘植世那

 都市対抗では2試合でマスクをかぶった。
 「甲子園と雰囲気が似ていました。ただ甲子園と違うのは、ボールが飛ぶということ。こすった当たりで、ちょっと弾道が高いとスタンドに入ってしまう。東海地区予選で使っていた岡崎球場(99.1メートル、126メートル)は広いので、それと比べると東京ドームは怖いですよね」

 また打撃では7打数2安打だったが、内容面では満足していない。それでも都市対抗2試合を経験したことは柘植にとって大きな価値となった。そして12月には2017アジアウインターベースボールリーグ(AWB)に参加。AWBについて柘植は「いろいろな投手のボールを受けることができてよかったですし、その経験をチームのみんなにも伝えました」と濃密な2年目を終えた。

 入社3年目の今年は、正捕手としてさらに自覚をもってチームを引っ張るようになった。
 「今年は投手とよりコミュニケーションをとるようになり、どういう球が必要なのか、抑えられるのかが分かるようになりました。投手にも時と場合を考えて、強くいったほうが、優しく伝えたほうがいいのかなどを考えるようになりました」

 先輩に対してもしっかりと直言する姿勢は先輩投手からも評価される。大卒2年目の平尾奎太は柘植についてこう語る。
 「落ち着いていますし、どっしりとしたリードができています。キャッチングもよくて、僕は好みの構え方をしていて投げやすいです。先輩に対しても物おじしないですし、直接言ってくれます。今年から彼とは話をして、考えが一致しているので、リードに対して首を振ったことはないですね。高卒3年目とは思えないぐらい落ち着いていて信頼しています」

 そして、柘植は去年に続き、正捕手として都市対抗出場を決めた。だが、今年1年のパフォーマンスには満足していない。
 「まだまだ全体的に足りないと思っていて、投手に対しての伝え方、ジェスチャーをしっかりしていきたい。もっとうまくならないといけないと思っています」

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信頼される捕手を目指すと誓った柘植世那

 ドラフトも近づいてきた今、柘植は現在の心境をこう語った。
 「高校から社会人に進んで、3年経験してプロに行きたいと思っていました。指名されれば、経験したことを出せるようになりたいですし、ドラフトの日まで待ちたいと思います。そして(プロ入りが実現したときは)相手打者の反応を見て、どんな投手がきてもしっかりと引っ張れる、信頼がすぐとれるような捕手になりたい」

 投手本位になって接する柘植を見ると、高卒2年で名門社会人チーム・Honda鈴鹿で正捕手を獲得できるのもうなずける。

 最終的には、プロの舞台でもチームを勝たせる捕手へ。柘植 世那はレベルアップへあくなき挑戦を続ける。

文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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