Interview

甲子園のスターから社会人屈指の本格派へ化ける!板東湧梧(JR東日本)の進化の秘密

2018.10.08

 鳴門(徳島)から社会人野球の強豪・JR東日本に入社して今年で5年目。板東湧梧投手が、右ヒジの故障を乗り越えドラフト戦線に帰ってきた。今季は7月の都市対抗野球で3勝を挙げるなど、一気に飛躍を遂げた板東投手。高校時代はザ・好投手といえる板東投手がいかにして140キロ後半のストレートを武器にする本格派へ化けたのか?
 高校時代からこれまでの歩みを振り返ってもらった。

誰よりも走って最後の夏で甲子園ベスト8!

甲子園のスターから社会人屈指の本格派へ化ける!板東湧梧(JR東日本)の進化の秘密 | 高校野球ドットコム
インタビューを受ける板東湧梧

 中学時、地元の鳴門が15年ぶりに夏の甲子園へ出場したのを見て、「同じ市内で野球をやっていた球友たちと『鳴門へ行って、一緒に甲子園を目指そう』と話し合って進学を決めました」という板東投手。だが、投手として入部したものの、すぐにはレギュラーポジションを獲得することができず。そのため、しばらくは小中学生の頃もやっていた内野手兼任としてプレーしており、初めての甲子園出場となった2年春のセンバツでも二塁手として起用されていた。
 そして、2年秋の新チーム結成を機にピッチャーへ復帰すると、秋季四国大会で準優勝。見事、センバツ出場を決めた。ただ、当時の鳴門は強力打線が看板で、板東投手は徳島大会での防御率が4点台。四国大会も3試合で16失点と打ち込まれた。「一応、エースだったんですけれどボコボコに打たれていたので全然うれしくなかったですし、この状態のままでは恥をかいてしまうので『甲子園に出たくない』という気持ちまでありました。」

 そこで、板東投手はレベルアップを目指し、冬のオフシーズンは走り込みに費やした。
 「鳴門にはランニングの3大メニューがあって、冬休みはその3つの練習をローテーションで繰り返していたのですが、一つ目は学校から少し離れたところにある鳴門霊園の長い上り坂と階段をダッシュで10本走る『霊園』。二つ目はやはり学校の近くにある妙見山へ行って妙見神社の階段を10本駆け上がる『妙見山』。そして、三つ目が一番きつかったのですが、学校から3kmほどの場所にある大手海岸まで砂の入ったペットボトルを持って走っていって、砂浜で長短のダッシュを繰り返す『大手海岸』。裸足で走るので寒いし、足が痛いし、もう二度とやりたくないくらいなんですけれど、当時は『自分が一番で走りきる』と誓って必死でやりました。」

 こうした地道な努力の甲斐もあり、「春になって最初にボールを投げた時、軽く投げているのにボールが思ったよりも行ってビックリしました。あの時の感覚はまだ覚えています」と球速もアップ。130キロが出るかどうかだったストレートはセンバツで139キロを記録し、初戦の宇都宮商(栃木)戦では1失点の完投勝利を挙げた。
 「センバツでは恥をかくどころか勝つことができて、甲子園から帰ってきてからは県内の見る目もがらりと変わったと思います。」

 その後も「ランニングでは引き続き、一番で走りきるように心掛けていましたし、練習後もジムに通って下半身や体幹を鍛えていました」と最後の夏に向けて気を緩めることなく練習を積み重ね、春夏連続で甲子園に出場。全国8強まで勝ち上がった。準々決勝では花巻東(岩手)に敗れたが163球の熱投。千葉翔太(現:九州三菱自動車)のカット打法に苦しみ、千葉選手の5打席のみで41球も投げることとなった。

 「あの夏はずっと暑かったですし、大会に入った時から肩に痛みもあったので、今さら投球数が多くなろうが気にしていませんでした。ただ、千葉選手には何を投げてもバットに当てられてしまったので悔しい気持ちが強いですね。1度くらいは抑えたかったんですけれど、結局、四球を4つ出してヒットも1本打たれて全敗です(笑)。甲子園が終わった後、周囲から『千葉君と戦った人だ』とよく言われましたし、『どうせ四球なら、もっと簡単に歩かせれば良かったのに』とも言われましたけれど、こっちもムキになっていたのでそこまで冷静になれませんでした。不甲斐ない結果ではありますけれど、今となってはそれも良い思い出です。」

 そして、高校の3年間については「もっと効率よくできたところもあるでしょうが、泥臭い練習をたくさんやって、たくさん走って、その時に付けた体力があるからこそ、今も野球ができているのだと思います」と振り返った。

[page_break:社会人で活躍するためにスタイルもすべて変えた]

社会人で活躍するためにスタイルもすべて変えた

甲子園のスターから社会人屈指の本格派へ化ける!板東湧梧(JR東日本)の進化の秘密 | 高校野球ドットコム
大きく振りかぶる板東湧梧

 高校で野球は辞めるつもりだったという板東投手。だが、JR東日本からの誘いを受けて現役を続行することにし、1年目は体作りに励んだ。「体が細くて65kgくらいしかなかったので食トレをしました。昼夜はそれまでの2倍くらいの量を食べて、間食と夜食も。プロテインも摂って1年で10kgほど増やしました」。同時にフォーム改造にも着手。高校時代は肩を痛めたこともあってスリークォーター気味で投げていたが、オーバースローに変えた。

 「社会人になってストレートの質を良くするために色々なことを試していったなかで、一年をかけて現在のフォームにたどり着きました。リリースでは上から叩くようなイメージで投げていて、フォームでは体重を後ろへ残すことを意識しています。高校時代は上体を突っ込ませて、できるだけ前でリリースするようにしていたのですが、今は右足に体重を乗せて後ろで叩く。すると、ボールが指に掛かり縦軸がキレイな真っすぐになるので、角度があるのに伸びているように見えるんです。実際のところを言うとステップの歩幅なんかはあまり変わっていないんですが、後ろに体重を残す意識が大切なんです。」

 このフォーム変更に伴って、変化球の持ち球も変わった。「高校時代はたくさんの球種を使って打者を抑えていたのですが、今の投げ方になったことで、それまで投げていたチェンジアップは感覚が変わって投げられなくなりました。そこで、変化球も一から作り直したのですが、自分の場合は腕が縦振りなのでフォークとか縦のカーブが合っていて現在の持ち球になっていますし、横振りの投手だったらスライダーが上手くいくでしょう。そうやって自分の適正があるフォームに変化球を合わせていくのが良いのだと思います。」

[page_break:ケガが自分を進化させた]

ケガが自分を進化させた

甲子園のスターから社会人屈指の本格派へ化ける!板東湧梧(JR東日本)の進化の秘密 | 高校野球ドットコム
キャッチボールをする板東湧梧

 社会人3年目にはエース格として活躍。ドラフト候補に名前が挙がるまでに至ったが、秋に右ヒジを故障。復帰までに半年の期間を要した。「ケガでボールが投げられない時期は、体についてのことや食事法、トレーニング法などを勉強していました」と話す。また、やる気を上げるための意外な方法があるという。「趣味が読書なので休日は書店に行くことも多いのですが、今、特に好きなのがビジネス書で、ビジネス書を読んでいると『自分は好きな野球をやらせてもらえているのだから、もっとしっかり取り組めるはず』とモチベーションが上がるんです。」

 昨年5月に戦列へ復帰すると、今季は2月のキャンプから万全の準備ができたこともあって復調。7月の都市対抗野球では、自己最速タイの148キロをマークしたキレのある真っすぐを武器に全4試合に登板。通算14回を投げて6安打1失点。三振も15個を奪う快投でチームを4強へ導き、大会の優秀選手にも選出された。「社会人5年目ですが都市対抗の本戦で投げたことがなかったので、自分にとっては甲子園よりも東京ドームのマウンドに立ちたいという気持ちが強かったんです。今季も都市対抗の予選は良くなかったのですが、それでも腐ることなくやるべき事をやっていたのが良い結果につながったのだと思います。」

 この好投により、再びドラフトの注目選手となった板東投手。「上のステージでやりたいというワクワクした気持ちもありますし、その一方で不安もあります。ただプロへ行くにしても、社会人に残るにしてしてもチャレンジを続けることができると思うので、楽しみですね」。また、投手としては「今後も勝てるピッチャーを目指してコントロールを追求していきたいです。今季はたくさん投げさせてもらえて制球にも自信が付きましたが、もっと精度を上げていきたいです」と語った。

 かつての甲子園のスターがこれからどのような道を進むのか。どちらにしろ、見る者にも楽しみを与えてくれるのは間違いない。

文=大平明

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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