筑川コーチと二人三脚で成長 伸びしろは無限大!齋藤友貴哉(Honda)【後編】
今年の社会人を代表する速球投手といえば、Hondaの齋藤友貴哉投手だ。184センチの長身から投げ込む速球の最速は153キロ。Hondaの主戦投手として2年間活躍を見せてきた。そんな齋藤は高校時代は控え投手。それもほとんど公式戦での登板がない投手だった。齋藤はいかにして才能を開花させたのか。野球を始めてからこれまでのストーリーを振り返っていく。
「投手人生を大きく変えた桐蔭横浜時代」 遅咲きの153キロ右腕・齋藤 友貴哉(Honda)【前編】
厳しい筑川コーチの指導で成長を見せる
齋藤友貴哉
齋藤の成長に大きく携わったのが筑川利希也コーチだ。東海大相模出身の筑川コーチは、高校3年春(2000年)に選抜優勝を経験。そしてHondaでは2009年にエースとして都市対抗優勝に貢献。大会MVPにあたる橋戸賞を獲得した。175センチと投手としてはそれほど上背がない筑川コーチは、それを補う投球術によって、輝かしい実績を残してきた。だからこそ筑川コーチの目から入社当時の齋藤は物足りないものが数多くあった。
「初めて見た時はけっこう手のかかりそうなピッチャーだなという印象しかないです。そこからコーチとしていろいろ会話をしていく中でもやらなきゃいけないことが多い選手だなという印象しかないですね。プロに行きたいという本人の目標がありながら、その間の社会人で結果を出させないと、たぶん大学で(ドラフトに)かからなかったというところのもう一個上には行けないというのがあったので、そういう意味でどこからどう指導していこうか、という選手でした。」
技術の前に投手としての心構え、基礎が足りないと感じたのだ。まず行ったのはピッチングの前に体の使い方からだった。
「もう歩き方や走り方からですね。投球動作を考える前にまず自分の身体をどう使うかということを考えて練習しなさいと言い続けてきました。まず最初に彼に行ったのは、『もし俺にお前の体があれば160キロ投げられるよ』といいましたね。
だから、外から見てる人からしたら、なんで野球の練習じゃなくて身体の動かし方ばっかりやってんの?ってたぶん思うぐらい、まずそこから徹底して自分はやらせているので。そこが理解できていないのに、どうやってもっと複雑な投球動作やりますか?という話です」
筑川力希也コーチと話す齋藤友貴哉
指摘は辛らつ。だが筑川コーチは、184センチ91キロと恵まれた体格、さらに肩甲骨の柔軟性も優れていた齋藤の体を見て、大きな可能性があるとみていたのだ。
筑川コーチの指導を受けて一歩ずつ成長を見せる。
まず入社1年目の3月に行われたスポニチ大会ですぐに登板機会が与えられ、3月12日の鷺宮製作所戦で完封勝利。そして3月14日の決勝戦・トヨタ自動車戦でも先発登板。2試合の活躍が評価され、いきなり新人賞を受賞する。
「結局優勝できなかったので、『新人賞』をいただいたのは嬉しかったんですが、決勝で3回で降りるんじゃなくて、もっとそこで投げられたらとおもいました」と反省したが、それでも上々の社会人デビューだった。
齋藤は筑川コーチを全面的に信頼している。
「とにかく知識がすごい方。試合前の準備の仕方が変わりました。スコアブックを見て、このバッターはここに打ってるなというのを見て試合に入ったり、イメージを持って試合に入るというところとか、他にもいろいろあるんですが、いい準備をしているなと思います」
何かあればすぐに筑川コーチに話を聞いた。相手打者のこと、フォームのこと。投球フォームであれば、「軸足(右足)の膝」が折れないことを意識する。
「右足の膝が折れないということと、突っ込まないということと、また右腕が遅れて出てくるところがあるので、しっかり出してくるというのを意識してます」
そしてメンタルコントロールについてもアドバイスを受けた。
「筑川さんから『試合前に緊張するのは当たり前だから、その緊張をしっかり受け止めろ』ということも言われますし、ピッチングに良い影響を与えていると思います」
齋藤は1年目で都市対抗・東海REX戦でリリーフ登板し、152キロを計測し、2回無失点。早くも大舞台を経験した。
「1点取られたんですが、都市対抗という大舞台で投げられたというのは、大きな1年目の価値だったと思います」
エースとして自覚を持ち、2年連続出場に貢献
齋藤友貴哉
1年目の反省としては齋藤はこう語った。
「まず真っ直ぐの強さ。牽制、バント処理を含めてフィールディングをスキルアップすること。さらに変化球の精度やキレを上げられるようにするというのを課題にしてやっていました」
ストレートの強さはボールの握りからこだわっている。ボールは浅く握り、リリース時(動画参照)には「押すというより、しっかりと指に立てるということを意識している」。そうすることで、低めに強いボールがいく。角度があり、強いストレートを投げたい齋藤の意思が現れている。そして、最も得意とするスライダー。握りを見せた齋藤はスライダーの投げるポイントについて解説(動画)した。
「ストレートと同じふうに、ちょっと横滑りする感じなんですけど、思いきり腕を振るということです。なるべく真っ直ぐに近いような、速いような、曲がらなくてもいいので、腕を強く振って速いスライダーを投げたいです」
そしてピッチング練習では捕手と話しながら、チェックポイントを話し合う。取材日でもピッチング練習を行っていたが、自分の理想と程遠かったようで、実際に映像を見せても「良くなかったです」という。
「チェックポイントは、自分が投げてみた感触とボールがどう行ってるかという感じです。今日はバラバラだったので、そこのラインにしっかり伸びのある強い球を投げられたらと思います」
こうして自分の理想に近づけながらピッチングしている姿に、筑川コーチは成長をしていると評価する。
齋藤友貴哉
「初めに比べたら全然良くなっていると思います。なんとなく“悩めてる”というところが成長なんじゃないかなと。その悩んでる内容が、初めは大学生で何をやってきたのというぐらいのレベルの話だったのが、なんとなく自分にアドバイスを求めるような質問であったり、自分が何か話しかけた時の返答であったりという会話が、だいぶ成長してきてるなと感じます。
あとは、自分から何か動き出そうという、一歩踏み出す自分の行動力がだいぶ成長してきたのかなと思います」
2年目はエースとして結果が求められる立場となり、都市対抗予選ではそれにふさわしいピッチングを見せる。南関東予選の第一代表戦・日本通運戦で先発した斎藤は7回9奪三振無失点の好投を見せ、2年連続の都市対抗出場を決める。
「都市対抗予選は第一代表で投げさせてもらうという、すごく貴重な体験をさせていただいて、7回なんですがしっかり抑えられたというのが、自分の中では大きな自信になりました。
まだ後はあるんですけど、第一代表というチームの目標があったので、そこを任せられるというのは期待をしてもらえているということだと思うので、すごい嬉しさと、緊張もあったんですが、しっかり抑えられたのは良かったと思います」
また、筑川コーチも入社からの成長を認めている。
「今年はある程度チームの軸として投げなきゃダメだよというのを初めから伝えていて、その中である程度パフォーマンスが良くなってきたので、スポニチとかもけっこう中心で使ってたんですが、今年はやっと社会人クラスの選手になってきたのかなという印象はあります」
息が長い投手になりたい
腕を組む齋藤友貴哉
しかし都市対抗の本戦・四国銀行戦では5回無失点の好投を見せたが、チームは敗れ初戦敗退だった。
「大会で勝つことを目標にやっていましたし、そして自分の内容でも物足りなさが残る大会でした」と振り返る。
ドラフトが迫っているが、「ドラフトは自分ではどうにもしようがないので、より自分のレベルを上げることを最優先にして、練習に臨んでいます」と、あくまで自分のことに集中する。
日本選手権へ向けて調整を続けている。指名が実現した時、齋藤は目標をこう語った。
「息の長い投手になりたいです。先発、リリーフ、抑え、どこでもいいので、しっかり役割を全うできるようなピッチャーになりたいです」
齋藤の野球人生を振り返ると、高校時代は2番手投手と、エリートではなかった。それでも這い上がれた理由とは?最後にメッセージをもらった。
「高校野球で、僕は個人的にエースを取れなかった、一桁の番号をもらえなかったということをすごく悔やんだんですが、でもそれは仕方ないことで、自分は全力でやってきたので。
でもその先を考えれば高校野球で終わりじゃないし、高校野球で活躍していたらもう満足していたかもしれないので、その悔しさがあったから自分は今こうやって大学、社会人とやれてるので、1番とか、夏大で活躍できなかったから野球を辞めるんじゃなくて、もっと先に、自分の成長として捉えていけたらとすごく思います」
高校野球で諦めなかったことが齋藤は自分で道を切り開くことができた。それができたのはひたむきに努力する姿勢と、そして出会う人に恵まれているということ。
桐蔭横浜大では齋藤監督、萩原助監督、Hondaでは筑川コーチに出会った。野球少年のように純真で、前向きな齋藤を見ると、プロ入りが実現した場合、良いコーチに出会ってさらに成長するのではないかという期待感を持っている。
なんとかしてあげたいと思う才能と人間性。それが齋藤友貴哉の最大の魅力だといえよう。
文=河嶋宗一
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