キーワードは「ショートゴロを打て」 欲をすべて捨てた千葉のスラッガー・野尻幸輝(木更津総合)
9月3日から開幕する第12回 BFA U18アジア選手権。2大会連続のアジア制覇に燃える侍ジャパンU18代表の選手たちをピックアップしてインタビューしていく。今回は野尻幸輝(木更津総合)。高校通算21本塁打を放った長打力、投手としても143キロを投げる二刀流として期待される野尻。代表選手の中でもひと際目立つ長打を連発する野尻はいかにしてその打力を身に付けたのか。
逆方向を意識すること
野尻幸輝
小園海斗、藤原恭大、根尾昂が注目される今大会のメンバーだが、打球速度という点に関しては、野尻は負けていない。いや逆方向の打球の鋭さに関してはチーム一番といえるだろう。そんな野尻は打撃開眼のきっかけとして、欲はすべて捨てたことだという。
岐阜関ボーイズでは根尾昂とともに鶴岡選抜に選ばれるなど、鳴り物入りで木更津総合に入学。早くもクリーンナップを任され、スラッガーとして期待されていた。だが、打撃不振に苦しみ、2年夏は8番打者だった。
野尻は「ホームランや長打を打ちたい。その欲が出すぎてしまいました」と打撃不振の要因を振り返る。五島卓道監督がもらったアドバイスは「ショートゴロを打て」というものだった。
「つまり逆方向を意識することなのですが、ひたすらショートゴロを打つ練習を繰り返していました。木更津総合の野球は『つなぐ野球』なので。」
すると、変化が出てくる。強いショートゴロを狙おうとすることで、打撃フォームもインサイドアウトでバットが出るようになり、無駄がなくなった。ようやくつかんだのが3年春。ここから安打も出るようになった。
「打撃フォームが良くなったことで、レベルが高い投手に対応ができるようになりました。長打も出るようになりましたが、基本線は逆方向意識、ショートゴロ。その延長線上で長打が出ていると思います。甘く入った変化球はうまく引っ張れればホームランになっていて。ホームランが出れば嬉しくて、気持ち良いですよ。でも、その気持ちを抑えて打席に立っています」
こうして、春季千葉県大会準決勝の千葉黎明戦で143キロ右腕・林直樹から決勝本塁打、関東大会では3試合連続打点、夏の千葉大会でもサイクル安打を達成した。サイクル安打を達成した試合は、本塁打の後に逆方向への安打があったが、本人のコメントから分かるように、強い逆方向の意識があったからこそできたもので、打撃の幅はこの1年で大きく広がった。
かくして、この1年の活躍が評価され、侍ジャパンU18代表入りが決まった。
「早川隆久さん、山下輝さんに続いて3年連続で木更津総合からの選出となるので、しっかりとやっていきたいですし、自分の持ち味は思い切りのよい打撃なので、打撃でアピールをしていきたいです」と打撃でアピールすることを誓った野尻は、実戦打撃練習からアピール。初日の打撃練習では痛烈なセンターフライを放ち、2日目には右投手から左中間を破る三塁打を放つなど、代表メンバーの中でも内容のある結果を残していた。
立教大とのオープン戦では1安打、大学代表との試合は無安打に終わった。野尻は「ヒットを打ちたい欲が出すぎていたので、もう一度、原点に戻って、シンプルに逆方向に。左中間に打ち返すことを心がけたい」と臨んだ明治大戦では、2打席目。左腕・磯村峻平が投じた外角直球をレフトの頭を超える適時二塁打を放った。野尻は「逆方向を狙っていたのでうまく打てた」と振り返り、気になる木製バットの対応については「だいぶ慣れてきました。木製バットはしなるので、その部分が最初慣れなかったのですが、木製バットを振って、どう捉えるのか。その感覚はだんだんわかってきましたし、今はだいぶ慣れてきました」と話し、木製バットにアジャストしているのは本当に頼もしい。
野尻は大会へ向けてこう語る。
「チームの一員として、お互いがカバーしあってアジア制覇に貢献できるように頑張りたい」
欲を捨てたことで打撃開眼したスラッガーは今、チームに欠かせない戦力となろうとしている。藤原恭大、小園海斗のドラフト指名候補が注目される今大会のメンバーだが、下位打線に座る野尻は恐怖の打者となるのか。
取材=河嶋宗一