あの俊足プロ野球選手のひざ痛を克服させた「コウノエベルトスパイク」の秘密【前編】
高校野球にまた新たなスパイクが登場した。その名も「コウノエベルトスパイク2」。身体のバランスを整え、本来持っている力を100%引き出すことをサポートする役目を持つ、「コウノエベルト」と呼ばれるベルトが使われているのが特徴。この「コウノエベルト」が誕生するまでの経緯を、WBC日本代表のパーソナルトレーナーとして2度の帯同を経験する鴻江寿治トレーナーに伺った。
最重要コンセプトは『ケガをしないスパイク』
穏やかな笑顔でインタビューに答える鴻江寿治トレーナー
「鴻江です。今日はよろしくお願いします!」
穏やかな笑顔を携え、インタビュールームに登場した鴻江寿治トレーナー。誠実な人柄を確信してしまう、包容力に満ちたオーラが印象的だ。
鴻江さんは学生時代に肩を故障したことをきっかけに、さまざまな施術やトレーニングのノウハウなどを研究。故障を防ぐとともに、本来のポテンシャルを引き出す独自の理論、施術を確立した。現在は、スポーツトレーナーの目線とCFP1級(国際的なファイナンシャルプランナーの資格)の目線の両方を持ち、プロ野球、プロゴルフ、ソフトボール、サッカー、格闘家など、競技の垣根を越えたトップアスリートの人生をサポートする「アスリートコンサルタント」として活躍中。
ソフトバンク・千賀滉大選手をはじめ、鴻江トレーナーのサポートによって成績を向上させたプロ野球選手は多い。
そんな鴻江さんのもとに、野球のスパイクに関する共同開発の依頼がデサント社から舞い込んだのは今から約3年前のことだった。
「スパイクを開発する上で掲げた最重要コンセプトは『ケガをしないスパイク』でした。機能ももちろん大切ですけど、最も大事にしたかったのは、『プレーヤーが故障なく、プレーできる環境をスパイクでアシストした上でパフォーマンスを上げる』こと。ケガによって、好きな野球が思い切りできなくなる選手をなくしたい。そんな思いでスパイクの新商品開発をスタートさせました」
強い思いを形にする上で、土台の役目を果たしたのは、身体のバランスを整え、本来のポテンシャルを引き出すサポートを主目的として鴻江トレーナーが開発した「コウノエベルト」だった。伸縮性を備えたこのベルトは、着用箇所別(骨盤、ヒジ、ヒザ、足首)に4種展開で一般販売されており、累計30万本を超える販売実績を誇る。
「かかとをホールドする足首用のコウノエベルトは、かかと部分の安定を生む効果があるのですが、かかとが安定すると身体のバランスが整い、人体構造上足がよく上がるようになるんです。高齢の父が転びやすくなっていたことをきっかけに『高齢者が転びにくい』ことをテーマにした、コウノエベルト内蔵シューズを5年ほど前に作ったところ、好評を博した。転びにくいシューズの構造原理をそのまま生かせば、ケガをしにくいスパイクが生まれるはず。そう考えたんです」
伸縮性のあるコウノエベルトをアッパーの甲部分とかかと部分にX状に配置。紐を結ぶことによる締め付けにコウノエベルトによる締め付けが加わることで足とシューズの一体感は従来品に比べ、大きく向上。甲の部分をコウノエベルトで締め付けることによって「足の指が開きやすくなる」という効果も生まれた。
「足の指が開き、裸足の時のように指が立つと、自分の指がクッションとなるので、衝撃を受け止めやすくなる上、地面を掴む感覚も増します。足とシューズの一体感が増すことで素足感覚になり、身体のブレや動きのタイムラグを軽減することにも成功した。ケガを防ぎ、本来、体が持っているポテンシャルを引き出すことでパフォーマンスを上げる。目指していたコンセプトに沿ったスパイクが出来上がったかなと。」
プロ野球界でも愛用者が増えている「コウノエベルトスパイク」
スパイクに搭載された「コウノエベルト」
完成した「コウノエベルトスパイク」を最初に履いたプロ野球選手は、ロッテの荻野貴司選手だった。当時の荻野選手は右ヒザの故障に苦しんでいた。手術も複数回経験。右ヒザには常に水がたまっている状態だったという。
スパイクを手渡した三日後、鴻江さんの携帯電話が鳴った。荻野選手からだった。
「『いただいたスパイクを履いたら3年間ずっとひざにたまっていた水が三日で抜けたんです。いったいなぜですか?』という内容の電話でした(※)」
――3年間抜けなかった水がスパイクを変えただけで抜けただなんてすごい話ですね。関節の中にたまった水は、注射器などで抜くしかないと思っていました。
鴻江寿治(以下:鴻江): 「関節内に水がたまるのには理由があると思っています。火事が起きれば水で消火するように、関節に炎症があると、体は水を流し込み、冷やすことで炎症をおさめようとする。だから炎症がおさまれば、水は勝手にひいていく。私はそう考えています」
――炎症がおさまった理由は何なのでしょうか。
鴻江: 「シューズのフィット感、一体感の欠如による下半身のブレがヒザの故障となってあらわれる人と、腰の故障となってあらわれる人の2タイプに大きくわかれるのですが、荻野選手の場合はヒザの症状となってあらわれるタイプでした。フィット感に優れたコウノエベルトスパイクを履くことで下半身のブレがおさえられると、ヒザのぶれもおさまり、ひいては炎症も自然とおさまる。炎症がおさまれば、冷やすための水は用がなくなるので、ひいていく。そういうことが荻野選手の身体の中で起こっていたのだと思います」
――荻野選手、嬉しかったでしょうね。
鴻江: 「コウノエベルトスパイクを使用したいという理由で、デサント社と契約して頂きました。スパイクを開発した立場の者としては、すごく嬉しかったです」
昨季(2017年)は、自己最多となる試合出場を果たした荻野選手。安打、本塁打部門でも自己ベストの数字をマークし、キャリアハイとなるシーズンを送ることに成功した。昨年、コウノエベルトスパイクが一般向けに発売された際には、以下の着用コメントをリリースした。
「『疲れにくい』『足が地面に引っ付いている』という感覚。足の甲をしっかりとホールドすることで、つま先が広がる感覚があり、安定感が増す。足首周りのホールド感がしっかりとあるので、全力で走ることができる。また、コウノエスパイク着用により、ヒザへの負担だけでなく、下半身全体の負担が減りました」
プロ野球界でも愛用者が増える一方のコウノエベルトスパイク。荻野選手以外の着用コメントも一部紹介しよう。(※)
「スパイクと足との一体感を感じる。それが下半身の安定感につながり、バッティング、フィールディング等のパフォーマンスが向上した。安定感が増し、次の動きに入りやすいので動きのロスが軽減され、疲労感もほかのスパイクよりも少ない」(横浜DeNA・伊藤光捕手)
「靴ヒモだけでなくベルトで締めることで、靴ヒモでは得られないホールド感を感じることができる。足指がよく使えている感覚がして、着地の安定感が増した。着地の安定感が増すことで、ケガのリスクを減らすことができていると思う」(埼玉西武ライオンズ・外崎修汰選手)
故障に悩まされ、本来の実力がなかなか発揮できなかったソフトバンクの千賀滉大投手は、左足を上げた時の下半身のブレが故障を誘発していることが判明。コウノエベルトスパイクを使用することで、故障がちな体と決別することに成功したという。
前編はここまで。後編では、「コウノエベルト」を搭載したスパイクが高校野球で使用できるようになるまでの開発の裏話。そしてスパイクの特徴と、スパイクに込められた鴻江さんの想い。最後に高校球児へのメッセージを伺いました。お楽しみに!!
(※)個人の感想であり、効果・効能を示すものではありません。
文=服部健太郎