Interview

谷田成吾(徳島インディゴソックス)「泥にまみれ、必ずNPBへ」

2018.05.01

 最速151キロ右腕・鎌田 光津希(敬愛大出身)、甲子園通算4度出場のスター・岸 潤一郎明徳義塾出身)など多くのタレントを揃える徳島インディゴソックスに新たな大物が加入する。

 その名は谷田 成吾(183センチ89キロ・右投左打・24歳・1993年5月25日生)。谷田は慶應義塾高では、高校通算73本塁打を記録し2011年には日本開催のAAAアジア選手権で高校日本代表入り。慶應義塾大でも東京六大学リーグ通算15本塁打。侍ジャパン大学代表にも名を連ねたスタープレイヤーだ。

 そんな谷田がなぜ徳島インディゴソックス入りを決めたのか?今年4月までMLBマイナー契約を目指していたアメリカで学んだことや、徳島インディゴソックス入り決断に至るまでの経緯、目標であるNPB入りへ向けて強い決意を語ってくれた。

勝負をかけた社会人2年間

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大学時代の谷田成吾(徳島インディゴソックス)

 

――まず社会人時代からお話を伺いたいと思います。谷田選手は慶應義塾大から名門・JX-ENEOSに進まれました。「ENEOSに進んだのはプロへいくため」と当時は聞いていますが、社会人ではまず何をアピールし、何を課題にしてスタートしたのでしょうか?

谷田成吾選手(以下、谷田) まず自分がアピールしたのは打撃で確実性を高めてよりよいものにしていくこと。また、肩には自信がありましたので、外野守備で送球の確実性を高めること、他にも走塁技術など、打撃以外の部分もプロの平均レベルまで高めることも課題に、全体的にスキルを上げて、スキのない選手になっていこうと思いました。

――社会人野球に飛び込んで、東京六大学野球との違いを感じましたか?
谷田 大学のリーグ戦と比べ、社会人野球は高校野球のように一発勝負の世界で、しかも会社から給料を頂いてプレーしています。いわば「会社に託されて試合に臨んでいる」。そこで結果を出すのは難しいことだなと思いました。

――社会人1年目はJABA東京スポニチ大会の初戦でサヨナラ打、さらに本塁打を打つなど、3試合に出場して打率5割と上々の滑り出しを切ります。
谷田 1年目は全体的に見てもそこそこ打てたと思いますし、ある程度、結果を残せたのは良かったです。
ただ、都市対抗予選で打てず、東京ドームで出場できなかったことは悔しかったですね。都市対抗に出場しないとアピールできないですし、その部分にスポットを当てれば満足できない1年でした。

――ただそれでも社会人ベストナインの外野手部門は三次選考まで残りました。NPBドラフト指名が解禁となる大卒2年目へ向け、高いモチベーションで過ごすことはできたと思います。
谷田 そうですね。2年目こそ大事だと思いましたし、プロへ行くためには勝負の年だと位置づけていました。

――ただ、2年目は苦しい年となりました。
谷田 最初のスポニチ大会で11打数0安打とつまずいてしまいまして…。そこから信頼をなくしてしまったんです。試合も出場したりでなかったりの状態が続き、都市対抗予選では試合に出場をしていても打順は下位。出場が代打に限られることも多くなりました。一番大事な年で、こういう事態になったことに歯がゆさを感じる日々でしたが、これは自分の実力不足が招いた結果です。
 この時期はいろいろなことを考えましたけど、自分にはどうすることもできないので、一日一日を大事に過ごして、少しでも自分の状態を高めて、結果を残して、プロに近づけるよう努力をしてきました。

――社会人2年目でも指名漏れという悔しい結果に終わりました。ドラフト会議が終わった11月以降は今後の自分の野球人生について考えたのでしょうか?
谷田 考えました。大学4年のドラフト後に、いろいろとお誘いいただいた中で、JX‐ENEOSに入ったのはプロにいく目標実現をするために一番だと思ったから。でも2年間でプロ入りはできなかった。

 それでも自分はプロにいきたかったし、このままでは野球が終われない思いがありました。そこで日本の独立リーグも考えましたが、アメリカにいってMLBマイナー契約をとることがプロ野球選手になる最も近い手段だとと思い、アメリカに行くことを決断したんです。

――とはいえ、今年もENEOSのキャンプにも参加していましたね。

谷田 正直、その時期はENEOSでもう1年頑張ってみるのも1つの手だと思っていました。ただキャンプが終わった直後、3月にMLBのある球団から「見たい」と声をかけられたんです。

 もちろん、この時期はMLBキャンプに招待参加後、カットされた選手など人があふれている。空きがなく、マイナー契約が厳しいことも自分では解っていました。でも、それでもその球団は「見たい」と言ってくれている。そして「少しでも可能性があるならチャレンジしたい」。そこで最終的にアメリカ行きを決めたんです。

[page_break:予想以上の活動と収穫を得られたアメリカ生活]

予想以上の活動と収穫を得られたアメリカ生活

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谷田成吾(徳島インディゴソックス)

――当然、アメリカ行きを決断したとなると会社と野球部をやめなければなりませんが、野球部の山岡剛監督をはじめとした首脳陣はどういう反応を示したのでしょうか。

谷田 監督は驚かれていましたけど、でも「お前が決めたことならば止められない。手続きも協力する」と言っていただきました。

――直後、谷田選手は「クラウドファンディングサービス」を通じ、渡米とトライアウトの資金を募りました。現役の野球選手としては斬新な取り組みです。
谷田 実はこれまでの進路で常に相談をしていた自分と年齢が近い知人がいて、アメリカ挑戦を提案したのも彼なんです。でも、自分はアメリカに行くためのお金を貯めていなかった。そこで「挑戦したい気持ちはあるけれど、金銭面で厳しい」と彼に告げると、クラウドファンディングサービスを提案してくれたんです。

 最初は正直資金を募るのは嫌でした。「だんだんプロ野球選手になる可能性が低くなっているのもわかっている自分が、人からお金をもらっていいのか」と。

――ところが、グランドファンディングには200万以上も集まりました。

谷田 驚きでした…。目標金額(100万)の倍以上の結果になるとは思いませんでした。支援者の年齢や性別の割合をこちらで確認できるんですけど、そこでさらに驚きだったのが、20代の男性の方が結構多かったこと。
僕と同じ20代ですと、仕事も金銭的にも結構大変な時期じゃないですか。そういう中でも支援してもらえって「ありがたいな」と思いました。

――渡米されたのはいつ頃ですか?
谷田 3月15日です。そして渡米の1週間後にトライアウトを受けました。
 そのあと、トライアウトの合間に自分の練習をしながら、個人的なトライアウトを行ったり、マイナーキャンプに参加させてもらったり、自分でショーケースというのを開催して、スカウトを呼んで自分のプレーを見ていただきました。

――では、渡米期間中の行動を具体的に教えてください。
谷田 テストとトレーニングが中心です。まず最初に声をかけてもらった球団にテストを受けましたが、なかなか返事がかえってこないので、僕の知人が僕のプレー映像を編集したものを他球団に見せてPRをしてくれて。MLBは計8球団のトライアウトを受けることができたんです。
 その合間はトレーニングをしたり、知人のツテを使ってもらってアメリカの独立リーグ選抜のメンバーの中に入れてもらってマイナーリーガーと対戦する試合に出場していました。また、メジャーのスカウトが視察する独立リーグのトライアウトも参加しました。
 結果的にもともと自分が予定していた以上のテストを受けることができて、いろいろな形で挑戦することができて、予定以上も長く、1か月以上もアメリカにいることができました。それも多くの方々から支援いただけたからこそ、できたものだと思います。

――トライアウトではどこをアピールしましたか?
谷田 「広角に強い打球を打つ」です。僕が混ぜてもらった独立リーグのチームの選手は粗削りでなかなか当たらないんですけど、しっかりと捉えた飛距離がすごい。その中ですと僕のパワーは中の下ぐらいで目立つことができない。だから「ライナー性を広角に打てるようにしよう」と。
 基本的にセンター方向に打ち返す意識で、ポイントが体に近ければレフト方向に飛んでいきますし、前でとらえることができればライト方向に飛んでいくイメージを持ってトライアウトには臨んでいました。

 また、アメリカではいい縁にも恵まれたんです。過去にMLBの球団でコーチを務めた経験があり、今は野球塾を経営している方がトライアウトを見に来ていて、ボランティアという形でコーチになっていただいたんです。
 その方からも「他の連中は引っ張ってばかりだけど、お前は広角にライナーが打てるのが強みだから、持ち味にしてやっていこう」といわれて、広角に鋭い打球を打つための練習をしていきました。

――では、コーチからは具体的にどんなことを教わったのでしょうか?
谷田 フォームはほとんどいじられなかったのですが、練習ではシンプルで打つときに顔を残して、バットの内側を出すためにグリップを先から出すことを意識することをアドバイスされました。ですので練習も右手で置きティーバッティングをひたすら繰り返し行いました。

――その練習法をもう少し具体的に教えてください。
谷田 結構難しいんですけど、外角・真ん中・内角にコースを設定し、片手でスイングをして、同じポイント、同じスイングをすること。コースによって、逆方向に打ち分けようとか、そういうことは考えず、どのコースに対しても、同じポイントで打ち返す。ぎりぎりまでグリップ(手首)を返さず、最後にヘッドが返るイメージです。

 これを1日100球~150球、毎日です。最初は「打った時に顔が残っていない。タイミングが早かった、遅かった」とコーチに指摘され、しっかりとできるまでに時間がかかりましたが、独立リーグ選抜に混ぜてもらって、マイナーリーガーと対戦しても12打数8安打を記録することができました。
 マイナーリーガーの投手はシングルAの投手がほとんどでボールに力がありますけど、粗削りな投手ばかりでしたし、社会人投手のほうがレベルが高いので、決して満足はしていないですが、スイング自体は変わったと思います。

[page_break:課題はアピールして結果を出すこと]

課題はアピールして結果を出すこと

谷田成吾(徳島インディゴソックス)「泥にまみれ、必ずNPBへ」 | 高校野球ドットコム
谷田成吾(徳島インディゴソックス)

――最終的にMLB球団のマイナー契約は勝ち取れませんでした。

谷田 トライアウト後もなかなか連絡がなかったので、自分はないと思いました。

――もしマイナー契約を勝ち取ることができなかった時の選択肢は考えていたのでしょうか。

谷田 いろいろな選択肢がありました。試合に参加する中で、アメリカの野球、雰囲気の良さを感じていて、アメリカの独立リーグも考えましたし、カナダの独立リーグチームからも誘われました。そこで、いろいろな人に相談した時に徳島インディゴソックスさんからオファーを頂いたんです。
 そこで球団関係者から「NPBに行くために全力でサポートするよ。協力する。一緒に頑張ろう」と強く声を頂いた。NPB選手を目指すために最もいい環境だとそこで確信しました。

――では、谷田選手がここからNPBを目指すために、どういうところをアピールしたいと考えていますか?

谷田  アピールするところは何でもアピールしたいです。守備については「谷田、思ったより守れるじゃん」と思わせたいですし、打撃も「社会人の時よりも格段によくなっている」と思わせたい。だからこそ結果を出していきたいですね。
 そして社会人野球で学んだこと。細かいカバーリング・バックアップ。走塁では1つ1つ先の塁を狙う姿勢もアピールしたいです。

 そうやって少しでもNPBの球団に「獲ってみようかな」と思わせたい。僕は育成枠でも入りたい気持ちなので、なんでもアピールしたいと思います。それが自分の課題でもあります。

――四国アイランドリーグplusで、目標とする数字はありますか?

谷田 独立リーグの試合に出場にしていないので具体的な数字はイメージできないですが、やるからには全部の項目で一番を目指していきたいと思います。

――では最後に、サポートを頂いた皆さんに対しても含めて、徳島インディゴソックスでの意気込みをお願いします。

谷田 僕が会社を辞める、辞めないかの決断になった時、かなりの人たちに話を聞かせてもらったり、助けてもらいました。また、アメリカ行きも多くの方々に支援していただきまして感謝の気持ちでいっぱいです。そういう方々がいなければ、こういう決断、行動には出られなかったと思います。

 多くの方々の協力のおかげで、ここまでこれて、一歩一歩踏み出せたと思うので僕ができることはそういう人たちに「協力してよかった」と思えるように結果を出して、NPBに行きたいです。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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