Interview

広島東洋カープ・新井貴浩(広島工出身)選手「カープの大ベテラン語るスパイク話」

2018.01.18

 丁重な挨拶とともにインタビュールームに登場した広島カープ・新井 貴浩選手。スーツに包まれた189センチ、102キロのボディに圧倒されながら名刺を差し出すと、気さくで優しそうな笑顔が返ってきた。

 ミズノのアドバイザリースタッフである新井選手はこの日、年に一度おこなわれるミズノアンバサダー会議に出席。会議終了後、貴重な時間をいただけることになった。
 「今日はスパイクのお話ですよね。僕は足の大きさは28センチです。体の割にはそこまで大きくないので、サイズに困った経験はないですね」

 プロ生活19年で積み重ねたホームラン数は315本。今年41歳を迎える稀代のスラッガーのスパイク話に耳を傾けてみよう。

最初は戸惑いっぱなしだった金具式スパイク

広島東洋カープ・新井貴浩(広島工出身)選手「カープの大ベテラン語るスパイク話」 | 高校野球ドットコム
新井 貴浩選手(広島東洋カープ)

 まずは新井選手のスパイクに対するこだわりポイントを尋ねてみた。
 「スパイクで一番重要視しているのは履いた時のフィット感です。足の横幅があるタイプなので、ストレスが足にかからないよう、幅は広めにつくっていただいています。重量に関しては軽い方が好みですが、裸足の感覚に近いような、軽すぎるタイプは苦手で。足を売りにしているタイプでもないですし、多少の『スパイクを履いている感』はほしいので、少し軽めくらいがいい。アッパー素材に関しては手入れがしやすい方が好きという程度で特に強いこだわりはないです」

 歯が金具式のスパイクを初めて履いたのは中1の時。小学生時代に使用していたスタッド式との感覚の違いに「最初は戸惑った」という。
 「歯が金具になることによって、地面との接地面積が少なくなったせいか、『不安定だな。捻挫しそうでこわいな。なんだか落ち着かないな』と感じたことをよく覚えています。極端にいうと、金属の下駄を履いてるような感覚。打席に立っても歯の分だけ目線が高くなる。たかだか1センチ程度のことなのに投手方向を見た時の視界がずいぶんと変わった印象がありました」

 しかし履き慣れてしまうと、金具式スパイクの威力を感じずにはいられなかった。
 「歯が地面にグサッと刺さるので、小学校時代に履いていたスタッド式とはグリップ力がぜんぜん違う。土を噛むように走ることができますし、打撃面でも踏み出した足をしっかり踏ん張ることができ、鋭く体を回転させることができる。金具のスパイクと野球のプレーとの相性のよさを実感しました」

スパイクの歴史は進化の歴史

 「買ってもらったスパイクは大事に長く使っていた」と回想する新井選手。
 「昔の金具は摩耗してすぐに擦り減ってしまうので、歯が短くなるたびにこまめに取り換えていた記憶がよみがえります。時々、金具を固定するためのねじがゆるんだ状態でプレーしてしまい、いつのまにかねじがとれてしまって金具がブラブラしていたこともありました。現在は金具をねじで固定する方式ではなく、埋め込み式が主流。歯も摩耗しにくい素材になり、金具やねじを交換する必要がなくなった。樹脂底の性能も昔に比べたら格段に上がりました。昔は履き始めが硬く、足になじむまである程度の期間を要したので、革底のスパイクの方が好きでしたが、今どきの樹脂底は最初から弾力、柔軟性があり、なじませる必要がなくなった。今ではすっかり樹脂底派。スパイクの進化をソールの部分でも実感します」

 スパイクの歯の数は前方に3本、かかと側に3本を配置した6本歯が長らく球界の常識だったが、1990年代に入ると、前方の歯の数を増やしたスパイクが登場。新井選手も前方に6本の歯を搭載したミズノの9本歯スパイクを長きにわたって愛用している。
 「前に歯が3本増えたことによって土を噛む感覚、グリップ力が相当上がった感覚があり、走攻守のすべてにおいてプラス効果を実感しました。今となっては6本歯のスパイクには戻れない。多本歯スパイクの登場はまさに革命でしたね」

[page_break:新井貴浩選手から球児へのメッセージ]

打撃力向上を目的としたスパイクとは?

 新井選手はインタビュールームのテーブルに置かれていたミズノ「PSシリーズ」のサンプルスパイクを手に取った。「PSシリーズ」は打撃力を高めることを目的に開発された今年度発売予定のミズノの新商品。大きな特長は、安定感を生む場所には金具ではなくスタッドを配置し、土を噛む上で重要な部分には金具を残した新ソール。グリップ力とバランスを両立させた新タイプのスパイクに新井選手は興味津々だ。
「スタッドと金具が融合した、見るからに画期的なスパイクですよね。金具だった部分を一部スタッドにすることで、下駄を履いてるかのような金具の不安定な要素を解消しているわけか。金具とスタッドの配置場所もきちんと計算されつくしているんでしょうね。すごいなこれは」

 投手側の足を踏み出した際に回転によって生じたパワーが逃げにくいよう、アッパー素材のくるぶし側にはテープが内臓される工夫が施されていることを知り、思わず感嘆の声を上げた新井選手。
「まさに打撃をアシストしてくれるスパイクですね。足首周りのフィット感もよさそうで、ケガのリスクも減らせそうな予感がします」

 ――「打撃力を高めてくれるスパイクがあったらなぁ」と思ったことは過去になかったですか?
 「なかったですねぇ。自分の技術を高める以外ないと思ってましたから。若い頃にメーカーの担当者に冗談で『体が開きにくくなるようなスパイクくださいよー』なんてお願いしたことはありましたけど、打撃向上の要素をスパイクに本気で求めたことはなかったです」

 新井選手は「ミズノの開発陣の方々の探求心、追求心には唸らされっぱなしです」と続けた。
 「新商品が開発されるたびに『もうこれ以上はないだろう』と思ってしまうのですが、さらにいい商品をどんどんアップデートしていきますからね。本当にすごいと思う。開発陣の方々には感謝しかないです」

新井貴浩選手から球児へのメッセージ

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新井 貴浩選手(広島東洋カープ)

 ――最後に球児へのメッセージをお願いします。
 「今は情報社会。その気になれば野球の技術に関する情報などもインターネットなどを介して手軽に入手することができる時代です。でもいろんな情報が簡単に手に入る分、取り組んだことの成果が出なかったときにすぐにほかの情報に乗り換えたくなり、結果的に情報のつまみ食いをしてしまいがちな時代ともいえる。つまんではポイ、これ合わないからポイということを繰り返すうち『あれ? 何年も野球をやってきたのに結局、しっかりした技術はなにも身についていなかったぞ」ということにもなりかねない。
いろんなことにトライすることはものすごくいいことだとは思うのですが、やると決めたことをある程度腰を据えて辛抱強く継続する姿勢も大切。やっぱり野球って簡単に上達するスポーツじゃないので。打撃フォームひとつとっても、ちょっと結果が出ないからといって、コロコロ変えていてはいつまでたっても本物の打撃になっていかない。ひとつのことをコツコツ、粘り強く継続していくことの大切さを意識しながら日々の練習に取り組んでほしい。情報が氾濫している時代だからこそ、より一層その意識が大事になってくると思います。

 ぼくが学生だった頃は、まだインターネットも普及しておらず、情報を得るというよりは、指導者に命じられるがまま、ただひたすらにバットを振る毎日でした。高校、大学、そしてプロに入ってからも『バットを振った』というよりは『振らされた』という言い方の方が正しかったような気がしますが、自分の意志だけではあれだけの練習量をこなすことは不可能でした。その時は苦しくて、嫌で仕方がなかったのですが、あの頃にやらされた練習のおかげで今の自分がある。現在、現役でプレーしているみなさんも『嫌だ』『苦しい』『きつい』という感情に襲われることは多々あると思いますが、その感情に負けず、やり続けることができれば、後に『あの苦しい時期があってよかった』と思える日々が必ずやってきます。やっぱり苦しいことに耐えてこそ花は咲く。球児のみなさん、頑張ってください。応援しています」

(文・服部 健太郎

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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