Interview

田中 悠我(帝京) 「次こそ夢の聖地へ!」

2017.12.21

 センバツは第90回、夏の選手権は第100回大会を迎えるなど、高校野球にとって節目の2018年。加えて新3年生となる世代は2000年生まれが大半を占める、いわゆる「ミレニアム世代」。すべてにおいて記念すべき一年を飾るべく、全国各地で逸材たちが活躍の助走に入ろうとしている。

 そこで今回はそのトップレベルプレイヤーたちを徹底インタビュー。インタビューするのは帝京田中悠我だ。

 これまで数多のプロ野球選手を輩出し、春1回、夏2回の全国優勝を誇る帝京(東京)。しかし、その後は東京(東東京)大会で上位に進出するもののあと一歩が届かず、2011年夏を最後に甲子園から遠ざかっている。そんな名門復活を目指すチームにおいて中心選手として期待されている田中 悠我の歩みを振り返る。

乱打戦となった帝京vs智辯和歌山に憧れて

田中 悠我(帝京) 「次こそ夢の聖地へ!」 | 高校野球ドットコム
田中 悠我(帝京)

 田中選手が野球を始めたのは小学1年生の時。児童館で一緒に遊んでいた先輩から誘われたのがきっかけだった。中学時代はポニーリーグの江東ライオンズでプレーし3年夏はジャイアンツカップに出場。2回戦で敗退したが、その試合で田中選手はホームランを放っている。そして、自分の進路として帝京を意識しはじめたのもこの頃だ。

 「乱打戦になった(06年夏)甲子園での智弁和歌山戦の映像なども見て、『東の横綱』『強打の帝京』という印象を持っていました。縦縞のユニフォームも威圧感があってカッコよかったです」

 こうして憧れの帝京に入学した田中選手。入部した当初は「先輩たちの体が大きくてびっくりしました。2学年上には郡 拓也(日本ハム)さんもいたのですが肩は強いし、足も速い。なにより考えて野球をするという部分で大きな差を感じました」と振り返る。

 しかし、バッティングでは負けていなかった。1年夏には既にスタメンとして起用され、全4試合で打率・500(12打数6安打3打点)を記録。「集中力があるタイプで一度自分の世界に入ったら、のめりこむ感じなんです。でも、試合では周囲に気を配る必要があるので、逆にのめりこみすぎて視野が狭くならないように打席に入る時やポジションについた時は必ず一礼をしています。そうやって自分が落ち着いていることを確認し、気持ちの余裕を持つようにしているんです」

 順風満帆ともいえるスタートを切った田中選手だが、1年秋は一転して調子を落としてしまう。「秋季大会はまったく打てませんでした。その頃はバットが外から回って出てきていて、サードゴロやショートゴロばかりでした」。そんなスランプから、田中選手はどうやって脱却していったのだろうか。

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セールスポイントは逆方向への強い打球

田中 悠我(帝京) 「次こそ夢の聖地へ!」 | 高校野球ドットコム
インタビューに答える田中 悠我(帝京)

――逆方向を意識することで、どんなメリットがあったのでしょうか?

田中:元々、逆方向へ強い打球が打てる時は調子が良い証拠だったのですが、逆方向を狙うようになってからは打率が高くなりましたし、全体的に打球も強くなっているように感じています。そして、体に近い方がボールを捉えやすいのですが逆方向を狙うことで、よりボールを近くに呼び込めているのではないかと思います。

――また、田中選手は独特な打ち方をしているそうですね?

田中:バットの握り方なんですが、まずは指の第一関節あたりにグリップを置いてそのまま指先から巻き込むようにして持ち、テイクバックの時に握り直して打ちにいっているんです。つまり、打つ直前にバットを手のひらのなかでクルッと回しているのですが、自分でもそんな打ち方をしていることには気付いていなくて、ベンチから『見えていたバットのメーカーのマークが、打つ時には見えなくなっていた』と言われて分かったんです。バットを握り直して回すには、一旦、力を緩めなければいけないので、それで余計な力みが抜けて柔らかい打撃ができているのかもしれません。ただ、チームメートの何人かはこの打ち方をマネしてみたのですが、誰も上手くできませんでした。

――タイミングはどうやって取っているのでしょうか?

田中:1年の夏前からノーステップにしていたのですが、この夏の大会中に足を上げるフォームに戻しました。自分としては、どちらのフォームも違和感なくできているので、試合中に変えることもできるくらいです。

 得意のバッティングで右打ちの技術を高める一方、昨冬はトレーニングに励んだ田中選手。「帝京伝統のタイヤ引きというのがあって、トラックの大きなタイヤを三塁線から一塁線まで2往復とホームから二塁までを2本。それぞれバック走もやりますし、設定されたタイムを切らないとその秒数分だけ腕立て伏せや腹筋をしなければいけないのできつかったです」。この走り込みと1日おきでやっていたのがウエイトトレーニング。「スクワットで下半身の筋肉をつけ、ベンチプレスで上半身を鍛えました。春を迎える頃には胸回りが厚くなって、バットを軽く振っただけでも打球が飛ぶようになり、春季大会ではホームランを打つこともできました」

[page_break: チームを1つに今度こそ夏の甲子園へ]

チームを1つに今度こそ夏の甲子園へ

田中 悠我(帝京) 「次こそ夢の聖地へ!」 | 高校野球ドットコム
田中 悠我(帝京)

  守備では1年生の12月にショートへコンバートされた。
 「中学時代はライトで、帝京に入ってすぐの頃はサード。そして、夏からはレフトを守っていました。だから、ショートをやれと言われた時は一度、サードを外されているので正直、不安だったんです。でも、やるからにはここ一番の場面で良いプレーをしてやろうと思い直して、それからはノックを受けまくりました。ショートは難しいですけれど、ファインプレーも出せるし好きなポジションです」

 一回り成長して迎えた2年の春季大会はベスト4に進出。しかし、準決勝で日大三の前に敗れた。(レポート)「櫻井 周人投手(DeNA・ドラフト5位)と対戦して真っ直ぐは打てると感じたのですが、スライダーは途中で消えてしまったかのように感じるほど鋭く変化していました。ただ、勝てない試合ではなかったですし、その後は良いピッチャーと当たっても『櫻井投手にくらべれば大丈夫』と思って打席に立つことができました」

 夏の東東京大会では準々決勝では東海大高輪台に延長戦の末、サヨナラ負け。田中選手が土壇場の9回に放った同点ホームランも勝利にはつながらなかった。「その場面は、打席に入る前に中学時代から同じチームでプレーしてきた先輩の金村(和広)さんに肩を叩かれて『何も考えずに楽に行け』と言われたんで落ち着いていました。でも、この試合に勝てれば甲子園に行けると考えていたので、負けてしまってとても残念です」

 続く秋季大会は準々決勝でまたも日大三に敗退。6回終了時点では4対4の同点だったが、7回に一挙8点を奪われコールド負けした。「2日前の試合でエースの松澤(海渡)が9イニングを投げていたので、日大三は最初から後半勝負だった。でも、序盤は打線で援護をすることができず、相手の試合巧者ぶりにやられてしまった。コールド負けは屈辱だと感じています」

 名誉挽回のためには、オフシーズンの過ごし方が大切になってくる。「この冬はとにかくノックとトレーニング。ノックでショートの守備を安定させて、トレーニングで体を大きくしたい。体を大きくすれば、春にはもっと長打も出るようになっているでしょうから、春季大会では日大三にリベンジし、夏は甲子園。前年のチームより打力はあるので、チームがひとつになれば十分、狙えると思います」

練習後、田中選手はグラウンド脇にある野球部の栄光の歴史が刻まれた石碑に向かって脱帽し頭を下げた。これはいつもやっていることだという。OBたちが築き上げてきた伝統に敬意を表し、さらに未来へと引き継いでいく。そのためにも田中選手と帝京は来夏、7年ぶりとなる聖地を目指す。

(文・大平 明

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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