Interview

西村 天裕(NTT東日本)「ストイックな姿勢を貫くスピードボーラー」

2017.10.22

 最速154キロの直球を誇る注目右腕・西村 天裕投手(NTT東日本)。県立和歌山商時代から県内屈指の速球派右腕として騒がれ、帝京大では1年時に150キロを計測。以後、首都大学を代表する速球派右腕として、通算25勝を挙げる活躍を見せた。NTT東日本でも速球を武器に活躍を見せているが、そこには多くの苦難があった。プロで活躍するために西村が見据える投手像を伺った。

中学時代から自覚があった速球投手としてのプライド

西村 天裕(NTT東日本)「ストイックな姿勢を貫くスピードボーラー」 | 高校野球ドットコム

西村 天裕(NTT東日本)

 速球へのこだわりは誰よりも強い。野球を始めたときから速い球を投げることには自覚があったが、中学時代のある出来事をきっかけに、急激にスピードが上がった。それは「野球肩」による医師からの3か月間の投球禁止だ。

 3か月間のブランクが明けて投球再開を迎えた時、以前より強いボールが投げられるようになっていた。そこから西村の球速はぐんぐんと伸びて行くことになる。
「自分で映像を確認したわけではないですけど、中学校の最後は軟式で135キロぐらい出ていたそうです。」

 中学3年時には6番一塁として、全国大会の舞台も経験した西村は、県立和歌山商に進学。1年生の時から登板機会を与えられたものの、背番号1を背負うようになったのは2年秋からだ。その秋の和歌山大会を勝ち上がり、近畿大会への出場を果たした。しかし当時は調子がなかなか上がらず、初戦のPL学園戦に先発したのは同学年の釘貫 友揮だった。西村はリリーフで登板したものの、初戦敗退に終わった。

最後の夏は最速144キロのストレートを武器に和歌山大会に臨んだが、3回戦敗退に終わり、甲子園とは無縁の高校3年間だった。

 当時からプロへ強く憧れていた西村は、監督にその想いを語ったところ、東京の大学に進学し、そこでレベルアップすることを勧められた。そして西村にとって一つ大きな転機となる、帝京大というステージへ進むこととなった。

 和歌山から関東へ上京した西村。「1年生から勝負だと思っていた」と決意を胸に、新たなステージでアピールを続け、1年時から登板機会を与えられるようになる。

「『帝京に速い球投げる投手がいる』と注目して頂いて、その中で結果も出せて今があるので、こっちに来たのは絶対正解だったと思います」と語り、関東に戦いの場を移すという選択が、西村の野球人生にとって一つ大きなプラスになった。

[page_break:速球投手の才能を引き出した週6回のウエイトトレーニング]

速球投手の才能を引き出した週6回のウエイトトレーニング

西村 天裕(NTT東日本)「ストイックな姿勢を貫くスピードボーラー」 | 高校野球ドットコム

西村 天裕(NTT東日本)

 西村は帝京大で持ち味の速球にさらに磨きをかける。カギとなったのはウエイトトレーニングだ。

「大学、そしてNTT東日本の先輩である加美山 晃士朗さんに誘われたのがきっかけです。」
加美山から大学内にある施設でウエイトトレーニングを薦められ、始めることにした。そこで後に大恩人となるトレーナーとの出会いを果たした西村。そのトレーナーからトレーニングの方法を学びながら取り組むと、ウエイトトレーニングを始める前は145キロ前後だった球速が、1年の秋には150キロをマーク。効果はてきめんだった。

「青柳がいなかったら、自分はここまで成長できてなかったと思います」というほどのライバル関係となった二人。一足先にプロの世界へ飛び込んだ青柳とは現在でも連絡を取り合い、登板の際には何らかのメッセージを送っている。

 1年で150キロ右腕となった西村は大学2年時にはすでにプロの世界を見据えていた。そして早くもエースの役割を担うと、東海大、日本体育大といった強豪大学との勝負も必然的に生まれる。しかし、対戦するたびに悔しい負けを味わっていた。

「打たれる球は全部甘くて、その一球に後悔することが多かったので、そこを詰めていこうと正捕手・木南 了さん(現・日本通運)とも話してたんですけど、東海大みたいな強豪はそれでもしっかり仕留めてくるんですよね。」

 西村も甘い球を減らそうと試みるが、相手も数少ない甘い球を捉えてくる。そのようなハイレベルな戦いの中で成長を続け、大学3年秋には、当時リーグ33連勝中だった東海大の連勝を止めるなど、7勝1敗、防御率0.90の好成績を上げて首都大学リーグ屈指の剛腕投手へ成長する。

絶望から立ち直ることができたトレーナーの一言

 そして大学4年。プロへいくために練習に打ち込んだ1年だったが…。ドラフトまで1か月を切った10月3日、秋季リーグ戦で前十字靭帯断裂の大怪我を負ってしまい、この年のプロ入りが絶望的となる。

 プロ入りの夢が叶うかというときに唐突に訪れた不運。
「今だからいえることですけど、はっきり言って切り替えることはできませんでしたね。正直復帰できるのかなと思いました」

 その絶望の日々に光を与えてくれたのは、帝京大で1年時から面倒を見てもらったトレーナーだった。

「絶対2年後行くんだろ、プロに行けなかった悔しさを社会人野球でぶつけろ!」
 この言葉が、西村にとって何より励みになった。「その言葉がなかったら今はどうなっているか分かりませんね。」

 激励の言葉を胸に、2年後に夢の舞台で輝く日を夢見て、戦いの場をNTT東日本に移す。医師からGOサインが出た時にはすぐ戦えるように、と手術が終わった時から体作りに励んだ。

[page_break:速い球を投げるだけではなく、速い球を生かせる投手に]

速い球を投げるだけではなく、速い球を生かせる投手に

西村 天裕(NTT東日本)「ストイックな姿勢を貫くスピードボーラー」 | 高校野球ドットコム

西村 天裕(NTT東日本)

 そして1年目の8月には試合に復帰。間もなく公式戦の初登板を迎えた後、日本選手権予選では2試合連続で抑えの役割を託されることになった。154キロを記録したのはこの時だ。

「投げたとき、球場内([stadium]大田スタジアム[/stadium])がざわついていたんですよね。でも球速表示は見ていないのでそのまま投げて、ベンチから戻ったら『154キロ出ているぞ』といわれ、えっ?と」

 1年目は、しっかりと腕を振ることだけしか考えていなかった。それはそれで楽しかったという西村。だが指名解禁となる2年目には1年目とは同じではいけないと考えた。

「150キロを投げても、バッターが150キロが来ると分かっていたら打てるじゃないですか。だから150キロより140キロぐらいの球を数字より速く感じさせる、球質の良さを上げるように投げていこうと。力じゃなくて、ゆったりとしたフォームからビシッと投げるように意識しています。」

 その取り組みは都市対抗予選まではうまくいった。代表決定戦のJR東日本戦では4回からリリーフ登板し、5イニングを投げ6奪三振、無失点の快投で都市対抗出場。あとは取り組んできたことを都市対抗で出すだけだったが、ある時から調子を崩してしまう。

 都市対抗では2試合に登板したが、計1イニングを投げ6失点と悔しい投球に終わった。しかし、乱調の要因について、西村はしっかりと理解していた。

「ゆったりしたのを追求した中で、予選まで形はできてたんですけど、そこからもう一つ違う形を求めようとしていたら悪い方に行ってしまって、やろうとしたことは後悔していませんが、すぐ自分のフォームに戻れなかったんで、それがもったいなかったですね。」

 西村がフォーム面で意識していることは、右投手にとって軸足となる右足の使い方だ。
「右足1本で立った時の重心をしっかり割るという意識で体重移動に入ります。その割りを今シーズン意識していて、それがうまくいっていたんです。僕が取り組んだのは、今のフォームからカットボールの割合を増やし、さらに精度を磨くことでした。今まではスライダーとスプリットしか投げていなかったんですけど、そこにカットボールが入れば、投球の幅が広がると思って。しかしカットボールを投げようと意識するあまり、元のほうがおろそかになって、体のバランスがおかしくなってしまって、自分でわけわからなくなってしまって。都市対抗には間に合わなかったですね」

 ただ技術的な原因が理解できた分、復調の兆しは見えていた。夏にはしっかりとフォーム修正に取り組み、秋の公式戦、オープン戦で好投を見せ、スカウト陣にアピールしている。2年前の大怪我を乗り越え、再びプロへの挑戦権を得た西村。現在の課題についてはこう語る。

「打者を見て自分の投球をすること。それがしっかり出来て世界は変わると思いますし、投球の幅が広がると思います。」

 最後にドラフト間近に迫った心境を語ってもらった。
「いろいろありましたが、プロ行きたいですね。先発・中継ぎ・抑えどこをやるかはわかりませんが、任された役割でしっかり1年目からすぐ活躍できるように頑張るだけです。」

 その「いろいろ」はとても波瀾万丈に満ちたものである。そういう出来事も屈託のない笑顔で振り返る西村の人柄は、誰からも愛される要素が備わっている。それでいて、何事にもストイックに取り組むスピードボーラーに10月26日、吉報は届くのか、注目だ。

(インタビュー/文・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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