Interview

阪神タイガース・青柳 晃洋投手「制球力向上に必要なのは”再現性の高いフォーム”」【後編】

2017.06.14

 2015年秋、阪神タイガースのドラフト5位指名を受けプロ入りを果たした青柳 晃洋投手。アンダースローよりも上、サイドスローよりも下の位置から腕が振られる投球フォームは「クオータースロー」と称され、独特の投球軌道を描く。ルーキーイヤーの昨季は13試合に登板し、4勝、防御率3.29をマーク。ローテーションの谷間を埋める貴重な役割を果たした。

 今回は2年目の飛躍に挑む青柳投手に「投球メソッド論、制球アップ術」というテーマをぶつけるべく、タイガースの本拠地、甲子園球場を訪れた。いったいどのような話が聞けるだろうか。

劇的に進化した「クイックモーション」

青柳 晃洋投手(阪神タイガース)

 プロ1年目、青柳は16度盗塁を企てられ、許した盗塁数は13。走者を置いた状況で大きな課題を残した。
「一塁にランナーが出るとすごく気になってしまう。その分、バッターへの集中力がそがれ、フォアボールで一、二塁にしてしまい、バントで送られて走者が三塁にいってから、ようやく大きく足を上げてバッターと勝負ができる、という状態でした」

 クイックモーションのタイム自体は1.2~1.3秒とそれほど遅くはなかったものの、体を沈めながら投げるフォームのため、上体が折れ始めた段階でランナーはスタートが切れてしまう。これが許した盗塁の多さの主要因だった。青柳は2年目に向け、改善法を模索し続けた。

「上体を沈める時間がタイムロスにつながっていたので、あらかじめセットポジションの段階で体を前に倒しておこうと。膝も最初から折り、体重も軸足に最初から乗せておくことで、『あとは足を前に踏み出すだけ』という状態をセットポジションの段階で作っておく。このフォームを手に入れてから、ボールの威力を落とすことなく、クイックに投げられるようになりました」

 フォーム改良後のクイックモーションタイムは驚異の0.9秒。一躍チームトップクラスのクイックの使い手となった。手に入れた至高のクイックモーションの威力が発揮されるのは塁上に走者がいる時だけではない。青柳は無走者の時でも打者を打ち取る術のひとつとして、クイックモーションを使用している。

「西武のサブマリン・牧田和久さんのように無走者でも時折、クイックを織り交ぜていけば、ボールの緩急に加え、フォームにも緩急をつけることができる。これからも取り入れていきたいと思っています」


青柳流「再現性の高いフォーム」の入手法

青柳 晃洋投手(阪神タイガース)

「コントロールのいい投手の特徴は?」という問いを青柳に投げかけたところ、「フォームの再現性が高い投手」という答えが返ってきた。

「同じ動きが毎球できる投手はボールが同じところにいく確率も高くなります。でもフォームが1球1球違う投手は、仮に1球素晴らしい球が投げられたとしても、次の球が抜けてしまったりする。いくら頭で同じ球を投げようと思っても、フォームの再現性が低ければ、ボールはばらついてしまいます。タイガースだと能見篤史さんや安藤優也さんはいつも同じフォームで投げられる。コントロールも当然よくなります」

――フォームの再現性の向上を願う高校球児に対して、おすすめの練習メニューはありますか?

青柳 晃洋投手(以下、青柳):鏡を見ながらのシャドーピッチングは自分の理想に近いフォームで投げることができるので、フォーム固めにはもってこいだと思います。

――バッティングの素振りのように、ボールを使わない分、形に集中できる。

青柳:でも実際にボールを使って投げると、なかなかシャドー通りのフォームでは投げられない。そこでお勧めしたいのは、投球練習の直前にシャドーピッチングをおこなうやり方。形に集中できるシャドーで得た理想のフォームの感覚を頭と体に染み込ませた状態で、ボールを投げる段階に移ることで、理想のフォームの再現率はぐんと高まります。

――なるほど。シャドーピッチングはおこなう順番とタイミングで効果は変わってくる。

青柳:そう思います。あと、1日あたりの投球数は30球程度でいいので、なるべく間隔をあけず、週5、6日のペースでピッチング練習をすることもお勧めです。人間の身体は一日、一日状態が違う。体が重く、ボールが走らない日もあれば、すごく元気でボールが走る日もある。でも人は基本的に元気でボールが走る日にピッチング練習をしたくなりがちです。そしてそんな日はついつい多めに投げてしまう。

――わかる気がします。気分いいですものね。

青柳:状態のいい時に投げることももちろん大事なんです。でも、状態の悪い時にも投げることで『いいときと悪い時とではどこが違うのか』ということを考えることが可能になる。この『いい時と悪い時の内容をすり合わせる』という作業の継続がフォームの再現性の向上に非常に有効なんです。


「いい日と悪い日の違い」に日々向き合う


『いい日と悪い日とでなにが違うのか』というテーマと日々向き合う習慣をつくる

――毎日に近いペースで投げることで、いい日も悪い日も投げる状況を継続的につくることができる。

青柳:そうなんです。常に同じフォームで投げるということは、いかなるコンディションにおかれてもそのフォームを再現できるということ。そのためには日々、好不調を意識した投球練習をおこなわなければ、再現性の高いフォームはなかなか手に入らない。プロがキャンプなどでおこなう、1日に集中してたくさん投げる『投げ込み』と称される練習法もフォーム固めやコントロールの向上に有効だとは思いますが、量をともなう練習法は、まだ体が出来上がっていない高校生には故障のリスクが生じるのでお薦めできない。

 それならば1日あたりの球数を少なめにし、毎日に近いペースで投げることで、『いい日と悪い日とでなにが違うのか』というテーマと日々向き合う習慣をつくる。シーズン中は毎日のように試合があるプロだとなかなかできないやり方ですが、平日は練習、週末はゲーム中心というスケジュールで動いている高校球児には合うのではないかと思います

――来たる夏の大会でチームのために結果を出したいと願う高校生ピッチャーたちへのアドバイスを最後にいただけませんか。

青柳:困った時に真っすぐでしかストライクがとれないピッチャーは多少球が速くても狙い打たれてしまい、なかなか望む結果は手に入りにくいです。でも、いつでもストライクがとれる変化球がひとつあれば、たとえスピードに自信がなくても、高校野球では十分通用すると思います。別にコーナーに決まらなくてもいいんです。10球投げたらストライクゾーンのどこかに8球入ればいい。そんな変化球をぜひひとつ身につけて夏本番に臨んでほしいと思います。高校球児のみなさん、頑張ってください!

(インタビュー/文・服部 健太郎


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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