福岡ソフトバンク 東浜巨投手(沖縄尚学出身)「”積み重ねることが唯一の道” 東浜流制球力向上メソッド」【後編】
後編では東浜巨投手に引き続き、コントロールを良くするための極意を伺った。テクニカル、メンタル、トレーニング面においてさまざまなアドバイスをいただいた。
前編インタビュー「制球力を高めるにはイメージできることが大事」
無意識下でこそ体現出来る世界がある
東浜 巨投手(福岡ソフトバンクホークス)
――テークバックの際に、ヒジが高く上がるフォームが印象的ですが、ヒジの高さは意識しているのですか?
東浜:あれは完全に無意識です。横を向いてる時間を長くしよう、ギリギリまで横を向いてようという意識を持つ中で、気づいたらああいうふうにヒジが上がっていたという感覚です。
――無意識だからこそ生じる動作も多々ありそうですね。
東浜:ありますね。ピッチングを難しく考えてしまうとうまくいかないので、極力シンプルに、単純に考えることが大事だと思っています。自分の場合は、狙うところを決めたら、足を上げてまっすぐ立ち、両足の内側をしめるイメージで前に出て行き、着地したあとはグラブ側の手を止めて、あとは体をターンする、というイメージ。試合になるとさらにイメージはシンプルになり、足を上げて一本足で立った後は極力意識を入れないようにしています。
――「ボールを持った利き腕は振るものではなく、勝手に振られる感覚が理想」と言われることがありますが、東浜さんの利き腕に対する意識はどのようなものですか?
東浜:腕を振るという意識はないですね。腕でなにかをしようという意識があると、そのことが力みにつながり、スムースな体の回転と腕の振りを邪魔してしまう。腕に対する意識は「力を抜く」くらいです。
――体が回転した結果、利き腕が自動的に振られる感覚がやはり理想ですか?
東浜:理想でしょうね。その感覚で投げられればボールのキレもコントロールもよくなると思いますから。でも実際はプロでもその域に達している人はそんなに多くないと思います。
――そういうものですか。東浜さんからみて、理想の腕の振りを体現している投手は誰ですか?
東浜:楽天の則本昂大じゃないですか?体の使い方が抜群で、いつも「いいフォームだなぁ」と思いながら見ています。あれぞ腕が自動的に振られている状態。故障もしにくいと思います。
メンタルとコントロールの深い関係性
「フォアボールもオッケー、打たれてもオッケーと自分に言い聞かせるようにした」
小学生時代からコントロールに苦労することはなかった東浜投手。しかし、プロ2年目の2014年は35回1/3を投げ与四球23(与四球率5.9)、3年目の2015年は28回で与四球17(与四球率5.5)を記録。与四球率が極端に悪化した2シーズンだった。定評のあった制球力が乱れた要因はいったいどこにあったのだろうか。
東浜:メンタルが原因です。ソフトバンクは投手陣の層の厚いチームなので、二軍に落ちると次のチャンスがなかなかもらえない。『打たれたらどうしよう』『打たれたくない』という気持ちが募りすぎて、慎重になりすぎてしまい、どんどん自分でストライクゾーンを狭めていったんです。
――東浜さんはその状況をどのようにして脱したのですか?
東浜:去年からはフォアボールもオッケー、打たれてもオッケーと自分に言い聞かせるようにしたんです。でも実際は打たれたくもないし、フォアボールも出したくない。となれば自分の能力を単純に上げるしかないわけです。自分の場合、2015年のシーズン中から体幹の強化に加え、肩甲骨と股関節の可動域を強く、かつ柔らかく広げるトレーニングに取り組んでいたのですが、その積み重ねで体の状態がよくなっていったんです。そこへ考え方の変化も加わり、成果が出たという感じですね。
――体と考え方が変わったことで結果も変わった。
東浜:肩甲骨周りなどは自分でも気づかないうちに大学時代よりも可動域が狭くなっていたんです。そうなるとやろうとしていることも思うようにできなくなる。関節の重要性を痛感しました。
[page_break:高校球児へのメッセージ]高校球児へのメッセージ
東浜 巨投手(福岡ソフトバンクホークス)
――肩甲骨は柔らかく、可動域が広ければ広いほどいいと考えていいのでしょうか。
東浜:柔らかく、可動域が広いとその分だけオーバーリアクションになってしまい、ケガをするリスクが生じるので、広い方がいいとは一概には言い切れません。
これは股関節にもいえることですが、柔らかく、可動域の広い人ほど、トレーニングなどで関節周辺の筋肉をつけ、「柔らかさを生かしうる強さ」を備える必要がでてくる。やみくもに柔らかさだけを追い求めることは危険だと思っています。
――東浜さんが制球難に陥ったプロ2、3年目の状況は、チームメートとの競争の中で、絶対に結果を出したいと願う高校球児が陥る可能性もありそうです。
東浜:あるでしょうね。非常にありがちな状況だと思います。
――そんな球児たちにはどんな言葉をかけたくなりますか?
東浜:結果欲しさに慎重にいきたくなる気持ちはわかるけど、いかなるときも逃げてはだめ。逃げるくらいなら真ん中に投げ込みなさいと言いたくなります。仮に打たれても、それが自分の現状なわけです。なにが足りないのかを冷静に分析して、克服できるように自分のレベルを上げる努力をしていけばいい。逃げていては自分に足りないことにいつまでたっても気づけませんし、前にも進めません。
――最後に制球力を向上させたいと願う高校球児へのメッセージをお願いいたします。
東浜:コントロールを磨きたいのなら、コントロールがいい人のフォームをしっかりと観察することをお勧めします。間近で見られなければ、映像でも連続写真でもいい。プロ選手でもいいし、身近なチームメートでも構わない。そしていいなと感じたところを実際に真似してみる。自分の映像を撮影することができるのなら、やろうとしている動きとどこがどう違うのかを比べてみる。
ぼくも小さなころから数え切れないほど、いろんな人の真似をしてきました。プロ野球選手だけでなく、チームメートであっても、いい体の使い方だなと感じたらその都度真似してきました。そうすると自分に合うもの、合わないものがでてくるので取捨選択をしていく。その繰り返しでぼくは今までやってきました。
ぼくはコントロールをよくするためにこれさえやっておけばという方法論はないと思っています。近道は絶対にありません。積み重ねることが唯一の道だと信じ、日々頑張ってほしいと思います。
(インタビュー/文・服部 健太郎)
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