横浜DeNAベイスターズ 石田 健大投手(広島工出身)「自分が持つ感覚を研ぎ澄まそう」【後編】
■前編「ボールを使わずにコントロールを伸ばす」を読む
今季、横浜DeNAの開幕投手を務めることとなった石田健大投手。今回は石田投手はコントロールの磨き方について話を聞いているが、後編では技術の深いところ、感覚的な部分についてお話を伺った。
リリースポイントを変えない
石田 健大投手(横浜DeNAベイスターズ)
――腕をきちんと振ることはもちろんですが、すべてのボールを同じ腕の振りで投げることがより重要だ、と。ただ、まっすぐと変化球で腕の振りが変わってしまうことに悩んでいるピッチャーも少なくありません。
石田:ボールをコントロールするのに、より難しいのは変化球だと思います。そこで変にストライクをとろうとかカウントをとることを優先すると、その都度、腕の振りが横になったり、リリースポイントも微妙に違ってきてしまったりします。プロの世界でもあることなので何とも言えないですが、僕の場合は「リリースポイントを変えない」ことを最優先にしています。
まっすぐでも変化球でも同じリリースポイントで絶対に投げる、とまず決める。シャドーピッチングやラケット振りをする時に、例えばスライダーの振りをしてみるとか、変化球の投げ方を組み入れることでどの球種であろうとリリースは一定になるはずです。それで実際にボールを投げた時、最初は変化球でストライクが入らないかもしれませんが、気にしない。逆に、練習を続けるうちに決まったリリースポイントでボールを切ったり、抜いたりした方が勝手にストライクにいくようになるはずです。
――腕の振りを速くすれば「球速」が上がります。ですが石田投手の場合は「キレ」を出すためにしっかり腕を振るというイメージでしょうか。
石田:ピッチャーのタイプにもよると思います。例えばヤスアキ(山﨑 康晃)のように力感があって迫力のあるように投げるタイプが80%の力で投げるのは違うと思います。でも、僕や今永(昇太)のようなタイプはスッと力を抜いて、80%の力でリリース時にバチン!と前で投げるイメージの方が、ボールの回転数も上がってベース盤の上で伸びるんじゃないかな、と。そういう感覚もシャドーピッチングで身に付けていったんです。
――もう一つ、左投手にとって右打者のインコースに投げ込むストレートは重要なボールだと思いますが、大変勇気のいるボールでもあります。石田投手はどうやってマスターされましたか。
石田:中学生の頃から投げようとはしていました。幼い頃から右バッターのインコースにクロスに入るボールの重要性は説かれていましたので。高校時代は練習の時にインコース沿いのベースの角にバットを立てて、それに当てる練習をよくしていました。遊び感覚なんですけど、最初はバッターがいない方が投げやすいというのもありますし、バッターがいなくても体に感覚を覚えさせることはできるので、結構やっていましたね。それで多少通用していた部分もあるんですけど、高校、大学と思い通りのコースに投げても打たれるケースが出てきてまた意識を改めて。その繰り返しで質がよくなってきたと思います。
投球において胸郭の柔らかさは重要
石田 健大投手(横浜DeNAベイスターズ)
まず自分の身体の動きをきちんと把握する。次に思い通りのボールがいった時、いかなかった時の違いをきちんと分析できるようにする。その繰り返しでコントロールは磨かれていく。さらに、身体の動きを把握していれば、腕を振る際の力の配分や入れどころもわかってくる。理想的な腕の振りに近づくほど、ボールのキレは増す。キレのよいボールをコントロールよく投げられるようになれば、左投手であれば右打者の内角のストレートのように、思い切ったコースへの投球にもためらいはなくなる。
石田投手の話は非常に順序だっていて理論的だ。だが、忘れてはいけないのは、どれも「感覚」の話。確かな感覚を得るまでは相応の質と量の練習が必要だろう。
だが、一度この感覚を得るとあらゆることに気付くようになる。石田投手は「ピッチャーにとって身体の柔らかさは武器になる」というが、その解説も自身の感覚からくるものだった。
石田:僕は身体が硬い方だと思いますけど、肩甲骨や胸郭などの柔らかさは人並みにはあると思っています。ここが硬いと身体が回らないんです。今年のキャンプに入ってすぐの時期は、昨年の良い時期に比べたら硬かったので全然身体が動かず、3クール目に入ったくらいからようやく胸郭が柔らかくなってピッチングも良くなってきました。このような違いを実感すると、どれだけ柔軟性が大事なのかが分かります。ですから、身体が硬い人は柔らかくする努力をした方が良いと思います。ボールの違いがすぐに分かると思います。
感覚を研ぎ澄ませば、自分の考えを持てるようになる
自分の経験からくる話は非常に説得力がある。
――コントロールに悩む高校球児へ、何かお勧めするメニューがあるとしたら、何になりますか。
石田:高校生におすすめしたいのは、やはりシャドーピッチングですね。何を意識して取り組むか、がポイントです。まずはシャドーピッチングで思った通りに腕が振れなければ、ボールを持っても思った通りにできませんから。それから、ボールを持ってキャッチャーを座らせて投げる際も、いろいろ工夫してみるんです。野球教室などでよく話すのですが、キャッチャーのミットを見て投げて高めにいくのなら、ミットでなくキャッチャーの膝やスパイクなど、もっと下を見て目線を下げれば低めに決まるんじゃないか、とか。
コントロールを向上させるのに、ある程度の方法と流れはある。だがその先、さらにコントロールを突き詰めていく際に重要になるのは、自分での工夫になる。石田投手は幼い頃からそれができた、と振り返る。
[page_break:感覚を研ぎ澄ませば、自分の考えを持てるようになる]石田 健大投手(広島工時代)
――石田投手の「野球脳」はどうやってできあがっていったのですか。
石田:正直、高校ぐらいまでは野球を考えてやったことがなくて。それまでは自分が思うがままに投げてたんです。一方で自然とできていたのは、教えてもらったことを全部聞くのではなく「自分がいいと思ったものだけ」取り入れてたことです。監督やコーチに指示されたことを1回は必ずやるんですけど、自分に合えば取り入れて合わなければ取り入れない、っていうのを繰り返してました。誰かに判断してもらうのではなく自分で決めるというのは、ひょっとしたら間違っていたこともあるかもしれませんが、プラスになった部分も多かったと思います。
特に学生の頃は監督やコーチに言われた通りのことをしないと、試合に出させてもらえないとか、メンバーに入れないと考えている選手がいるかもしれません。でもそれだけじゃない、と。自分がいいと思えるもの、自分に合っていると思うことを中心に取り組むようにと後輩たちにもよく言っています。
――自分の考えをしっかり持つことが大事、ということですね。そんな石田投手ですが、初となる開幕投手が内定しています。これまで経験がない未知の役割ですが、開幕投手についてはどうお考えですか。
石田:3月に入ってから「もうすぐだな」という気持ちも出てきて。いろんなところから「開幕投手」と言われて気にするようになって考えすぎてしまう時期もありました。でも、チームのみんなが特別な感じを出さずに接してくれて、チーム全員で勝つという雰囲気をキャンプから出してくれたおかげで気持ちが楽になりました。1シーズンでどれだけ1軍で投げ切れるか、いかに昨シーズンよりいい成績を残せるか。そう考えると、シーズン143試合ある中で1年間先発ローテーションを務めたとして、登板するのは25~26試合。開幕戦はその中の1試合に過ぎません。そういう考え方をすれば、意識しすぎることも、考えすぎることも必要ないと思えるようになりました。
「周りの方からいろいろアドバイスをもらったので」とは言うが、きちんと自分の中で考えをまとめ、開幕戦へ向けていい精神状態を作り上げていっている。自分の身体をきちんと把握するということは、応用していけばプロで通用する自分の考えをきちんと持てることにつながる。そのことを、石田 健大投手が身をもって証明してくれている。
(インタビュー/文・伊藤 亮)
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