Interview

熊本工業高等学校 山口 翔選手「フォームと速球のこだわりは誰にも負けない」

2017.03.17

 3月19日に開幕した第89回選抜高等学校野球大会で初日から登場するのが熊本工山口 翔だ。
 最速149キロ右腕は、昨秋の公式戦は8試合を投げて、防御率1.69と抜群の安定感をみせた。入学時は130キロ台だった山口はいかにして、140キロ後半の速球を投げられるまでの投手になったのだろうか。

進化をもたらした1年冬のトレーニング

熊本工業高等学校 山口 翔選手「フォームと速球のこだわりは誰にも負けない」 | 高校野球ドットコム

山口 翔選手(熊本工)

日吉中時代は、軟式野球部に所属していた山口。中学校3年時から最速134キロのストレートを投げるなど、県内では速球派右腕として注目を集めた。熊本工進学のきっかけは、甲子園に出場している私学を破りたいという思いがあったからだ。

「僕が中学3年生の時は熊本城北が夏の甲子園に出場しましたが、当時から熊本は九州学院など私学の学校が甲子園によく出ていました。自分はその私学を破りたいという思いがありましたし、熊本工は昔からの名門。古豪復活を目指す熊本工でプレーしたい気持ちが強かったんです」

 熊本工に入学後、山口は1年秋からベンチ入りするが、1年時の最速は1年生大会で記録した136キロ。
そこから、山口が大きく成長するきっかけとなったのは、1年冬のトレーニングだった。ポール間ダッシュ、腹筋・背筋を1000回ずつ、短・中距離ダッシュが中心だったが、その中で最もきつくて、鍛えられたというのが『丸太走』だ。丸太をもって、ホームベースから、インフィールドラインまで走って一周する。これを30秒以内に20本~30本を走り切る。
「本当にきついメニューです。とにかく全身が鍛えられます。体幹、腕、下半身すべて鍛えられました」

 山口はトレーニングと並行して、フォームの修正を行うためにネットスローも繰り返し行った。コーチから投球動作のトップの位置、そしてトップに入った時の胸の張りなどの指摘を受けながら、フォームを固めていった。春先、足の靭帯を痛めるアクシデントがあったが、その間も焦らずじっくりと治療しながら、トレーニングに励んできた。

 そして復帰してからの練習試合で140キロ台を計測。夏まで調子を維持した山口は、夏の熊本大会八代東戦で16奪三振を記録。
「この試合はストレートでほとんど三振を奪うことができました。ストレートは140キロ台も超えていて内容は良かったと思います」と振り返る。

 準々決勝では2016年選抜ベスト4の秀岳館と対戦。秀岳館打線の印象について山口は、「プロ入りした九鬼 隆平さん、松尾 大河さんはめっちゃ怖い印象しかなかったですね。どこに投げても打たれる雰囲気しかなかったです」

 それでもマウンドに立てば、絶対に抑えてやろうと気持ちが入ったピッチングをみせる。最速144キロのストレートを武器に、秀岳館打線に立ち向かっていく。しかし、熱投を続けた山口の指は攣っていた。
「初めて迎える夏で、本当に暑かったですし、公式戦で1試合投げ抜いた経験が僕にはなかったので、最後は限界でした」

 延長10回で勝ち越し点を許し、2年夏は熊本大会ベスト8で終わる。
「課題は多く残りました。それでも僕がこれまで練習してきたものは出せました」と振り返る。

[page_break:140キロ後半の速球を投げられた時の感覚は今までと全く違う]

140キロ後半の速球を投げられた時の感覚は今までと全く違う

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山口 翔選手(熊本工)

 夏の大会が終わると、山口は灼熱の太陽の下で、冬の練習と同じようなトレーニングを続けた。走り込み、筋力トレーニング、体幹トレーニング。そして、投球練習の頻度も増やし、多い時は1日200球投げることもあった。

「トレーニング、投球練習ともに、充実とした練習ができました」この取り組みが実を結び、秋季県大会文徳戦で、最速149キロを計測。

 その後の試合でも、140キロ後半の速球を投げ込み続けた。球速アップの要因はフォームが確立したことだ。特に気をつけているのは体重移動だという。
「僕は体重移動を大事にしていて、左足を上げた時、体重移動を始めるまで、右の股関節に力を溜めます。そこから踏み出して、投げる瞬間、その溜めた力を左の股関節にもっていく。股関節の回旋運動がしっかり出来るようになったこと。またこれまで股関節や体幹を鍛えるメニューを行ったことで、力強い踏み出しができるようになりました」

 さらに、リリースも良くなった。ボールに指がかかった時は、周囲から「リリースした時の音が聞こえる」と言われるまでになった。
「140キロ前半の速球しか投げられなかった時と、140キロ後半の速球を投げられた時の手ごたえは全く違います。左足を踏み出した時の体重のかかり具合、リリースした時の指のかかり具合、フォームの全体的な安定性。自分の中で、速いストレートを投げられるフォームの感覚が少しずつ分かってきたんです」

 自分の動きを理解して、山口は微調整する術も習得した。県大会を勝ち抜いて、臨んだ九州大会
 山口自身、調子が上がらない中での投球で、初戦の美来工科戦では、延長13回を投げ抜いたが、11安打、5失点。準々決勝佐賀商戦では、10四死球。それでも2失点完投。当時の苦しい投球をこう振り返る。

「自分のフォームで投げられない苦しさはありましたが、それでも、リズムを変えたり、配球を変えたりしながら粘り強く勝てたことは自信になりました」
 そして、準決勝東海大福岡戦では、試合には敗れたが、2失点、無四球、8奪三振とそれまでの2試合とは別人の投球をみせる。

「この試合では自分のフォームで投げることができて、完全に復調しました」と笑顔を見せる山口。エースとして粘り強いピッチングで九州大会ベスト4。10年ぶりの選抜出場へチームを導いた。

[page_break:強打者と対戦することは心待ちにしていた]

強打者と対戦することは心待ちにしていた

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山口 翔選手(熊本工)

 2年目の冬に入り、トレーニングでは、丸太走、ランメニューのほかにウエイトトレーニングも加わった。さらにもう一度、自身の投球フォームも見直した。
「秋ではトップの位置がバラバラだったので、そこがしっかりと固まるように、ネットスローや、コーチの方に見ていただきながら、投球練習をしてきました」

 さらに目標とする大谷 翔平投手の映像を見て参考にしてきたという山口。そんな山口は、ある日の紅白戦後に、こちらに来て「(自分のピッチングの画像を)見たいです!」とカメラの液晶画面を覗き込んだ。自分の投球画像を見ながら、自身のフォームの長所と短所の解説を始めた。

 今大会屈指の速球投手として注目される山口は、速い球を投げることへのこだわりはとても強い。もちろん、投手としての基本であるコントロールを大事にしながらではあるが、
「速い球を投げることは1つの武器になりますし、その研究はずっと怠りませんでした」と話す山口。この選抜大会では、前回選抜覇者の智辯学園と対戦する。

 智辯学園は、福元 悠真太田 英毅の強打者コンビが注目されているが、山口は、
「今大会、強打者が多い大会ですけど、彼らがどれだけはすごいのか実感してみたいんです。不安はありますが、しっかりと抑えたいです。この大会はチームとしても復活がかかった大会。とにかく、勝ちたいです」

選抜では進化した姿を見せることができるか。山口のピッチングに期待したい。

(インタビュー=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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