Interview

江陵高等学校 古谷 優人投手 「『自分を変える』を突き詰めて」【前編】

2017.02.02

 2月1日、北海道・幕別町から遠く離れた宮崎県で「SoftBank・HAWKS」のユニフォームに身を包み、プロ野球選手としての第一歩を踏み出した福岡ソフトバンクホークスドラフト2位の古谷 優人昨夏の北北海道大会で最速154キロをたたき出し30イニングで49奪三振。シンデレラストーリーの階段を昇っていった江陵高校出身の左腕である。

 では、身長176センチ76キロの彼が、なぜ驚異的な飛躍を見せることができたのか?「幕別の剛腕」が今、成長エピソードについて2回にわたり、すべてを語る。前編では「メンタル」の角度から彼の変化に迫っていく。

師から学んだ「思いやり」の大切さ

江陵高等学校 古谷 優人投手 「『自分を変える』を突き詰めて」【前編】 | 高校野球ドットコム

古谷 優人投手(江陵高等学校)

江陵に入学した当時は、自分自身のことしか考えられなかった。生意気な人間でした」温和な口調から発せられた今とは180度違うフレーズ。そう、古谷 優人の地元・江陵高等学校での3年間は「自分を変え続けた」積み重ねであった。

 

 幕別町立札内南小3年生時に、兄の友人との「家族焼肉」で勧められたとこをきっかけに始めた野球。幕別町立札内中でものびのびと野球を楽しんでいた彼は高校入学時に、1つの大きな決断を下す。
「谷本(献悟)監督の話を聞いて、この監督についていきたいと思いました」

 毎年5月には東日本大震災被災地での河川清掃ボランティア活動を行うなど、人の心に寄り添う指導で知られる指揮官の考え方は「何かを変えたい」古谷の心と合致した。ただ、その厳格さは彼の想像以上だった。

  

 江陵では入学後すぐにベンチ入りし、5月14日に行われた十勝支部大会では2013年夏の甲子園出場経験を持つ強豪・帯広大谷戦をいきなり完封。さらに3回戦の帯広緑陽戦でも好投。ただ古谷の入学当初の記憶はそこではない。

「あの時、自分は『グラウンド整備は試合に出ない下手な奴がやるものだ』と思っていたんです。僕は春から試合に出させてもらっていたので、試合に出ていない同級生に『グラウンド整備やっておいて』と頼んだことがありました。すると監督がいらっしゃって……」

 

 グラウンド整備の姿勢から見える自分勝手なところがあった古谷を厳しく叱った谷本監督。このエピソードに代表されるように古谷への指導は技術的なことよりも、生活面・姿勢面が大半を占めた。
すると彼の中にはまず「思いやり」が生じる。1年夏、北北海道大会十勝支部予選広尾戦で途中登板した古谷はこんな思いでマウンドに登った。
「3年生が2人しかいないチーム。その3年生のために北北海道大会の本大会に出たいという思いが強かったです。だから肩が壊れてでも、勝ちたいと思っていました」

 十勝支部予選では2回戦の帯広農戦で3失点完投。代表決定戦でも3失点完投勝利で目標の北北海道大会出場を達成。本大会では旭川大高戦で敗れ甲子園出場はならなかったが、古谷はここで未来へつながる経験を手にした。

[page_break:古谷を真に変えた「主将就任直後の練習試合」]

「3年生に連れていってもらったことで、北北海道大会の本大会がどんな雰囲気でやっているのかが分かりました。それがなければ3年生の時に準決勝まで行くことはできなかったと思います」
滑り出しは順調。しかし、ここからしばらく古谷は一進一退。苦悩の日々を過ごすことになる。

古谷を真に変えた「主将就任直後の練習試合」

江陵高等学校 古谷 優人投手 「『自分を変える』を突き詰めて」【前編】 | 高校野球ドットコム

古谷 優人投手(江陵高等学校)

 1年秋からもエースは当然、古谷 優人。しかしチームは十勝支部大会帯広三条に1対3で敗れ2回戦敗退。140キロ台のストレートを投げるまでになった2年春も十勝支部大会3回戦・白樺学園河村 説人(現:亜細亜大2年)・中野 祐一郎(現:法政大2年)と2枚看板との投手戦に延長11回表力尽き1対7。さらに入学時からずっとバッテリーを組んできた山本 颯太朗をはじめ、1年上の先輩たち共に甲子園を目指した2年夏も順風満帆ではなかった。

 帯広農との十勝支部予選初戦では延長15回0対0の激闘で引き分け再試合。再試合でも延長12回。ここでは4失点完投勝利を果たしたが、2回戦の帯広工戦では疲労は隠せずリリーフ登板で4失点。またも全道大会に進めず。そして古谷が主将に就任した直後の練習試合、彼を真に変える出来事が起こる。 

 試合序盤から相手チームがかけるプレッシャー。ベンチから、一塁走者から執拗にかかる重圧に古谷は制球を乱し、けん制の数も増える。そして古谷は一塁手からボールを受け取った直後、再びけん制球を投げ返す。「納得いかないことがあれば、先輩に対しても感情を露わにする」負けん気の強さが完全に負の方向に働いた。

一塁手の横に抜け、後ろへ転々と転がっていたボール。直後、谷本監督は躊躇なく古谷をマウンドから降ろした。「一塁手が入っていないところにけん制球を投げる奴がどこの世界にいるんだ!投手を辞めろ!」厳しい言葉をベンチに戻った主将に浴びせた。その言葉は谷本監督も覚悟を持ったものだった。

「厳しい言葉をかけて、古谷がチームを離れてしまう恐怖は当然ありました。アイツのプライドをズタズタにしたのですから。ただ、アイツが野球をやめることになった時は自分の進退も覚悟していました」

 

 信頼感がなければできない指揮官の覚悟。その言葉の1つ1つ、そして真意は古谷の体内に染み入っていく。
「『自分自身、本当にいけないことをしたな』と思ったし、あれで変わらなければならないと感じました」。古谷にとってこの日が、真に自分が変わる分岐点になった。

[page_break:「主将として」奮闘し最後の夏、北北海道大会へ帰還]

「主将として」奮闘し最後の夏、北北海道大会へ帰還

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古谷 優人投手(江陵高等学校)

 秋季大会十勝地区予選帯広三条戦。古谷はまずベンチから当時1年生の右腕・工藤 遼太朗に声援を送った。しかし3回まで2失点。4回裏からはマウンドに登り、最速148キロのストレートとスライダーのコンビネーションで5イニングで13奪三振無失点も、チームは1対2で敗戦。「取られた失点も四球やエラーが絡んでのもので自滅。なかなか自分たちの実力を発揮できない。本当に全員がどうやったら勝てるのか、必死に悩んでいる」グラウンド内外両面で試合を見たことで古谷はチームの課題を明確に感じた。

 

 答えを探す期間は長きにわたった。3年春の十勝支部大会初戦、帯広工戦でも答えは見つからなかった。先発した古谷は、最速147キロを計測したストレートとスライダーのコンビネーションを武器に6回まで無失点。しかし7回表に押し出しで先制を許すと失策も絡んで2失点。打線も援護はならず0対2。

「調子は悪くなかったのですが……。大会前には札幌まで遠征をして東海大札幌札幌日大と僅差の勝負。力はあるチームなんです。だけど公式戦になると力を発揮できず、自滅での負けパターンでした」
古谷にとっても、チームにとってもショッキングな結果だった。

 「夏もどうせ勝てないだろう」谷本監督が叱っても響かない選手たち。ここで立ち上がり奮闘したのは誰あろう「主将」の古谷 優人だった。
「このままではいけないと思って、もう一度、チームの目標はなんだったのか、考え直させました。それは『監督さんを男にして甲子園に行く』ことでした」
古谷主導の粘り強い話し合い。少しずつチームが1つになり、チームは鬼門となっていた北北海道大会・十勝支部予選に臨んだ。

 1回戦の大樹には10対0で勝利。2回戦の帯広大谷戦では古谷が先発1失点完投勝利。そして代表決定戦では、2年夏に延長再試合を演じている因縁の相手・帯広農と対戦。古谷が4回まで5失点を喫するまさかの試合展開に。「とにかく三振や球速のことよりも、打たせて取っていこうと思いました」ここで奮起したのは古谷と膝を合わせて話し合ったチームメイトだった。

 

 5回表に逆転。7回表に4点追加。12対5で7回コールド勝ち。「自分の調子が悪い中で、打って助けてくれた」。自分の状態への不満よりもチームとしての成長が見られた勝利。古谷の中には満足感が支配していた。

古谷にとっても、江陵にとっても苦しい日々を経て出場を果たした2年ぶりの北北海道大会帰還。そして「ふるや・ゆうと」の名は全国にこだますることになる。

 

 後編では最速154キロを記録した北北海道大会の追想と、剛腕左腕になるまでの取り組み。さらに福岡ソフトバンクホークスでの意気込みを語っていただきます。お楽しみに!(後編に続く)

(インタビュー=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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