柳 裕也投手(横浜-明治大)「勝ちきれる投手になるには怪我に強くなること」
11月16日に行われた明治神宮大会・大学の部で優勝を果たした明治大学のエース柳 裕也投手(横浜高出身)。 前編では、横浜高時代に取り組んだトレーニングメニューのお話から、大学に入学後のトレーニングへの意識の変化について伺いました。後編では、引き続きコンディショニングをテーマに語っていただきました!
ケガをしないためには回避能力と強い身体が必要
柳 裕也投手(明治大学)
2年春から明治大投手陣の中心となった柳投手は、以降、大きなケガをしていない。今年もリーグ戦では春・秋合わせて121回2/3を投げ、他にも大学選手権や、日米大学野球、明治神宮大会などでもと、1シーズン休むことなく、マウンドを守り続けている。柳投手はどうやってケガを回避してきたのだろう?
「元気な時は誰でもケガは怖くないですよね。でもケガをすると、もう2度とケガをしたくない、と思う。ですから僕は、状態がいい時ほど、体を大事にするようにしています。加えて、どこかに無理な力が加わると、ケガにつながると考えています。
たとえば、足に痛みがある時に無理に投げようとすると肩にきますし、肩をかばっていると股関節が痛くなる。そういう時も投げようと思えば投げられるのですが、ケガをすると元も子もない。そこで『センサー』を働かせるようにしているんです。この投げ方だとケガをするな、という自分にしかわからないセンサーです。センサーは自分の体と対話ができないと働きません。常日頃から自分の体に敏感であることが大事だと思っています」
その一方で、ケガを恐れていては、パフォーマンスの向上はない、と柳投手は考えている。
「ベストな体調でマウンドに上がり、自分にとって理に叶った投げ方ができれば、ケガはしないかもしれません。ですが、いつもそういう形で投げられるとは限らない。肩が多少張っているので今日は投げない、というわけにはいきませんからね。ただし肩が張っている時に腕を逃がして投げたら、肘などに負担がきて、ケガを引き起こす可能性があるのも確か。ではどうするか?こうした万全な状態でない時、あるいは投げていて体がしんどくなってきた時、それでも投げられる体の強さを培うのがトレーニングだと思います。ケガをしないためにセンサーを働かせながら、ケガをしない強い体を作る。この両方のアプローチが必要ではないでしょうか」
制球力プラス押していける強さを身につけたかった
柳 裕也投手(明治大学)
柳投手は四死球が少ない、コントロールのいい投手としても知られる一方で、(東京六大学リーグ歴代8位の通算338三振と)三振が取れるピッチャーである。3年秋以降のリーグ戦では投球回を大きく上回る三振を奪っている。
「僕はそもそも球速がある方ではないので([stadium]神宮球場[/stadium]での最速は148㎞)、高校時代はボールのキレや制球力を磨くことが生きる道だと考えてきました。それで(2年春夏、3年春と)3度甲子園に出場することもできました。でも大学に入ってから、押していける強さも身につけたいと思うようになったんです。三振の数を意識するようになったのは3年秋のリーグ戦からです。狙って空振りが取れるようになり、それが新たな僕の持ち味にもなりました。
これはトレーニングによって体ができてきて、ボールに力がしっかり伝わるようになったからかもしれません。あと配球を考えた投球ができるようになったのもあるでしょう。2ストライクに追い込んだら、追い込むまでの過程や前の打席の見逃し方も踏まえて、これはもちろん捕手との共同作業ですが、三振を取るための球種やコースを選択しています」
調子が悪い時は自分の引き出しを使って微調整
本人は「もっと減らしたい」と言うが、4年間のリーグ通算の四死球率は2.68。1試合当たり、3以下である。その制球力はどうやって磨いているのか?
「自分ではコントロールがいいとは思っていませんが(笑)、よくやっているのがシャドーピッチングです。鏡と向き合いながら、“この投げ方”というのを体に染み込ませています。調子がいい時は、こういう動きをすればここに投げられる、というのがわかります。足を上げたら、自然に体がはまるんです。問題は調子が悪い時で、そういう日はその日に合った投げ方をするようにしています。自分の中に『引き出し』があって、こういう日はここを変えて、と微調整をしているんです。この引き出しは自分にしか分からない“感覚的なもの”ですが。
ブルペンで投げる時は必ず右、左とも打者に立ってもらい、実戦を想定しながらコースに投げています。もちろん、そこにきっちり投げ切れないといけないものの、たとえいいところにいっていたとしても、伸びがなかったりキレがなければダメ、とも思っています」
たとえばウォームアップで、必ず行うルーティン的なものはあるのか?
「僕はアップでもトレーニングでもルーティンはありせん。それに縛られたくない、というのもありますし、体調は日によって違うので。もうちょっとここを動かしたいな、とい思う時もありますし。その日の状態にアジャストしたことをするようにしています」
柳投手は明治大の8シーズンで計5度のリーグ優勝を経験。うち3度はけん引役の役目を果たした“勝ち切れる投手”でもあった。
「僕が目指すところはそこにあります。そのためには逆球ばかりほうって守りづらいとダメだし、勝ち切れる投手になるには、攻撃のリズムを生むテンポの良さも必要だと思います。プロでは“柳が投げていれば勝てる”とファンの方から思われる投手に、そして柳が投げているから勝たないといけない…とバックから思ってもらえる投手になりたい、と思っています。
勝ちきれる投手になりたい…。その思いは明治神宮大会で結実した。決勝戦では不調ながらも4回2失点と最低限の投球を見せて味方の逆転を待った。そして5回裏に逆転した明治大は、柳とともに切磋琢磨してきた星知弥の快投により見事に優勝を決めた。明治大ナインは柳を負け投手にはさせない思いで逆転劇を呼び込んだはずだ。これからも誰よりも努力する姿を見せる柳裕也でいる限り、プロの世界でも誰からも信頼を受ける大投手になっていくだろう。
(執筆・写真/上原 伸一)