Interview

横浜DeNAベイスターズ 筒香 嘉智選手「ハイパフォーマーは1日にしてならず」【前編】

2016.11.08

 今シーズンの活躍はケチのつけようのないほど立派なものだった。この成功は一朝一夕でもたらされたものではない。長い年月の積み重ねの末にたどり着いた境地なのだ。だが一方で、現状に満足もしていない。求めるのはさらに高み。そこへ上り詰めるために、新たな試みにも積極的に挑む。その研ぎ澄まされたプロフェッショナリズムは、オフへの取組からもうかがい知ることができた。

シーズンオフは休むものではない

横浜DeNAベイスターズ 筒香 嘉智選手「ハイパフォーマーは1日にしてならず」【前編】 | 高校野球ドットコム

筒香 嘉智選手(横浜DeNAベイスターズ)

 よどみのない言葉使いをする人には、ある共通点がある。「自分を持っている」のだ。横浜DeNAベイスターズの若き主砲・筒香 嘉智選手は、まさにその共通点に合致していた。まっすぐ相手を見て話すその瞳はブレない。そこには、その頑強な体格だけでなく、簡単に揺らいだり動じたりしない、ドンと構えるに足る思考のベースがあった。

「シーズン中は試合をやっていく中で技術も変わっていきます。その過程でオフシーズンからやってきたことがつながることもあるし、つながらないこともある。僕はシーズン中、オフ期間のトレーニングのようなことはほとんどやりません。どちらかというと身体のケアなどを中心にしています。逆にオフはガッツリ、本当にやります。シーズン中に打てなくなって、焦って練習している選手を今まで何人も見てきましたけど、プロはその時点からやったところでどうにかなるような、そんな甘い世界ではありません。

 やはり人間は“特効薬”が好きで、すぐに効果が出そうなものに飛びつきます。でもそれでは長続きしませんし、身にもつきません。僕の中では、特効薬には興味がないですし、それに頼ろうとするような、浅い選択をしていたら話にならないという考えがあります」

 オフの取組みに対するインタビューでたびたび使われたのは、「積み重ね」という言葉だった。
「結局、毎年の積み重ねだと思うんです。たとえば全然打てなかったシーズンがあったとして、オフにがんばったから次のシーズンに打てるようになるのか。決してそういうものでもありません。ではどうすべきかといったら、先を見据えて本当にいいもの、必要なものだけを取り入れていく。誰かがやっているから、というだけの理由でマネをして取り入れようということはしないですね」

「オフ」という語感の影響もあるだろうが、普通、シーズンを戦った身体を休めたり、メンテナンスしたりする期間、というイメージがある。だが、筒香選手は「オフにガッツリ、本当にやります」と言うように、休むという感覚がない。

「休む、という意味が分からないんです。だって、ご飯を食べに行って長時間外出して疲れた、と感じる。ゆっくり寝てから買い物に出ても帰ってきて疲れた、と感じる。私生活を普通に過ごして疲れるなら、野球をして疲れた方がいいじゃないですか」

 筒香選手にとって、オフとは、野球が上手くなるためには絶対に外せない、重要な期間なのだ。

[page_break:積み重ねと継続]

積み重ねと継続

横浜DeNAベイスターズ 筒香 嘉智選手「ハイパフォーマーは1日にしてならず」【前編】 | 高校野球ドットコム

筒香 嘉智選手(横浜DeNAベイスターズ)

 2009年のドラフト1位で横浜高校から鳴り物入りで入団。そもそも横浜高校1年生の時から注目のスラッガーとして注目を浴びていたが、プロ入り7年目の今シーズン、44本塁打、110打点で二冠を達成。シーズン打率.322もリーグ3位と、横浜DeNAベイスターズの4番としてはもちろん、日本を代表するスラッガーといえる数字を残した。

 185㎝、97㎏という恵まれた体格はどのように作られたのか。いかにパワーを身に付けたのか。ホームランを量産するための秘訣は?そういった様々な問いをする時、ついついこれまでの例から「ウエイトトレーニング」についての話が出てくるのでは、と想像していたが、予想は見事に外れた。

「僕はウエイトを全くやってないです。プロ入り後も、ウエイトという意識でトレーニングをしたことはないですね。それよりも“体幹”を鍛える、身体の軸を作るイメージの方が強い。これも積み重ねで、取り組みだして1年、2年で結果が出る話ではなくて、ずっと続けることに意味があるのですが」

 プロ入り以前もウエイトトレーニングはやっていなかったという。ちなみに、高校3年のドラフト時点で筒香選手は184㎝、88㎏あった。では、その体格はどのように作られていったというのか。

「継続です。身体づくりというか身体の使い方は、中学時代に所属していたチームがやっていた独特の方法があるのですが、それは今でも通ってやっています。やり方が本当に独特なので、言葉で表現できるものではないのですが」

中学時代に所属していた堺ビッグボーイズ時代からこれまで、ずっと取り組んでいることがあるというのだ。

 積み重ね、継続はキーワード。ただ、簡単にその言葉で済ましてしまうと誤解を生むことになる。筒香選手の場合、毎年オフに行うトレーニングの内容はそのつど「変わっていくもの」でもあるのだ。

「これから侍ジャパンとしての活動があるので、まだ自分の中ではシーズンと同じ感覚でいます。これでシーズンが終わったら、自分でいいと考えるものを選択しながらいろいろ決めていくことになります。まだ何をするかははっきりと決めてはいないのですが、毎年考え方を変えていくというか、これまでと全く同じオフになるということは、ないです」

[page_break:現状維持はすなわち後退]

現状維持はすなわち後退

横浜DeNAベイスターズ 筒香 嘉智選手「ハイパフォーマーは1日にしてならず」【前編】 | 高校野球ドットコム

筒香 嘉智選手(横浜DeNAベイスターズ)

「現状維持、すなわち後退」という言葉がある。なにか大きな成功体験を得た時、その成功に導いたと思われる方法を継続しようとする。それはある意味合理的だし、頼りたくなるのが人間の性というものだ。

 だが一方で、周りは研究し、努力し、進化している。気付くと自分は立ち遅れてしまい、同じ成功を手にすることができなくなってしまう。これもまた道理である。ただ、成功体験を捨ててまた別の試みに踏み出すのは勇気が必要になるものだ。もし新しい試みが失敗してしまった時のことを考えると怖い。であれば、成功した方法を続けた方がいいのではないか……。実際そう考える人も少なくない。

 これが筒香選手の場合、“あえて”新しい試みに積極的に取り掛かっているように見える。
「僕は新しく取り組むことに対して怖さもないですし、勇気も全く必要ないと思っています。変わらないということは全く進化しないということなので。進化したい、と考えるならば、それは変わるということ。もし失敗したらまた違うことをやればいいだけの話じゃないですか」

 筒香選手にとって、現状維持に甘んじないという考えはもはや当たり前のことなのだ。それが日本を代表するスラッガーを形作った理由の一つともいえそうだが、ここまで決して順風満帆だったわけではない。特にプロ入り後数年は苦しんだ。
「自分でやろうとしていることを賛成してもらえないという時期がプロ入り後、何年も続きました。ただ、自分の人生ですし、やり方を曲げるということは自分の生き方を否定するようなイメージが当時はあって…。ですので、自分を曲げるということはなかったです」

 先に紹介した「ウエイトはやらない」という考えもひょっとしたら賛成されなかったのかもしれない。しかも、代わりに意識して取り組んでいた体幹はそう簡単に身に付くものでもない。つまり、すぐ成績に直結しない。すると、周りはよかれと思っていろいろとアドバイスをしてきてくれる。それを聞き入れるかどうか、そこの判断が難しい。

「1軍で結果が出ていませんでしたから、いろいろ言われるのも当然です。でも、自分の考え方の根本は曲げませんでした」

 体幹トレーニングの件を例に挙げると、取り組みだしたのはプロ入り2年目から。
「当時たまたまいろんな方との出会いでアメリカに行くことが決まって。そこから毎年行くようになりました」

 というアメリカでの自主トレーニングとタイミングが重なる。そして、その成果が自覚できたのは、2014年のシーズンだったという。
「2013年のオフにアメリカに渡った時、ずっと体幹をやってきた中で一本筋が通ってきたな、という感覚がありました。毎年、ちょっとずつやってきた積み重ねで、身体は強くなっていっていたのですが、初めて技術と身体が合致した感覚がでてきたんです」

 結果、2014年シーズンは114試合に出場し打率.300、22本塁打、77打点という成績を残す。シーズン終盤にはチームの4番として定着した。
筒香選手が自分の貫いてきた考えを証明するまで、つまり体幹を始めてから3年が経っていた。

 後編に続く!

(インタビュー・文/伊藤 亮

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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