Interview

加藤 拓也投手(慶應義塾高-慶應義塾大)「プロの世界では自分が勝負できるもので勝負したい」

2016.11.01

 最速153キロの球質が重いストレートを武器に、4年春までに東京六大学リーグ通算20勝を挙げた慶應大の加藤拓也投手。今秋の東大1回戦では、リーグ史上24人目となるノーヒット・ノーランを達成した。

 実はもともと加藤投手は捕手だった。杉並シニア、そして慶應義塾高でも1年夏まではマスクを被っている。本格的に投手になってわずか3年半で慶應大のエースとなり、その後も進化を続け、今年のドラフト会議で広島東洋カープから1位指名を受けた加藤投手。それまでの道のりについてじっくりお聞きしました。

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入部当初はプロになるなんて思ってもみなかった

加藤 拓也投手(慶應義塾高-慶應義塾大)「プロの世界では自分が勝負できるもので勝負したい」 | 高校野球ドットコム

加藤 拓也投手(慶應義塾大学)

 慶應義塾高では3年春より主戦となり、最速143キロ(当時)のストレートを武器に、夏は県8強に進出した加藤拓也投手。慶応義塾高からそのまま慶應大に進んだ加藤投手は、慶應大に行くことを中学の時に決めていたという。

「小学(東京中野リトル)、中学(杉並シニア)のチームの先輩を応援するため、何度か早慶戦を観に行ったことがありまして。スタンドは満員だし、応援も華やか。こういうところでやりたいな、と。ですから高校進学の際は、まず慶應大ありきで進路を定め、甲子園に出場できるところというよりも、慶應大に入りやすいところを選んだんです。慶應大なら、たとえ4年生で野球を終えても、就職先の選択肢も広いのでは、というのもありました」

 慶應大では、さっそく1年春にリーグ戦の初マウンドを踏む。だが意外にも「入部当初は4年後にプロに行きたいとか、そういう高い目標は持っていなかった」そうだ。
「慶應大に入った時、4年生には白村明弘さん(現北海道日本ハム)や山形 晃平さん(現日本生命)らがいるなど、投手陣の先輩方はそうそうたる面々でしてね。4年間で1度でもいいから神宮で投げられたらいいな…と思っていたんです」

 ただその一方で(このままではいけない)と、持ち前の向上心が頭をもたげる。まず取り組んだのが、入学時79㎏だった体を大きくすることだった。
「僕は上背もないし(175㎝)、バネもない。ましてや器用なタイプでもないですからね。ならばウエイトで体の力をつけて、球を強くしようと考えたんです」

ウエイトで体を大きくしたことが結果につながる

 加藤投手が思い描いた通り、体を大きくしたことが結果につながっていく。体重が85㎏になった1年秋は、リーグ戦初勝利を含む2勝をマーク。防御率(2.27)はトップ10入り(8位)を果たした。それからひと冬越して、現在と同じ90㎏になった2年春は、4勝無敗で、防御率はリーグトップの0.87をマーク。獅子奮迅の働きで、慶應大の6季ぶり34度目の優勝に貢献する。

 ストレートの最速は、2年春の時点で高校時代を7キロ上回る150キロに達した(現在の最速は153キロ)。加藤投手によると「150キロが出て、プロが将来の進路の選択肢の1つになった」という。

[page_break:ボールの威力を増すため、より良いフォームを追及]

「体全部をバランス良く鍛えている」トレーニングは今も欠かさない。2年秋からは1学年上の横尾俊建選手(現北海道日本ハム関連記事)も通っていた外部のジムで、パーソナルトレーナーの指導によるトレーニングも。時に体の可動域を広げるためにヨガを取り入れることもあるという。

 加藤投手は2年春にエースになって以来、主に先発を担ったシーズンも、抑えがメインのシーズンも、ともにフル回転している。通算の登板試合数は4年春終了時点で実に57。たとえば3年秋は全13試合中11試合に、今年の春は13試合中9試合に登板している。それでも大きなケガが1度もないのは、トレーニングの賜物であろう。

 それにしても175cm90㎏の体は、胸板が厚く、ユニフォームがはち切れんばかり。腕も太く、下半身は大地に根を張ったようにどっしりしている。とはいえ、失礼ながらいわゆる“投手タイプの体型”ではない。だが加藤投手は「これも僕の1つの“個性”」としており、「“個性”を出していかないと、上背に恵まれた投手には勝てませんからね」と話す。

ボールの威力を増すため、より良いフォームを追及

加藤 拓也投手(慶應義塾高-慶應義塾大)「プロの世界では自分が勝負できるもので勝負したい」 | 高校野球ドットコム

加藤 拓也投手(慶應義塾大学)

 ウエイトトレーニングとともに、徹底的に取り組んだのが、「高校時代はあまり気にしていなかった」と振り返る、“より良いフォーム”の追求だった。
「僕は投手において、投球フォームが一番大事だと考えています。ボールは指先で離しますが、体の動きがそのままボールに伝わりやすいので。つまり、体の動き、フォームが変わらなければ、ボールの威力も現状のままかと」

 この考えのもと、加藤投手はこれまで、左足の上げ方やステップ幅など、自身のフォームに様々な修正をほどこしてきた。こうした中、入学時と比べて大きく変わったのが、“トップの時の胸の張り”だ。
「高校時代からストレートの最速が10キロアップしたのは、ウエイトトレーニングも1つの要因だと思いますが、胸をしっかり張れるフォームになったのが、大きいと思っています」

 より良いフォームを求め続けたことは、大きなケガの抑制にもつながった。
「大学に入学以来、大きなケガがないのは、トレーニングを続けてきたから、というのもあるでしょうが、より良いフォームで投げようとすれば、自然に無理のない投げ方になります。僕はこれも大きなケガがなかった理由の1つだと思います」

調子が悪いのでなく、体の動きが悪いと認識

 一方で、フォームを変えたことで失敗も。
「変えるというのはすなわち、慣れ親しんできたフォームで投げられない、ということになります。フォームが同じならスムーズに同じ動作を繰り返せますが、フォームを変えると上手くいかないこともある。それが原因で四死球が多くなったケースもありました」

 加藤投手がフォームについて突き詰めるようになったのは、1年時の秋頃からだそうだ。
「この投げ方だと調子いいな、と思っていても、すぐに調子が変わってしまうことがある。これってなんだろう…と思ったのがきっかけです。同じように投げているつもりでも、意識と体の動きが違う、と」

 やがて、試合で打たれたら、「それは調子が悪いのではなく、体の動きが悪いのが原因だと思うようになった」という。

[page_break:わかっていても打たれないストレートを投げたい]

 たとえ試合で結果が出なくても“調子が悪い”の一言で片付けない。この意識の高さが4年春までに20のリーグ通算の勝ち星と、2度の最優秀防御率を獲得させたのだろう。

 もっとも加藤投手は「いくらいいピッチングをしようが、チームが勝たなければ意味がないですし、3年秋の最優秀防御率もチームは3位だったので、素直に喜べませんでした。そもそもリーグ戦は真剣勝負。勝たなければ面白くないので」と話す。最終学年の今年も「最後の年だから、という特別な気持ちはありませんでしたね」と加藤投手。「これまでも常に“勝ちたい”“優勝したい”と思いでやってきましたからね。臨むスタンスは全く同じでした」と続ける。

わかっていても打たれないストレートを投げたい

加藤 拓也投手(慶應義塾高-慶應義塾大)「プロの世界では自分が勝負できるもので勝負したい」 | 高校野球ドットコム

加藤 拓也投手(慶應義塾大学)

 加藤投手のストレートの最速は153キロ。その球質は重く、今年の秋、加藤投手が東大1回戦でリーグ史上24人目のノーヒット・ノーラン達成した際にバッテリーを組んだ郡司裕也捕手(1年。仙台育英学園高出身関連記事)は「まるで鉛玉のよう」というコメントを残している。そんなストレートを投げる加藤投手は、どんなストレートを理想としているのだろうか?

「小学生の頃、速い球を待っていたのに、いざその球が来たら打てなかった、という話を聞いて(それって面白い)と思ったことがあったんです。そういう真直ぐ、来るとわかっているのに打てない真直ぐを投げたいですね。では、それはどういうボールかというと、打者からすると“ギャップ”があるボールかと。ここに来るだろうという予測から軌道が、さらには、これくらいの速さで来るだろう予測からスピードがずれているボールです。その軌道は曲がっても、落ちてもいいと思いますが、僕の場合、バットの上を通るスピンが利いた伸びのあるボールを投げたいと思っています」

 加藤投手はこう答えると、次のように加えた。
「プロの世界なら、僕のようなタイプが丁寧に投げたところで、たかが知れていると思うんです。それにプロでは“個性”が求められる気がするので、自分が勝負できるもので勝負したい。それが、来るとわかっていても打てない真っ直ぐを投げることなんです」

 球種は少ない。最近の投手は持ち球が多い傾向にある中、加藤投手は真直ぐの他にスプリットとスライダーがあるだけだ。これは何か理由があるのか?
「僕はあまり器用ではないので…(笑)。それもありますが、少ない球種をしっかり磨いて、精度を上げたいのと、いろいろな球種を投げようとするとフォームにズレが生じる、と考えているからです」

 加藤投手は慶應大に入ってから、慶應義塾高時代に投げていたフォークの握りを浅くした。
「スピードがある変化球を投げたい、と思ったんです。フォークとスライダーの速さがほとんど変わらなかったので、緩急をつけるためにもフォークをスプリットに変えたんです」

 コメントの1つ1つから自分がどういう選手であることを分析し、さらなる上達へ向けて、常に研究を怠らない加藤投手。その探究心は、今年、リーグ優勝を収め、常勝軍団を目指そうとしている広島東洋カープにとって大きな戦力になっていきそうだ。

(取材・写真/上原 伸一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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