市立須磨翔風高等学校 才木 浩人投手「伸びしろが大きくて最終着地点が見えない。それが最大の魅力」【後編】
前編では、10月20日に行われたドラフト会議で、阪神タイガースから3巡目指名された須磨翔風の才木 浩人に、プロを目指すと決めたときの中尾 修監督とのエピソードなどを伺いました。後編では、今後への意気込みも語っていただきました。
自己最速スピードを生んだ背景
才木 浩人投手(市立須磨翔風高等学校)
インステップが完全に解消された1年秋に初のベンチ入りを果たすと、2年春にはエースナンバーを背負い、チームを創部初の4強入りに導いた。入部時に120キロ程度だったスピードは1年秋に最速130キロに。一冬を越した2年春には最速142キロに達し、一躍2016年秋のドラフト候補として名が挙がる存在となった。
そして今年の6月、自己最速を更新する148キロをマーク。才木によれば、スピードアップを呼んだ最大の要因は3年春の大会後に取り組んだフォーム改良だったという。
――フォーム改良の件、詳しく教えてください。
才木:元々、ぼくはグラブ側の手を思い切り伸ばしながら大きくテイクバックをとるタイプだったんです。
――そうでしたよね。どこか阪神の藤浪晋太郎投手を彷彿させるようなダイナミックなフォームでした。
才木:でも自分の場合、テイクバックが大きいことが体の早い開きにつながってしまうところがあって。そのことがボールのキレの低下にもつながっていた。そこで、最後の夏の大会までにどうにかしてテイクバックを小さく、コンパクトにしたいという思いがあったんです。
――なるほど。
才木:いろいろと試行錯誤するうち、グラブ側の腕を思い切り伸ばさず、曲げた状態でコンパクトに使うとボールを持った右腕も自然と小さく使えることに気づきまして。改善したかった早い開きも抑えられ、これはいい感じだなと。それに腕をコンパクトにすることによって、体の回転のスピードも速くなって。大きくぶわーんと回っていたのが小さく、コマのようにぴゅっと速く回れるようになったんです。
――その表現、わかりやすいです。
才木:テイクバックがコンパクトになった分、前に大きく腕を振れるようにもなり、リリースにより力を集約できるようになったことでボールのキレ、スピードが向上した感じでした。最後の夏の大会でいい結果を導けなかったことは残念でしたし、悔しさが残りますが、投げられたボールは目指していた、納得のいくものでした。
一番いいボールを投げられているのは今
才木 浩人投手(市立須磨翔風高等学校)
高校最後の夏に手に入った納得のいくボール。ところがその後、才木は「現在はコンパクトなフォームではなく、大きめのテイクバックに戻しました」と続けた。いったいなぜ?
――せっかく納得のいくボールが手に入ったのになぜ元に戻したのですか…?
才木:元に戻したというよりは、以前の大きなテイクバックと夏のコンパクトなテイクバックの中間くらいに変更した感じです。最後の大会が終わってからも継続してトレーニングを行っていますが、体の回転スピードを上げるためのトレーニングもいろいろとやっていまして。以前は身体の力がなかったために、テイクバックを大きくすると体の回転スピードが落ち、それをコンパクト投法にすることで補っていたんですけど、今は動きを大きくしても速く回転できるだけの身体が手に入ったので。おかげでテイクバックを大きめにしても、開きを我慢できるようにもなりました。
――回転スピードや体の開きが犠牲にならないのならば、テイクバックは大きい方がいい?
才木:やはり大きい方が遠心力を加えることができるので。回転や開きが犠牲にならないのであれば、テイクバックは大きくした方がボールのスピードとキレは増すと思っています。
――ということは夏よりも今の方がいいボールが投げられている感覚がある?
才木:自分の感覚では今の方がボールのキレは増した感覚があります。周りからもバランスがよくなったと言われますし、受けてもらってるキャッチャーからも『ものすごくいいですよ!』と言われます。
――もしかしたら今、150キロが出てるんじゃないですか?
才木:それはいってないと思いますけど…。
――でも高校に入って、今は一番いいボールが投げられている。
才木:間違いないですね。最後の大会が終わってから、一番いいボールを投げてももう遅いんですけどね…。
――そんな風に考えなくてもいいと思います。でも今、試合がしたくてたまらないんじゃないですか?
才木:そうですね。試合、したいですね。
才木のフォーム変更に関し、中尾監督の意見をうかがってみた。
「テイクバックの小さい投げ方は、上のステージで投げることを考えると少し負担がかかるかなと思っていたので、時期を見ながら『もう少しテイクバックを大きくしてみたら?』と言おうとしていたんです。でもその前に彼は自分の判断で大きくしていた。その時の自分の身体に合った投げ方を考え、実行できる力、感覚が素晴らしいです。
テイクバックを小さくし、前でリリースする感覚を保ったまま、テイクバックを大きくとることができているので、変化球の精度も上がりましたし、ストレートのキレも増した。今のフォームが一番自然体でバランスがいいと思います。高校生活があと1年あったならば、甲子園にいけたんじゃないかと思ってしまうほどのボールをブルペンで投げ込んでいますよ」
――上のステージを見据えた際の才木投手の課題はどのあたりにあると思われますか?
「課題は変化球の精度でしょう。ストレートは1年もあればプロのレベルに達すると思いますし、155キロくらいまでは出せると思っていますが、変化球はプロのレベルには程遠いと思いますので。でも彼はこれまでも自分の課題としっかりと向き合い、正しく努力することで課題をひとつひとつ着実にクリアしてきた。きっとプロの世界に飛び込んでからもひとつひとつ課題を克服していってくれるんじゃないかと思っています。
きっとぼくの想像もつかないような伸びしろを彼は秘めています。伸びしろが大きすぎて最終着地点がまったく見えない。そのスケール感にワクワクしてしまいます」
才木浩人が語る「これから」
才木 浩人投手(市立須磨翔風高等学校)
インタビューも終わりに近づき、最後に「これから」というテーマを才木投手にぶつけてみた。
才木:プロの世界は、自分よりもすごい選手ばかり。負けず嫌いな性格をしっかり生かし、自分に必要な練習やトレーニングを積み重ねながら、すごいなと思った人たちを抜いていきたいと思っています。
――憧れの選手、目標とする選手はいますか?
才木:憧れの選手は大谷翔平(関連記事)選手です。目標はその大谷選手を抜くことです。
――おおーっ!なんて力強い!その心意気、素晴らしいです。
才木:負けたくないです。好きな野球を仕事にしたからには日本で1番の選手になりたい。2番は嫌なんです。絶対に1番にこだわりたい。そのためにもいろんな方々から学び、見て、研究し、自分に厳しく取り組んでいきたい。日本でこいつがナンバーワンピッチャーだと思われたいし、圧倒的な1番になりたいです。
まだまだ一向に見えない才木浩人の伸びしろの終着点。
その行き先を目撃できる日を楽しみにしつつ、長きにわたる活躍を心から祈りたい。
(文=服部 健太郎)
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