Interview

中村 勝 (春日部共栄-北海道日本ハムファイターズ) 「気持ちを強く、チームが一つに」 【後編】

2016.07.27

 前編では、高校時代の思い出と大切にしていたグラブの刺繍に込めた思いなどを伺いました。後編では、春日部共栄で得たものやプロ入り後に感じていることなどを語っていただきました。

春日部共栄で得た大きな学び

高校時代の中村 勝投手

 気持ちの強さをバランスよく維持することは簡単なことではない。強さが出すぎれば、時として頭に血がのぼり、周りが見えなくなってしまうこともある。逆に強さが鈍れば、相手に付け入る隙を与えてしまう。中村投手は、この非常に難しいメンタルバランスを、高校時代に学んだという。

 埼玉県春日部市出身。中学時代から、野球仲間とランニングしながら地元の野球名門校である春日部共栄の練習を見ていた。
「家からも近かったですし野球も強いので、行ってみたいと思っていました」

 中学3年時にKボールの県選抜チームに選ばれ全国優勝。日本代表としてアジア大会にも出場した実績もあり、望み通り春日部共栄に進学した。
転機が訪れたのは2年秋。2008年の秋季埼玉県大会準決勝。春日部共栄花咲徳栄に敗戦を喫した(5対6)。
「あと1回勝てば関東大会出場、という試合で負けてしまったんです。仲間がたくさん点を取ってくれて流れもよかった。でも、僕が打たれて、しかもサヨナラホームランを打たれて…それがすごく申し訳なかったんです」

「大会で負けた試合はすごく覚えている」高校時代だが、その中でも特に印象に残っている試合だ。この敗戦をきっかけに、中村投手はフォームを改造することを決意する。
「それまでは左手を高く上げて投げていたのですが、それだと身体がブレてコントロールが安定しませんでした。そこで冬の間に左手の位置を下げて自分の中でしっくりくる場所を探して」

 左手の位置を調整することで、ピッチングが劇的に変わった。結果、冬を越え、最終学年となった2009年春から、プロのスカウトの注目を浴びるほどの活躍を見せるように。ちなみに、前述のウイルソンのグラブを使いだしたのもこの頃だったと記憶している。

[page_break:最後の夏はベスト8]

最後の夏はベスト8

高校時代の中村 勝投手

「以来、どの試合でもそれなりに抑えられるようになりました。でも、最後の夏前の一時期、抑えているのですが勝てない試合が続いたことがあったんです。どの試合も0対1で敗戦、というような。その時、練習中に僕が怠慢なことをして監督に怒られたことがあったんです。『お前ひとりで野球をやってるんじゃないんだ!』と」

 正直、怠慢な態度をとっている自覚はなかった。でも、ハッとさせられるものがあった。
「当時は、マウンドにあがったらすごく勝気になって、絶対に負けたくない気持ちばかりが前面に出ていたと思います。でも高校3年間で監督にこっぴどく叱られたのはその時ぐらいだったこともあり、気付かされるものがありました。それから心を入れ替えました」

 そして迎えた高校最後の夏。二ケタ奪三振を記録しながらベスト8へと進む。準々決勝の相手は埼玉栄
「この試合の3回の攻撃時に犠打をして走りだした時、腰を怪我してしまいまして…。でもなんとか9回まで投げ切りました」

 試合は我慢の粘投も実らず1対2で惜敗。中村投手の高校野球は終わった。
「もちろん悔しい思いもあります。ですが、それまで三振をバンバン奪っていた自分が、最後の試合では腰を痛めたこともあり打たせて取った。そこで仲間を信頼して投げて抑えるという経験をして。だから、最後にみんなと一体になれた印象も強いんです」

 それまで三振を取るスタイルだった投手が、突如仲間を信頼して打たせて取るピッチングにシフトチェンジすることはできない。おそらく、中村投手は最後の試合前から独りよがりにならないピッチングを志向していたのだろう。それが、最後の最後、不測の事態が招いたこととはいえ、本当に「チーム一体となること」を体験した。

 この貴重な経験は、プロ入り後もいかされている。
自身が振り返るプロ入り後のベストピッチは、初登板初先発初勝利でも日本シリーズでの快投でもなく、2015年8月23日のオリックス19回戦。この試合で中村投手は1失点完投勝利を挙げている(スコアは5対1)。

「完投した試合は総合的に見ても、いい展開に持って行けたと感じているのですが、ベストは昨シーズンのオリックス戦です。全くランナーを出さなかったわけではないのですが、要所でダブルプレーが取れたり、しっかり三振が奪えたり。バッターとの駆け引きの中で上手く相手を追い込むこともできました。今の僕は、バンバン三振を奪える感じではないので、いかにテンポよく打たせて野手の人に守ってもらうか、が重要。その狙いがピタッとハマった感じがしました」

[page_break:気付きを得るきっかけを]

「気持ち」を強く持ちつつ、仲間を信頼し「チームが一つ」になって試合に勝つ。高校時代に得た学びは、今やプロ野球を生きていく上での美学となっている。
「自分だけ独りよがりにならないというのは、身に付いています」

 今使用しているグラブには自分の名前以外、言葉は刺繍されていない。それは、刺繍せずとも「気持ち」をコントロールできる術を体得した証といえるかもしれない。

気付きを得るきっかけを

中村 勝投手(北海道日本ハムファイターズ)

 取材をさせていただいた日は、ちょうど母校の夏の甲子園予選の試合日だった。結局雨で中止になったのだが、その日に試合があることは知っていた。今でも、春日部共栄の試合結果は気になるようだ。

「よくグラブの手入れをしながらその日の練習や試合を反省する、という話を聞きますけど、高校時代はしていなかったと思います。というより、家でも部室でも常に考えていた。で、ある時ぱっとひらめくものがあったりして」

 今ほど野球を論理的に考えてはいなかったのかもしれない。いうなれば、高校時代は「気づき」の3年間だった。そんな中村投手が現役高校球児におくる言葉がまた“らしい”。

「僕のピッチングが変わることになったきっかけとして、フォーム改造と同時にウエイトトレーニングを取り入れたというのはあると思います。でも、今の高校生ならウエイトトレーニングや技術練習はたくさん積んでいると思う。それ以外となると…冬の期間にみんなで遊び半分でやっていたサッカーのミニゲームとかですかね。

 高校時代の印象として、レクリエーションも含めてずっと動いていた感じなのですが、リラックスで動いているつもりが、結果的に技術練習や体力練習になっていたり、何かをひらめくヒントやきっかけになったりする。僕自身、当時はそこまで自覚していたわけではないですが、結果的に役立ったと感じています。とにかく身体を動かすこと。それは決して無駄にはならないはずです」

 きっかけはどこに眠っているか分からない。であれば、「数を打てば当たる」よろしく、きっかけとなる機会を積極的に増やす。高校時代のグラブを眺めながら語る中村投手の目には、当時の自分の姿が映っているかのようだった。

(インタビュー・文/伊藤 亮


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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