Interview

帝京長岡高等学校 バンゴーゼムゲレック 高投手【前編】「初の甲子園出場へ 時間をかけて素質を開花させた大型左腕」

2016.07.07

-「混戦必至」-
開幕前、今年の「第98回全国高等学校野球選手権新潟大会」を評するなら、この言葉が当てはまるだろう。昨秋の大会のベスト4と今春の大会のベスト4が全て入れ替わり、夏の大会は群雄割拠の大混戦が予想されている。そんな新潟において、昨秋ベスト16(優勝した日本文理に敗退)、ベスト8(優勝した新潟明訓に惜敗)と着実に結果を残しているのが、新潟県第二の都市・長岡市に位置する帝京長岡

 夏の大会ではここ2年連続でベスト8に入るなど実力校として注目され、今年は優勝候補にも名前が挙がっている。そんなチームを投打で引っ張りプロからも注目を集めているのが、エースで4番のバンゴーゼム・ゲレック・高だ。そんなバンゴーゼム投手の軌跡を振り返っていきたい。

小学校時代に野球の魅力を感じ、野球1本に

バンゴーゼムゲレック 高投手(帝京長岡高等学校)

 6月中旬、取材のため訪れたグラウンドには、野球部員の活気づいた声が響いていた。そんな中、他のチームメイトよりも一回り大きい体躯から、一際大きな声を出してチームを盛り上げている選手がいた。

「1年生の時から試合に出してもらって、先輩たちからいろいろなことを学んできました。ピッチング、バッティング、守備など技術面はもちろん、日常生活など…。練習中に積極的に声を出すのも、先輩たちから受け継いでいるので自分から率先してやっています」

 バンゴーゼム・ゲレック・高

 投げては、ダイナミックなフォームから140km前後のストレートを投げ込むプロ注目のエース左腕。打っては昨夏の大会で場外ホームランを放つなどパワーあふれる4番の重責を担う。アメリカ人の父を持ち、端正なマスクと185cmという恵まれた体格でスター性は十分。文字通りチームの看板選手だが、練習中のプレーの質やたたずまい、さらに取材中の受け答えには、驕(おご)りや過信を一切感じさせない。練習中のイキイキとした表情からは、純粋に野球が好きで、ただただうまくなりたいという気持ちが伝わってくる。

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菊池雄星は憧れの投手だった

バンゴーゼムゲレック 高投手(帝京長岡高等学校)

「野球を始めたのは、友達が野球をやると言って、それで一緒にやろうって誘われたのがきっかけですね。リトルとかクラブチームではなく、小学校の軟式のチームです。野球を始めて、すぐにその魅力に気付きました。とにかく遠くへ飛ばすこと、とにかく速い球を投げることが楽しくて。それまで、テニスとか水泳をやっていたんですけど、辞めて野球1本になりました。

 お父さんは、テニスを続けてほしかったみたいですけど(笑)。小学生のころから球は速い方だったと思います。憧れの選手は、菊池 雄星選手(現西武ライオンズ・関連記事)。甲子園大会を見ていて、当時花巻東のエースとして出場されていて、とにかく球が速くてとにかくかっこよかったですね」(バンゴーゼム・ゲレック・高

 菊池雄星への憧れを抱き、中学でも迷わず野球部に入部。幼い頃から同級生より体がひとまわり大きかったバンゴーゼムだが、その体の成長に筋力がついていかず、ケガに泣かされてしまう。中学最後の大会も初戦敗退。「ケガをしていたので、エースを外れて、主に一塁手でした」というバンゴーゼムに、登板の機会はなかった。だが、その試合を見に来ていた帝京長岡中島 茂雄監督は、バンゴーゼムの素質に惚れた。

「うちの高校を応援してくれている人から『面白い選手がいるから見てほしい』と言われたのがきっかけです。見に行ったら、初戦で負けてしまって、本人も投げてなかったんです。ただ、ベンチ前で立ち投げというかキャッチボールをしていたんです。『スー』っと相手のグラブに収まる。球筋がすごくいいなと思いました」(中島監督)

「中学生の頃は全然目立ってもいなかったし、いい戦績があげられたわけでもなかったんです。でも中島監督は学校に来て『帝京長岡で一緒にやろう』と言ってくれたんです。何より必要とされているという感じが伝わってきて素直にうれしかった。さらに、中島監督からは、どういう風に育成していきたいかという説明を受けました。『まず体作りをしっかりやっていこう』と言われました。中学の時もケガがあったので、不安もあったんですけど、それもあって監督の下で野球がやりたいと思いましたね。監督の第一印象は正直怖かったですけど(笑)」(バンゴーゼム・ゲレック・高)。

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時間をかけて素質開花

バンゴーゼムゲレック 高投手(帝京長岡高等学校)

 こうして、帝京長岡野球部に入部したバンゴーゼムは、その素質を買われて1年春から2年、3年生に混じってレギュラー組で練習。試合にも出場していたのだが、当初は苦労も多かった。

「あの体なので、一見、力があるように見えるんですけど、やはり中学生から高校生になったばかり。筋力もなかったし、全然走れなかった。最初は当然、打てないしエラーもしていたんだけど、我慢して使って、1年秋からと思っていたんだけど、制球力がなくて、なかなか時間がかかりました」(中島監督)

「入部した頃は、体は大きかったんですけど、とにかく線が細かったし、筋トレとかもあまりしてなかったんです。監督からはとにかく『体を作れ』と言われていたので、それからはウエイトや走り込みをずっとやっていました。体作りは入部からずっと継続してやっています。軟式から硬式への変化は、バッティングに大きな影響がありました。やはり、軟式と硬式では打ち方が違うので、最初はバットに当たらなくて苦労しました。逆にピッチングは違和感がなかった。むしろ、『硬式の方が球がいくな~』って思っていました」(バンゴーゼム・ゲレック・高)。

「1年生の頃はとにかく徹底的に走り込ませた。ようやくめどが立ってきたのが2年の春からですね。(当時のエース)藤塚(柊)と2枚で投げさせていました」(中島監督)

 制球力があり、試合を作れる安定感が持ち味のエース・藤塚に、荒削りながら左腕から魅力的なストレートを投げ込むバンゴーゼム。チームの骨格が定まり、甲子園を目指して臨んだ夏の大会だったが、結果はベスト8。負けた試合は、バンゴーゼムにとって、高校野球の中でも大きなターニングポイントになった試合だという。

「自分が2年生の時の夏の日本文理戦が大きなポイントでした。藤塚(柊)さんがすごくいいピッチングをしていたのに、自分のエラーをきっかけで負けてしまって。自分が台無しにしてしまった。大泣きしましたね…。でもそこから今まで以上に気合いを入れて練習するようになりました」(バンゴーゼム・ゲレック・高)。

 野球の魅力を感じて野球を始めたバンゴーゼム投手。高校入学後は高校野球の高いレベルに苦労しながらも立ち上がっていく様子を描きました。後編では昨年の夏休み期間中に負ったケガを乗り越えて、大きく成長していくバンゴーゼム投手について迫ります。

(取材・文=町井 敬史)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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