Interview

れいめい高等学校 太田 龍投手【前編】「勝つ喜びを知っているから…」

2016.05.19

 身長189.5センチ、体重88キロ。このサイズだけでも将来を夢見たくなる。近年プロで活躍する鹿児島出身の本格派投手といえば、3年前の二木 康太鹿児島情報→千葉ロッテ)だが、二木の高3夏時点でのサイズは187センチ、73キロ。太田のサイズが規格外なのが分かるだろう。憧れのプロ野球選手に「日本ハムの大谷 翔平関連記事を挙げるのも、自分と似たものを感じるからだ。

 少し前に、れいめいと同じ薩摩川内市内にある鹿児島川内高校出身のプロに、木佐貫 洋(元オリックス)、宇都 格(元近鉄)がいたが、彼らも190近い長身の本格派投手だった。長身ではないが、3度のノーヒットノーランを達成し殿堂入りした外木場 義郎(元広島)は出水の出身。北薩には好投手を生み出す系譜があるのかもしれない。

 太田にも偉大な先輩たちと同じ、もしくはそれ以上の可能性が秘められている。だが、その潜在力に見合う結果を現時点までで残せていない。高校での2年間では県大会ベスト8が最高成績。れいめいは15年春に県大会優勝しているが、このとき太田は腰椎分離症の影響で冬場のトレーニングができず、ベンチに入れなかった。

 これまでの野球人生を振り返っても「悔しい思い出しか残っていない」と言う。だが挑戦をやめるつもりはない。「無冠の大器」に夏に挑む心境を聞いてみた。

中学3年間で23センチ

太田 龍投手(れいめい高等学校)

 出身はさつま町宮之城。小学1年から軟式野球を始めた。身長は元々高い方だったが、急激に伸びたのは中学校の3年間だという。「入学時で160センチだったのが、卒業する頃は183センチになっていました」。3年間で実に23センチも伸びたことになる。

 その「秘訣」に思い当たる節はない。「よく寝ていた」ことぐらいだろうか。中学時代も目立った実績はないが、鹿児島実樟南鹿児島情報など、強豪私学からは一通り声はかかった。その中で同じ北薩地区のれいめいを選んだのは「甲子園に出ていない学校に行って、強豪校を倒して甲子園に行きたいから」。

 1つ上の先輩・火ノ浦明正(現専修大)の存在も大きかった。火ノ浦は出水市の高尾野中、太田は宮之城中。場所は離れているが同じ北薩地区であり、地区大会などで顔を合わす機会があった。中2の頃、一度練習試合で対戦したが、散々に打ち込まれた。以来、LINEなどで連絡を取り合う仲となり「お前も、れいめいに来いよ!」と誘われてその気になった。

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ケガとの闘い

太田 龍投手(れいめい高等学校)

 地元・北薩からの甲子園の大望を抱いてれいめいでの高校野球生活をスタートさせた太田だったが、この2年間はケガとの闘いだった。一番大きかったのは1年秋の腰椎分離症。夏の頃から腰の違和感があり、ごまかしながら練習は続けていたが、秋の県大会の頃には痛みがピークに達していた。4回戦出水中央戦でリリーフ登板しているが全く役に立てず、逆転負けを喫した。その後分離症が判明し手術をしたため、冬場のトレーニングは全くできなかった。

 前述したように15年春、れいめいは20年ぶりに鹿児島の頂点に立つが、メンバーの中に太田はいなかった。樟南に勝って優勝し歓喜に沸くチームメートをスタンドで見守りながら、嬉しさ以上に「悔しかった」気持ちを噛みしめていた。

 春以降、腰の状態は良くなったが、夏前に今度は走っている最中に右大腿骨を疲労骨折。れいめい4回戦徳之島に敗退。新チームになった秋、太田の背番号は「1」ではなく「8」だった。秋の大会前、湯田 太監督は「赤﨑(卓明・3年)の状態が良かったから」と話していたが、太田には「1番を与えると、必ず無理をしてしまうから」と説明していた。

会心の神村学園戦、屈辱の鹿児島実戦

 8月の北薩大会で優勝したため、れいめいはセンバツがかかった秋の鹿児島県大会はシード校だった。組み合わせは4回戦神村学園準々決勝で鹿児島市大会優勝の鹿児島実と当たるパートだった。エース番号を太田に与えなかった湯田監督だが「組み合わせが決まった時から神村戦、鹿実戦は太田で行くと決めていた」という。

 満を持して登板した神村学園戦。初回に3番・田中 梅里主将(3年)、5番・赤坂 泰成(3年)にタイムリーを打たれ2点を先制されたが「初回の2点は全く気にしなかった。勝つことしか考えていなかった」。6回以降は初球をカーブから入って直球との緩急を使った配球を意識するようになると、強打の相手打線を完璧に封じることができた。最後は連続三振で締めくくり「最高に気持ちが良かった」と振り返る。

 6回には同点に追いつく2点タイムリー、8回には貴重な追加点と3打点を挙げ、投打にわたる活躍で大一番を制した。試合直後は「立ち上がりに2失点したので70点の出来」と控えめだったが、時が経って振り返れば「今までの野球人生の中で一番嬉しかった」と勝利の瞬間に思いを馳せていた。

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太田 龍投手(れいめい高等学校)

 続く準々決勝鹿児島実戦は、筆者が2015年の好ゲームベスト5の中に挙げるほど、ハイレベルな一戦だった。川内南中出身で鹿児島実の主砲・綿屋樹主将(3年インタビュー)と太田とは「小学校からのライバル」であり、太田vs綿屋の直接対決はチームの勝敗を度外視して見入ってしまうほどの迫力があった。

 1打席目が空振り三振、2打席目がセンターライナー、3打席目は三振。綿屋に打たれはしなかったものの「4打席目の四球が悔やまれる」と唇をかむ。この後、綿屋に意表を突く三盗を決められ、動揺したバッテリーの捕逸が決勝点となって、1点差で涙をのんだ。

 2年冬場のトレーニングは、捲土重来への強い想いを胸に取り組んだ。ランメニューは常に先頭を走った。身体の状態も良く、1年前、ケガで全く練習できなかった分を取り返す意気込みだった。1つ上の主将・火ノ浦が、ケガで練習はできなくても黙々と走り込んでチームメートの信頼を勝ち取った姿を重ね、先頭を切って誰よりも走り込むことで、同級生や後輩から尊敬される選手になろうと思ったという。

 食事への意識も変え、バランスを考えて野菜を多めにとるようになった。母・悦子さんが管理栄養士で、これまでもバランスなどは考えて作ってくれていたが、野菜嫌いで残すことが多かったという。それを改め、この冬場はむしろ野菜を多めにとるようにした。

 体重は4キロ増え、「軽く投げているのに、ボールが伸びている」のを感じられるようになった。1年前の春、練習ができずにベンチにも入れなくて、チームメートの優勝を喜べなかった借りを返す準備は万全にできたはずだった。

 故障に苦しみながらも、限られた時間の中で、恵まれたポテンシャルを伸ばしてきた太田 龍投手。後編では最後の夏の大会に向かう太田投手の姿を追いました。

(文=政 純一郎


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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