Interview

埼玉西武ライオンズ 木村 昇吾選手「レギュラー入りするために。もう一度、自分を見つめ直そう」

2016.03.29

 2015年まで在籍していた広島東洋カープ時代、「ユーティリティープレーヤー」と評されることが多かった木村 昇吾。代打・代走・守備固めと、どの役割を与えられても、その期待に応えることが出来る選手だった。しかし、木村が、ユーティリティープレーヤーと呼ばれることに満足したことは一度もなかった。プロ14年目を迎える現在もなお、新天地・埼玉西武ライオンズで、ショートのレギュラーにこだわり続けている。
ある意味で、木村が、これまでの球団でユーティリティープレーヤーとして確立したポジションを掴むことができたのも、レギュラー獲得に対する強い執着があったからだといえる。

 木村 昇吾の1軍定着までのストーリー。それは、レギュラーを目指す全ての球児たちへの熱いメッセージでもある。

武器が5つあれば1軍に定着できる

木村 昇吾選手(埼玉西武ライオンズ)

 先に、木村の学生時代の活躍に触れておこう。
香川の強豪・尽誠学園では、3年夏には第80回全国高等学校野球選手権大会に出場。高校卒業後は愛知学院大学で、1年次からショートのレギュラーとして活躍。その後、大学4年間での実績を評価され、2002年のドラフトで、横浜ベイスターズから11巡目指名をされる。

 当時のドラフトでは、同球団への自由獲得枠で村田 修一選手(現読売ジャイアンツ関連記事)、さらに5巡目指名には吉村 裕基選手(現福岡ソフトバンクホークス関連記事)もいた。自分は下位指名、それでも同級生には負けたくない。そんな思いもあった。
しかし、同級生以上に、ここはプロ野球の世界。レギュラーメンバーの顔ぶれをみても、スタメンの枠はもちろん、1軍登録さえ、そう簡単に叶えられるものではなかった。
入団して3年目には、1軍の試合出場数もゼロになった。

「もうクビかなと思いました。俺、このままやったら終わるなって」
そんなときに、2004年から2年間だけ、2軍の打撃コーチに就任していた大久保 秀昭氏(現・慶応義塾大学監督)から、こんな言葉を掛けられた。

「もし、3つ武器があったら、1軍に上がることができる。5つ武器があったら、1軍に定着できる。7つ武器があったら、レギュラーが獲れるぞ。お前の武器は何だ?」

木村は考えた。自分の武器は何か?

・バントができる
・肩が強い
・守備が良い
・足が速い
・盗塁ができる

 この5つだけでも、守備固めとして1軍に定着ができるということになる。それから、もしそこに、

・ヒットが打てる
・ホームランが打てる
・三振をしない

 これも加われば、武器が7つにも、8つにもなって、レギュラーになれる。大久保氏は、木村にこう言った。
「その武器を磨け。誰にも負けない自分の武器を磨け」

 この日からの木村は変わった。2軍での試合では、バントは成功して当たり前。盗塁は絶対アウトにならない。守備はエラーを絶対しない。そのイメージを持って、常に試合に臨んだ。全体練習が終わっても、自分の武器を磨くための時間を取り、試合では常にその意識を持ってプレーし続けた。

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[page_break:自分の武器を見出してから一軍で活躍!]

自分の武器を見出してから一軍で活躍!

木村 昇吾選手(埼玉西武ライオンズ)

 この時、木村はイースタン・リーグで、20回盗塁をして20回成功させている。それが、1軍登録へのきっかけとなった。1軍では、代打や守備固めとして起用され続けた。
その後、木村は、大久保氏の言葉通り、1軍定着を叶えた。2008年には、交換トレードで広島東洋カープに移籍。守備固めや代走での起用回数はリーグ最多を記録するなど、チームにとって、なくてはならない存在となった。さらに、二塁手、三塁手、遊撃手のレギュラーとして試合に出場する機会も増えた。2012年には、初のクリーンナップも任された。

 そして、プロ入り14年目の2016年、埼玉西武ライオンズに移籍。
「僕の人生の中で、最大にして、最初で最後のショートのレギュラーを取るチャンスだと思っている」
そうシーズン前に語っていた木村。今年36歳となるが、目標はいつも変わらない。

「可能性は自分で決めてしまうと、そこまでしかいかない。僕はレギュラーを目指してやっているから、ユーティリティーというポジションができた。でも、ワンポイントを目指していたら、そこにも到達していない。とっくに選手として終わってたんじゃないかなって。
だから、目標はやっぱり上を目指した方がいい。野球だって9回2アウトまであきらめるなっていうじゃないですか。あきらめるなって、月並みな言葉だけど、あきらめが悪い男になった方がいいんです」

 それは、プロだけでなく、野球選手なら誰でも同じだ。
「もし今、ベンチに入っていなかったり、レギュラーでない場合。まずは自分の力ではどうにもならないこともあると知ることが大事。例えば、なんで自分を選んでくれないんだ?って、そこに腹を立てても、力を使っても無意味なことがある。明日の天気が雨でも、なんで雨やねんって腹立てたところで、全くの無駄でしょ。それと一緒で、もし監督が使ってくれないって気持ちがあったら、監督の心を変えることは無理。でも、変える術はあるんです」

 木村は、言葉を続ける。
「まずは、自分に、ベンチに入れない、レギュラーになれないという非があるなら、自分自身を伸ばす術を使うんです。そういう意識でやれば、『自分』という選手が自分で分かってくる。誰かの心を変えるんじゃなくて、自分の力を伸ばしていく方に力を使った方が効率がいい。自分を知るには、周りを見なくちゃいけないし、周りから見た自分はどうかな?って。だから、僕は全部自分が悪いって思います。どんなことでも。人のせいばっかりしてたら、めんどくさいでしょ。自分がやったことを人のせいにするなんて、人生おもしろくないじゃないですか。人生は、自分が主役ですから」

 そうニンマリと笑った木村。では、木村自身、どう『自分』という選手を見つめ直し、その武器を磨いてきたのだろうか。
次は、その具体的な方法を教えていただいた。

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[page_break:自分という選手について分析する]

自分という選手について分析する

木村 昇吾選手(埼玉西武ライオンズ)

「今、自分が持っている武器の中で、一番、一軍に近いと思えるもの。使えると思えるもの。勝負できるものは何か?ということから考えていきます。大切なのは、自分は一体、何者なのか?どういうことができるのか?何より、自分がしたいことと、できることは違うってことをまず認識してほしい。守備と走塁は、いける。あとはバントはどうか?と見つめ直していく」

 プレーしている結果のイメージを持って、そこに向けて何をするか。上手くいかなくても、上手くいくようにどうすればよいかを考えてコツコツとやり続けてきた木村だからこそ、掴めた一軍でのポジションがあった。

 木村には、そのための練習時の工夫がある。例えばバント。
「バントは出来て当たり前と思われる。本当は難しいのに(笑)。出来て当たり前って思われているから、出来て当たり前ってまでやるんです。僕の場合は、自分だけのチェック項目を作りました。まず片手でバントをする。次に片手で普通に転がす。次は両手で転がす。その感覚を掴んでいく」

 走塁の磨き方も、木村流だ。
「ただ足が速いだけでは盗塁できない。まずスタートの練習はもちろんですが、相手投手のクセを見抜くのも大事。日頃から、自分のチームのピッチャーに、『普段、どういう意識で投げているの?』って聞いてみるのもいいと思います。逆に自分はピッチャーのこういうところを見ているってことを教えてあげると、投手もうれしいと思います。よく若手投手とも話をしてると、『木村さん、そんなところ見ているんですか!』って驚かれますけど」

 かつて他球団に、ピッチングの時とけん制の時で、左足のつまさきの向きが変わる投手がいた。左足を見るだけで、ホームに投げるのかどうかが分かる。それなら、走ってしまえばいい。それもまた、盗塁技術だと木村は語る。

「僕の頭は1つしかないけど、他の選手のやり方を聞いて、それを自分のものにしてしまえば、引き出しは、2つにも3つにもなる」
 

 そして、それらの引き出しを本番で出し切れるのもまた、その選手の持つ強さでもある。

「自信がないとやれないです。じゃあ、自信をつけるのは何か?どれだけ自分がやっているかということ。でも、『僕、練習してます』とか、『頑張ってます』っていうやつはその程度。本当に練習してる選手は、練習してますとは言わない。やって、当然のことだと思ってる。だって、朝、歯磨いて自慢しますか?それと一緒のことです。上手くなりたいから、やる。偉そうなこといわんと、レギュラー取りたいなら、頑張るだけだと思います。自分が上に行きたいんであれば、頑張る。それだけです」

 毎年、競争の厳しいプロの世界で、13年間プレーしてきた木村の言葉は、熱かった。
それは、36歳となる年に、自ら移籍の道を選び、新天地でショートのレギュラー獲得を狙う自分自身へ投げかけている言葉だったのかもしれない。
この日、チームの全体練習が終わったあと、一番遅くまで球場に残り、バットを振り続けていた。7つ目の武器を手にして、ショートのレギュラーを掴む日を心待ちにしたい。

(文=安田未由


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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