Interview

鹿児島実業高等学校 綿屋 樹選手「目指すは打率8割以上!」

2016.03.10

「野球部にきていただいて本当に良かったと思います」

 鹿児島実宮下 正一監督は言う。川内南中時代の綿屋を2年生で見たとき、中学生離れした打球は魅力だったが、3年に上がったらイップスが出てしまって、まともに内野送球ができなくなっていた。「うちに来るのは厳しいのでは?」と思って、積極的に誘わなかった選手だったが、綿屋自身が「鹿実に行きたい!」と強い願望を持っていた。

 そんな綿屋が昨秋の県九州大会の9試合で残した打撃成績は6割2分1厘、本塁打4本、打点20。全国でもトップクラスの数字である。センバツでも注目打者の1人に挙げられることは間違いない。主将として、主砲として挑むセンバツへの意気込みを聞いてみた。

鹿児島実業に憧れた理由

綿屋 樹(鹿児島実業高等学校)

 イップスがあって厳しいと思われていた中で、それでも鹿実に行きたいと思ったのはどういう心境だったのだろうか?

豊住 康太さん(三菱自動車岡崎)や野田 昇吾(埼玉西武ライオンズ)さんたちのチームを小学生の高学年の頃に見ていて、鹿児島にもこんな強いチームがあることに衝撃を受けました。『ここだったら全国が獲れるかもしれない』と思って『行くんだったら鹿実』と決めていたので、変える気はありませんでした。鹿実のユニホームを着たいという気持ちが強かったので『あきらめろと言われてもあきらめきれない』心境でした」

 そして宮下監督は、鹿児島実のOBであり、綿屋と同じ川内中学校の先輩でもある。宮下監督から一番学んだことは何だろうか。

「監督さんには何より男として成長させてもらったと思っています。少しでも甘いところを見せれば厳しく指摘されます。野球はもちろんですが、それ以上に人間性の面で鍛えられることが多いです。監督さんがよく言われますが『最終的にお前たちはお父さんになるんだぞ』ということで精神的に強くなることを学んでいます。日ごろの練習ではいつもケチョンケチョンに怒られてばかりなので、いつも『見返してやろう』という気持ちで練習しています」

 日ごろの練習の監督さんの言葉は本当に厳しいと感じる。

「練習の時から緊張感をもってやらないと、試合ではもっと緊張することになります。僕らのチームは何でか分からないけど、試合になると点を取られても、何とかなるという気持ちになって、堂々と落ち着いて試合ができます。それもいつも監督さんから厳しいことを言われているからこそだと思います」

 今年のチームを見ていると経験のあるエリート選手はいないけれど、いざというときはガチっとまとまる泥臭さがある。甲子園から帰って間もない鹿児島市内大会では鹿児島戦、鹿児島工戦、かなり危うい試合だったが、ひっくり返して勝つ試合があった。この試合を見て、筆者は謙虚さと自信のバランスがうまくとれているように感じたが、綿屋主将はどう感じているのだろうか。

「あの試合は何点取られても本当に負ける気がしなかったです。僕らは1人1人がバカであまり考えすぎないところがあります(笑)。その中に何人か考えているヤツがいて、そいつの言葉で一つにまとまれる強さを持っています。何か一つのことに夢中になれるがむしゃらさがあると思います。攻撃の前、監督さんが『この回行くぞ!』と言われると、その気になって実際に点が入るとかもありましたね(笑)」

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[page_break:打率6割よりも海星戦で打てなかったことが悔しかった]

打率6割よりも海星戦で打てなかったことが悔しかった

綿屋 樹(鹿児島実業高等学校)

 今年のチームについて宮下監督にお話を伺ったところ、「3年生のおかげで今のチームがある」と言う。実際のところ綿屋主将はどう感じているのか。

「昨夏、チームとして5年ぶりに甲子園に出られたことが本当に大きかったです。1つ上の先輩たちと甲子園という舞台に実際に立てて、プレーできたことは今のチームにとってはプラスになることばかりでした。あの場所に立てたことで『もう1回あそこに帰りたい』という気持ちになれたし、3年生がやってくれたからこそ、今のチームがあると思っています。

 夏に先輩たちがてっぺんをとったのだから、俺たちも続かないといけないという気持ちにさせてくれました。先輩たちが甲子園を切り開いてくれただけではなく、自分たちはもっと上を目指さなければいけないという気持ちにもなりました。もし3年生が甲子園に出ていなかったら、僕たちも『どうやったら行けるのか?』を考えながらやらなければならなかったと思います」

 3年生が甲子園に出場したのは今年の選手たちに大きかった。以前、森口 裕太前主将に話をしたとき、今の選手たちへ「甲子園は出るだけじゃダメで、そこで自分のプレーを存分にやり切ることを目指して欲しい」と話していた。綿屋は昨夏の甲子園の中京大中京戦でより、全国制覇を目指したい思いが強くなっていた。

「夏は中京大中京(愛知)に負けて(試合レポート)本当に悔しかったです。だからこそ僕たちは鹿実の野球を全国に広めたい気持ちがあります。力はないチームだけど、センバツはもちろんですが、過去の先輩たち、鹿児島県のどのチームもやったことがない夏の全国制覇を目指して、鹿実の黄金時代を作りたい夢があります。中京大中京戦では、4番でありながら僕は1本も打てなくて『チャンスに弱い』ことを監督さんから厳しく言われました。秋の九州大会でも長崎海星(長崎)戦(試合レポート)で肝心なところで1本打てなくて、全然成長していないと痛感しました。たとえそれまでに何本ホームランを打ったとしても、その1打席で打てなかったら意味がない。それぐらいの気持ちで今練習に励んでいます」

 秋は公式戦であれだけの数字を残した綿屋だが、チャンスで打てなかったことに向き合っていかなかったら、自分の成長はないと考えている。

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選抜では打率8割以上を目指したい

綿屋 樹(鹿児島実業高等学校)

 では勝負強さを身に付けるために、今、どんなことに取り組んでいるのか。

「実戦ができないので勝負強さを直接訓練することはできませんが、今、一番意識しているのは強い打球が打てるようになることです。そのために食事トレーニングも取り入れ、体重を増やしつつも体脂肪を減らす。そんなトレーニングをやっています」

 今はタイミングの取り方も変えながら、試行錯誤をしている。

「秋はなぜか理由はよく分からないけど、よく打てました。冬場で身体的な部分はいろいろと鍛え上げています。打撃に関しては、今タイミングの取り方を秋と変えていますが、まだしっかりと身についていなくて、秋よりも調子は悪いです。リラックスして、インパクトの瞬間だけに集中して力を入れるという基本線は秋と同じですが、タイミングの取り方を、一本足からすり足にして軸をぶらさないようにしているのですが、まだしっくりいってないです。センバツまで時間があまりないので、もっと危機感をもってものにしていきたいですね」

 最後に、今回の選抜をどんな大会にしたいのかを伺った。

「勝ち上がっていくことが、最終的に夏への自信につながればいいと思います。全国トップレベルのチームと試合をすれば、自分たちに何が足りないのか、見えてくるものもあると思います。そういったものを一つ一つ吸収して、最終的には夏を万全に迎えられるような自信をつける大会にしたいです。夏のための春にしたいです」

 打者としての目標は高い目標だったが、綿屋なら期待したくなる目標を掲げてくれた。
「誰もがびっくりするような数字を残して暴れます!目標は打率8割以上、最終的には10割打てる打者になりたいです」

 打率8割以上を残して大暴れする。目指すは打率10割。「自分はまだまだ」と謙虚な言動が目立つ綿屋が、この時だけ「大風呂敷」を広げた。掲げている目標が高いからこそ、秋に4本ホームランを打ったことや、6割を超える打率を残したことよりも、長崎海星戦で打てなかった1本に向き合ってトレーニングに励む。

 綿屋がどんな打撃をセンバツでみせるかは、神のみぞ知る。もしかすると期待外れで1本も打てないこともあるかもしれない。それでも綿屋は夏につながる何かを必ずつかんでグレードアップする。そんなスケールの大きさを感じさせてくれるスラッガーだ。

(取材・文/政 純一郎


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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