Interview

東北楽天ゴールデンイーグルス 藤田 一也選手「名手を支えるグラブのこだわり」

2016.01.15

「大学時代は道具を後輩が試合会場まで運んでくれていたのですが、ぼくはグラブだけは必ず自分で持って行ってました。道具の中でもグラブは特別な存在なんです」
テーブルの上に置かれたミズノ製のグラブに視線を送りながら、そう語った藤田 一也。ミズノのグラブとの付き合いは近畿大学時代からだ。
「それまではいろんなメーカーのグラブを使いましたが、やっぱりミズノさんのグラブが一番長く使えるんです」

 2013年から2年連続でゴールデングラブ賞を獲得し、2014年にはセカンドを140試合守りながら、わずか4失策、守備率.994を記録した名手のグラブ論。いったいどんな話が聞けるだろうか。

3年以上使えるグラブが欲しい

藤田 一也選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 試合用グラブの候補が手元に届けられたときにチェックするのは、はめたときに自分の手にフィットしているかどうかです。同じ型で作っていただいても、革の質や手を入れたときの感覚はやはり微妙に異なる。手に入れたときの感覚がもっともいいグラブを試合用に育てていきます。
ミズノさんには硬くて、長く持ちそうな革で作ってもらうよう、要望を出しています。ぼく自身は、できればひとつのグラブを3年以上使いたいという思いがあるのですが、最初に硬い革で作ってもらわないと3年使えるグラブって生まれないんです。

 ある程度、柔らかくしてもらった状態で新しいグラブをメーカーさんに届けてもらう選手は少なくないですが、ぼくは柔らかくする加工は一切施されていない、カチカチの状態で届けてもらい、半年から1年かけて試合で使えるようにならしていきます。

 ぼく自身は、ならし終わった段階においても、硬めのグラブが好きです。柔らかいグラブはどうも好きになれない。特にこだわるのは土手から親指にかけての部分の硬さ。ここがしっかりしていないとどうしても全体的にしっくりとこないグラブになってしまいます。

雨の日の翌日に生まれる硬さを求めて

 土手の部分のヒモは抜いた状態で作ってもらっていますが、何年か使ううちに土手の部分がへたって柔らかくなってくるんです。そのときにぼくは土手のヒモを入れてもらうようにしています。その作業を行うことで、へたって柔らかくなった土手が、使い始めて1年目の頃のようなしっかり感を取り戻してくれる。結果、長く使えることにつながっていきます。

 個人的に一番好きなのは、雨の中でグラブを使用した日の翌日に生まれる独特の硬さ。雨が降っていない日に使用した時は、その都度、水が入った霧吹きを使ってグラブをしめらせ、その後、陰干しすることで、自分好みの硬さを保つようにしています。
手入れの際にオイルを使用するのはグラブが色落ちしたり、かさついたりした時くらい。捕球面に塗ったりすることはまずないですし、基本的にはほとんど使いません。

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[page_break:好みは小さめのグラブ / クロスウェブにこだわる理由とは]

好みは小さめのグラブ

人差し指と中指の間にもヒモが通っている

 グラブの大きさは手の大きさに近いほど好きなので、普通のグラブよりも小さめのグラブをずっと使ってきました。でも近年は、年齢が上がった分をグラブの大きさで少しカバーしたいという気持ちが働き、以前に比べると5ミリほど大きくしました。それでも依然、小さい部類には入りますけどね。

 以前の大きさのグラブだと、人差し指と中指の間にボールが挟まることなど絶対になかったのですが、5ミリ大きくしてからは、速い打球を捕球した時などに、人差し指と中指の間にボールが挟まるケースが出てきたので、人差し指と中指の間にヒモを入れるようにしました。ヒモを通すことで、グラブ全体がしっかりする感覚も生まれたので、入れてよかったと思っています。

クロスウェブにこだわる理由とは

 ウェブは小学生の頃からクロスウェブと呼ばれる十字型のタイプが好きです。クロスウェブだとぼくが望むグラブの動きにウェブがきちんとついてきてくれる感覚が生まれるのが最大の理由です。ほかのウェブも試したことはあるのですが、自分の手の動きにスムーズについてくる感覚が芽生えなかった。見た目がかっこいいウェブもあるので、時には他のウェブを使いたい誘惑に駆られることもありますが、やはり思い通りに扱えるグラブでないと試合で使うわけにはいかない。セカンドでクロスウェブを使用している選手は少ないですが、ぼくにとってはこのウェブがグラブに関するこだわりのひとつです。

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[page_break:ポケットは3つ作るのが藤田流]

ポケットは3つ作るのが藤田流

藤田 一也選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 ぼくはグラブにポケットを3つ作ります。1番目は人差し指の付け根付近。フライやライナーはここで捕ります。2番目は中指と薬指の付け根付近。正面に回り込めるゴロはすべてここで捕ります。そして3番目が手のひらの部分です。2番目のポケットで捕ろうとするときにゴロのバウンドが変わって、手のひらや土手の付近にボールがきてしまい、はじいてしまうことがあるんです。でも危機回避用のポケットが手のひらにあると、そういった不規則なゴロへの対応力もアップする。自分の中では、3個目のポケットは安心感をもたらしてくれる、必要不可欠な存在です。

 ポケットの作り方ですか?ぼくはポケットを作りたい場所を、バットで最初に叩きます。そのあとはキャッチボールの際にこの3つのポケットすべてを使って捕球するように心がけると、いつのまにかきれいなポケットが3つ出来上がります。

「今、使っているグラブと同じ形のものを他社メーカーさんが作ってもってきてくれたこともあるのですが、見た目の形は似ていても、はめてみると自分の望むグラブとは異なるんですよね…。ぼくはもうミズノさんのグラブしか考えられないです」
左手にランバードマークがついたグラブをはめながらきっぱりとそう言い切った藤田。

 現在のグラブを使い始めて2016年で4年目。さすがに次期試合用グラブがスタンバイしていると思いきや、後継グラブはまだ完成していないのだという。
「今年の自主トレから作りはじめますが、4年目を迎える現在の試合用グラブがまだまだ使えそうなんですよね。グラブがへたったときに入れる土手のヒモもまだ入れていない状態ですし、今シーズンも引き続き使う可能性が高いです。こんなに長く使えるグラブって、そうはないですよ。ミズノさんのグラブだからこそ、です」

 愛着あるグラブとの別れは一日でも遅らせたい。藤田が「長く付き合えるグラブ」にこだわり続けている理由をあらためて実感できた気がした。

(取材・写真:服部 健太郎


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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