横浜DeNAベイスターズ 梶谷 隆幸選手「ベースランニングは正方形で回りたい」
今、セ・リーグで走攻守三拍子揃った外野手として注目されているのが梶谷 隆幸。2013年に16本塁打を放ち、ブレイクを果たすと、2014年には39盗塁を記録し、盗塁王を獲得した。2015年には28盗塁と、通算100盗塁まであと20と迫っている。アレックス・ラミレス新監督の下、走攻守三拍子の活躍が期待される梶谷選手の盗塁哲学、走塁のこだわりを伺った。
ここ数年で克服した打撃と高水準の盗塁
梶谷 隆幸選手(横浜DeNAベースターズ)
一軍に定着したのはプロ7年目の2013年。梶谷の開星高校時代を、遊撃守備を超高校級と断った上で、「課題はバッティング。力強くバットを振るためにはどうしたらいいのか、という葛藤が見えてこない。一軍定着までに時間がかかる遅咲きタイプかもしれない」と書いたことがある。その通りになったが、「非力なバッティングと超高校級の守備」という評価は逆転した。
非力だったバッティングはメジャーリーガーの映像を見て、「叩け」の呪縛から逃れた途端に爆発、後半の77試合だけで16本塁打を量産した。144試合に換算すればシーズン30本に相当する本数である。14年からはポジションを遊撃手から外野に代え、初タイトルとなる盗塁王を受賞、今やリーグを代表するバッターになった。
2013年 77試合、打率.346(安打 88)、本塁打16、打点44、盗塁 7、盗塁刺4
2014年 142試合、打率.263(安打138)、本塁打16、打点72、盗塁39、盗塁刺8
2015年 134試合、打率.275(安打143)、本塁打13、打点66、盗塁28、盗塁刺13
一軍に定着した3年間の中で特に注目したいのが盗塁の数。打率や本塁打数は、波は小さいもののシーズンごとの乱高下が見られるが、盗塁数は3年間安定して高いレベルを保持している。さらにその成功率が、13年から.636→.830→.683と一定の水準にとどまっている。「盗塁王になった昨年の成功率が.830と高く、パ・リーグ盗塁王・西川 遥輝(日本ハム)(2015年インタビュー)の.796と比べても高い」と振ると、「ただ、今年は成功率が低いので」と納得していない様子だ。
梶谷選手なりの盗塁哲学とは?
梶谷 隆幸選手(横浜DeNAベースターズ)
――盗塁で一番重視しているのは何ですか?
梶谷 一歩目というか反応ですね。映像を前もって見ておくというのと、あとは走る勇気かなと思うんですけど。
――巨人の新人、高木 勇人は初めての対戦になるんですが、その場合は?
梶谷 前もって映像を見ます。実際に対戦したら変わりますけど、情報があるのとないのとでは全然違うと思うので。
――走りやすいピッチャーと走りにくいピッチャーっていると思うんですけど、どんな特徴がありますか?
梶谷 単純にクイックが速いピッチャーは難しいですね。あとはやっぱり間がうまいというか、投げるタイミングをちょくちょく変えてくるピッチャーは走りづらいですね。クイックに入る前の動きで、ホームに投げるのかけん制してくるのか、わかる人はわかります。足を上げる前に、ああこれはバッターに投げるなという人は何人かいます。
――それは企業秘密になりますね。
梶谷 そうですね。それを言ったら直しちゃうので。
足が速くなるためのトレーニングは、特にしていないという。試合前に3~5本ぐらい全力で塁間を走るが、基本的に練習で走ることは嫌いだと言う。「疲れるだけじゃないかと。キレを出すために日課として試合前に3本から5本は塁間を全力で走りますが、足と肩って遺伝だと思うんです」と公言する。
好きな選手は2歳若い、シンシナティ・レッズのビリー・ハミルトン。2012年にマイナーリーグ132試合に出場し、155盗塁を成功させたという現役メジャー屈指の韋駄天だ。盗塁するときのリードの大小を尋ねたときに出てきた名前で、「打つ方は長打というタイプじゃないですけど、めちゃくちゃ足が速い人がいる。リードを全然取らないのに凄いのがいて、見ていてわくわくします」と話す。そう言う以上、自身のリードは大きくない。
「あまりリードは取りません。ベースに近づきたいとは思いますけどね。けん制が速くない左ピッチャーのときはいつもより大きく出るけど、他の走る人よりは少ないと思います。戻ることは考えたくないというか。リードを大きく取って帰塁に神経を配るというのと、少なめに取っても行くことだけ考えるというタイプがあって、僕的には1回逆をつかれても戻れるぐらいのリード幅がいいかなと」
ベースランニングについては次のように言う。
走塁のこだわりとストレス発散方法
梶谷 隆幸選手(横浜DeNAベースターズ)
――打者走者が一塁から二塁に行くときどうしても膨らんで走るんですけど。
梶谷 あまり膨らみたくないですね。できれば正方形で回っていきたいです。
――正方形だと一塁を回るとき、窮屈というかそういう感覚はあるんじゃないですか?
梶谷 あまりないです。ケガをしない程度になめらかに、というのは思ってます。
――個人的に、打者走者のスピードを一番感じるのが三塁打なんです。二塁ベースを蹴って三塁に行くときのスピード感がたまらないです。
梶谷 かっこいいと思いますね、三塁打って。
――二塁をオーバーランしてという人と、最初から止まっちゃう人といると思うんですけど、梶谷さんはどちらですか?
梶谷 セカンドを回る前に決めます。そこまでずっと加速していって、回る前にボールの処理を見て、ですね。外野手の肩はだいたい把握しているので。
俊足の選手がこだわるスパイクについては、刃を長くしたという。
「去年の6月、7月ぐらいからちょっと長くしました。走っているときの食いがいいというか、人工芝なり土なり、短いよりも食ってバーンと出る感じが。
(刺さった感じがある?と聞くと)そうですね。それでちょっと長くしました。
“世界の盗塁王”福本 豊(元阪急・オリックス)はカンガルーの皮を使用した軽量のスパイクでシーズン106盗塁、通算1065盗塁という前人未到の記録を打ち立てたが、梶谷は軽さへの欲求はまったくない。その辺りの感覚を「走ってる感がない、履いてる感がないので」と軽く流す。そして、ミズノ以外のスパイクも履いたことはあるが、やはり履き慣れたミズノに戻るという。
「刃を長めにして、土踏まずのところをタイトにしてもらって、あまり軽くしないようにという感じです」
コンディションの持っていき方については、オンとオフの切り替えに留意している様子がうかがえる。
「とりあえず前の日は関係なく新しい気持ちで球場に来ようと考えて、昨日は昨日だろうと言い聞かせる。悪かったときの意識はどうしても残るけど、昨日は昨日、今日は今日。極端に言えば、昨日エラーして3三振しようが、『昨日僕何かしましたっけ』ぐらいで。どうにかするという気持ちで修正しながら練習しますけど、メンタル的には、『何かしましたか』ぐらいの気持ちで、何か言われてもうるせえなと思って」
気分転換は、大勢の友達と食事をして話すこと。球団内の選手かと思うと、必ずしもそうではない。
「東京の自分の知人であったり、皆で食卓を囲んだり、どこかで飯を食って話すというのが僕の場合、すごくいいストレス発散法になる」と言う。
高校生とプロ野球の選手とでは方法はだいぶ違うと思うが、要はネガティブな気分を引きずらないということが重要である。
(インタビュー・文/小関 順二)