中京高等学校 今井 順之助選手 「世代ナンバーワンスラッガーを目指して」
高校通算45本塁打を誇り、来年の高校生打者ではトップクラスの実力を持つといわれる今井 順之助。岩倉(東京)との練習試合で見た今井は、実に堂々としていた。打席に立つまで胸を張って歩く姿は自信に満ち溢れており、ゆっくりと打席に入って構えるまでの間はまさに強打者そのもの。いかにして今井はここまでのスラッガーになったのか。今回は、今井が考えるバッティングのこだわり、また長打力の秘密を多角的に分析してみた。
打撃のモデルは前田 智徳
今井 順之助(中京高等学校)
今井は根っからの野球小僧。気付いたときから野球を始めていた。
「幼稚園の時からバットを振ったり、ボールを握ったり、そんなことをしていたと思います」
クラブチーム(13クラブ)に入って野球を始めたのは小学校2年生の時。その頃から自慢の長打力を発揮していた。
「少年野球の時はホームランが多くて、むしろシングルヒットが少なかったですね」
当時から有望なスラッガーとしての片鱗をのぞかせていた今井は、『良い形のスイングを覚える』という習慣が当時からあった。
「親がいつもビデオで自分の打撃を撮ってくれていて、ホームランを打った時のスイングを何度も見て、その後にイメージが残ったままスイングを行い、体に覚えさせることをしていました」
良いスイングをしっかりと覚えこませる作業を小学校の時から行っていた今井。それは元プロ野球選手である父・茂氏が監督を務める岐阜東濃シニアに進んでも変わらなかった。
当時の今井はミスターカープこと前田 智徳選手の打撃を参考にしていたという。NPB通算2119安打、295本塁打と偉大な実績を残した前田選手のどんなところに憧れたのだろうか。
「柔らかいことですね。当時の僕は柔らかい打撃に憧れた時期だったんです。なんといっても、ボールがバットに吸い付くように見えるバットコントロールが良いですね。そしてもう1つは軸足の使い方。前田さんは軸足の使い方が本当に上手いんです。あの動きを実現したいと中学の時から思っていました」
前田選手の打撃フォームは無駄がなく、コンパクトなスイングだ。そんな高度な打撃をする前田選手の打撃を参考に、今井は自身のバッティングを磨いていくと、中学球界でもスラッガーとして活躍。中京の主将・平 秀匡とは中学時代に対戦をしているが、その平に中学時代の今井の印象を聞くと、
「何でこの打者が中学にいるの?というぐらい、すさまじい選手でした」と絶賛していた。
そして今井は中京に進学すると、いきなり才能を発揮する。入学式後の練習試合で実戦デビューを果たすと、第1打席はライトフライだったが、第2打席はフェンスを高々と超える大ホームランを放った。このホームランに本人以上に歓喜したのが先輩たちだった。
「自分は、『あっ入った』という感じだったんですけど、周りのチームメイトや先輩たちがとても喜んでくださった記憶はあります」
この一打で練習試合にも出場するようになった今井は、夏にして4番の座を獲得。7月6日、瑞浪戦で「4番・一塁」でスタメン出場すると、4打数2安打2打点の活躍を見せる。その後、今井は準々決勝までの4試合に出場し、13打数6安打4打点、打率.461と高打率を記録。この時点で非凡な打撃センスを示していたと言えるが、1年夏を振り返ると、本人としては調子が良かったとは言い難いようだ。
「あの時は調子が悪くて、長打が出なくて、とにかく繋ぎの4番に徹していました」
繋ぎの4番に徹して、打率5割近くを記録するのだから、まさにスーパー1年生というべき活躍だった。
2年生になって公式戦で13本塁打!
今井 順之助(中京高等学校)
1年秋は、県大会初戦で県立岐阜商に敗れるものの、今井は今秋のドラフト会議で福岡ソフトバンクホークスから1位指名を受けた高橋 純平(2015年インタビュー)から本塁打を放った。
「高橋投手から打ったのはインコース寄りのストレート。しっかりと捉えることができました。しかし、その後の打席はしっかりと攻められてしまい、やっぱりすごい方だなと思いました」
オフシーズンに入ると、今井は「さらに遠くへ飛ばしたい」という欲求から本格的なウエイトトレーニングを始めた。そして、バットの長さも84センチから86センチのバットへ変更する。その効果は大きかった。打球がさらに遠くへ飛ぶようになり、肩も強くなった。こうして今井は野球選手として一段とパワーアップを遂げた。迎えた東濃地区予選の瑞浪戦で本塁打を放つと、さらに今井の長打力を開花させる出会いがあった。
それは今年4月、橋本 哲也監督が中京高校に就任したことである。元NTT西日本で監督を務めていた橋本監督も、今井の素質にほれ込んだ。
「長打力がありながら、状況に応じて逆方向に打ち返すことができる。そんな野球の頭の良さを持った選手です。素質としては社会人でも4番を打つことができるんじゃないですか」と絶賛する。
そんな今井の才能を引き出すため、就任直後の橋本監督は今井にこう声をかけたという。
「お前は消極的な打撃をしてはダメだ」
今井はその時をこう振り返る。
「考えすぎず、とにかくお前の思い通りにやれといわれました。そこから常にフルスイングすることを心掛けました」
ここから今井のフルスイングが始まった。空振り三振を恐れず、常に振り切るバッティングをみせる今井の長打力は徐々に磨きがかかっていく。橋本監督直後の春季県大会では2回戦の帝京可児戦、決勝の土岐商戦で本塁打を放つ。
夏に入ってもその勢いは止まらず、初戦の武義戦で本塁打を放つと、大垣西戦(試合レポート)まで3試合連続本塁打。準々決勝で敗れたが、4安打のうち3本が本塁打と驚異的な打撃を見せた。
今秋もまた、初戦の関戦から準決勝の市立岐阜商戦まで4試合連続本塁打を放ち、東海大会出場に貢献した。
東海大会後に行われた岐阜県私立高等学校親善野球大会では、準決勝の帝京大可児戦で本塁打を放つと、決勝の美濃加茂戦では2本の場外本塁打を叩き込んだ。打球方向はレフトへの場外と、センターへの場外本塁打。試合が行われた岐阜聖徳学園高校グラウンドは、センター124メートルもあるという広い球場。
「手応えがあったなと思ったらセンターの場外本塁打になって気持ちよかったですね」と振り返る。
なんと2年生になって公式戦本塁打が13本。岐阜県内では敵なしの実績を残している。そんな驚異的な打棒を発揮している今井の打撃を科学的に解析してみると、あることが分かった。
木製バットでも本塁打が打てるパワーと技術の高さ
今井 順之助(中京高等学校)
取材日にスイングトレーサー(※ミズノ社製のスイングアプリ)で今井のヘッドスピードを測ったところ、なんと、「156.5km/h」という驚くべき数字が出た(参考記録:高山 俊選手<明治大>※2015年10月4日計測)。実際に、今井は速いヘッドスピードで、インパクト時にややアッパースイング気味でボールを捉えられるプロ仕様の打撃ができる選手だが、今回の計測結果からみても、それがよくわかるデータとなった。
そんな今井は、さらなるレベルアップへ向けて、細かなこだわりを持っていた。この日は練習試合が行われていたが、ノーアーチ。今井は、「僅かな差なのですが、芯から外れていたと思います。僕の課題は1ミリ単位のところを突き詰めること。当たれば飛ぶということは分かっているので、そういう技術を付けていければ、もっと高い確率で長打が出ると思いますし、また肉体面を強化したりと、総合的に鍛えていきたいと思っています」と今後へ向けての課題を語った。
すでに高いレベルを見据えて木製バットでも練習をしているが、もうスタンドインできるレベルまでになっている。それもライト方向だけではなく、逆方向にもホームラン性の当たりが打てるようになった。今井は高校生としてはかなり高い次元に達している。
そんな今井の目標は、中京OBで今年35本塁打を放ち、福岡ソフトバンクの日本一に貢献した松田 宣浩(2014年インタビュー)の高校通算60本塁打を超えることだ。今井の今のペースを考えれば、手が届く位置にきている。
その目標を超えたときに見据えるのは、全国ナンバーワン強打者の称号。来年は4番打者として、2007年選抜以来の甲子園に導く打撃をみせるつもりだ。
(取材・文/河嶋 宗一)