Interview

白鷗大学 龍 幸之介選手【前編】「様々な思いを背負って臨んだ2度の甲子園」

2015.12.10

 毎年、強打者、巧打者を輩出する白鷗大。
来年、ドラフト候補として期待されるのが龍 幸之介選手だ。九州国際大附高時代は2年の時に連続で甲子園出場を果たし、白鷗大進学後には、1年春に4本塁打を放つなど、スラッガーとして活躍を見せた。
大学ラストシーズンでさらなる活躍が期待されている龍選手へ来シーズンへの意気込みを伺った。幼少期からのヒューマンストーリーをお送りしつつ、その意気込みを2回に分けてお届けする。

野球一家の下に生まれ、野球漬けの毎日を過ごす

弟の昇之介選手と歩く龍 幸之介選手(白鷗大学)

 兄の影響で幼稚園の時から野球を始めた龍。2歳下の弟には、現在同じ白鷗大でプレーする昇之介選手(久留米商出身)がいて、まさに龍一家は野球一家だった。
野球を始めた頃に入団した少年野球のチームは、父親が務める会社の知り合いがコーチを務めており、厳しく指導された。

「学校から家に帰ったら、毎日ティー打撃やキャッチボールをやったりしていました。左打ちになったのもその頃でしたね」

 左打ちになったのには当時、ソフトバンクの強打者として活躍した松中 信彦選手の影響が大きい。その頃、松中選手は2003年から3年連続で120打点を達成。福岡の野球少年からすれば、憧れの選手であり、龍もその中の1人だった。

 龍は体が大きく、小学6年の時に170センチもあり、同級生と比べると「顔2つ分」も大きかった。
毎日続けてきたティー打撃に加え体が一回り大きいこともあって、少年野球時代から本塁打を量産。そして小学6年生の時には福岡ソフトバンクホークス ジュニアチームの一員として第2回ジュニアトーナメントに出場する。

 中学卒業後は、九州国際大附高校に進んだ。数ある高校の中、九州国際大附を選んだのは、1学年上の高城 俊人(横浜DeNAベイスターズ)の存在があったからだ。
「髙城さんからは可愛がっていただきまして、来いよといわれたので自然と九国に入っていました」

 そして九州国際大附では1年春から練習試合で起用され、高校初本塁打を打ったのも入学後すぐの春。
「あの時は緊張でガチガチな状態から打ったので、よく覚えています」と振り返る。

 その後、1年夏にして5番ライトの座を獲得。プロ入りした榎本 葵(東北楽天ゴールデンイーグルス)の後を任されたのだから、相当期待されていたといえる。
本人は「レベルが違うので戸惑いはあった」と話すが、夏の福岡大会初戦の折尾愛真戦で3打数2安打3打点と上々のデビューを飾る。最初の夏は準々決勝敗退。12打数5安打(打率.416)とういう成績を残した。

 しかし夏の暑さと激しい練習で体重が落ちてしまい、打球が飛ばなくなっていた龍。この頃からウエイトトレーニングに着手し、少しずつパワーを付けていった。そしてではスラッガーとして活躍を見せ、九州大会では準優勝。そして選抜出場を決めるが、それまでの練習内容が独特だった。
トレーニングに加え、やってきたのは逆方向のロングティーのみ。選抜へ向けて実戦練習の割合を増やすチームが多い中、九州国際大附は実戦を想定した練習をほとんどやらなかったのだ。当然、選手たちは不安だった。

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[page_break:震災で苦しむ監督のために頑張ろうと意気込んだ2011年選抜]

震災で苦しむ監督のために頑張ろうと意気込んだ2011年選抜

龍 幸之介選手(白鷗大学)

「こんな練習で大丈夫なのか?」という気持ちが常にあった。選抜前の練習試合は全く力が出せず焦りが募った。
「相手はそんなに強いチームではなかったと記憶していますが、打席に立ってボールを見る習慣からかなり遠ざかっていましたので、全くボールが見えなかったですね」

 だがこういうチーム状況の中、しっかりとチームをまとめていたのが主将の髙城だった。

「髙城さんは統率力が本当に素晴らしい方で、試合ごとにいつもテーマを設定して、こういう試合をしようと声をかける方でした。あの年は東日本大震災の直後に起きた大会。監督さんは東北出身で、仙台の家も大変だと聞いたので、僕たちは監督さんのためにこの大会を頑張ろうと、チームで決めました」

 龍が話すようにこの年は東日本大震災があり、選抜開催も危ぶまれたほどだ。若生監督のためにも勝ちたいという思いが選手を結束させた。

 そして選抜大会では、不安要素に挙げていた実戦経験不足が嘘だったかのように打ちまくる。初戦の相手は初出場の前橋育英(群馬)。髙城の2ランで先制すると、その後も点を追加し、5回裏には3本のホームランが飛び出す。その3本目を打ったのが龍だった。

「最初は緊張していたんですが、5回に安藤 彰斗さん(東農大北海道オホーツク)が本塁打を打って、安藤さんも打つんだと驚いてしまって、そしたら3番三好 匠さん(東北楽天ゴールデンイーグルス)も本塁打を打って、これは行けるじゃないかと思ったんですよね。良い時は、ボールがはっきりと見える時があるのですが、あの打席がまさにそれで、本当にボールが見えていて、『これフルスイングをしたら、本塁打かな』と心の中で思って、フルスイングしたら本当に本塁打が打てました」
と甲子園初本塁打の瞬間をそう振り返った。

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[page_break:夏は福岡県内ならば負けないという意地で勝ち上がった」]

夏は福岡県内ならば負けないという意地で勝ち上がった

九州国際大付時代の龍 幸之介選手(白鷗大学)

 それから九州国際大附はとんとん拍子で勝ち上がり、準決勝では2010年の明治神宮野球大会優勝を果たした日大三と対戦。
大会屈指の本格派右腕・吉永 健太朗相手に猛打が爆発。何と9得点を奪い、龍自身も、5打数2安打3打点、2本の二塁打と大活躍を見せた。
九国ナインも厳しいとみていた試合だったが、自分たちも驚きの戦いぶりだった。

 初めての甲子園を振り返って、龍は「初めてグラウンドに立った時は、足が震えました。アウト1つでどよめくんですよ。ライトを守っていて、その後ろに人がいるということが初めての経験ですし、震災の影響でブラスバンドは自粛していたとはいえ、やっぱり独特の雰囲気がありました。初本塁打で慣れましたね」

 何かも初めての経験。甲子園で貴重な経験を掴んだ龍は2年春にして選抜準優勝を経験した。

 しかし春季九州大会では初戦敗退。チーム状態もガタガタなところがあった。当時の九州国際大附の選手たちは危機感が強く、主将の髙城を中心に話し合い、もう1回基礎から全部やり直そう、と気合を入れ直し、夏へ向けて準備を始めた。

龍 幸之介選手(白鷗大学)

 そして突入した2年夏は苦しい戦いの連続だった。とくに準々決勝の福岡福岡工戦では、初回に2点を先制したが、3回裏に同点に追いつかれ、その後は0行進という試合だった。8回表に2点を勝ち越し、そしてその裏に追いつかれ、4対4のまま9回に突入。その表に5点を勝ち越し、なんとか勝利する。龍自身はこの試合で本塁打を打ったが、苦しいという印象しか残らなかった。

 その中でも勝ち上がったのは、『俺たちは福岡県内ならば絶対に負けない』という意地があったからだ。そして準決勝決勝と勝ち上がり、見事優勝。二度目の甲子園出場を決め、連続で甲子園出場を果たした。

 ラストシーズンはさらなる活躍が期待されたが、ここから龍を含め、九国ナインは苦しい日々を送ることになる。

 二季連続甲子園を経験した龍選手。後編ではその後をお届け。
最上級生になり、プレッシャーなどで苦しいシーズンを送る中、龍選手はどう過ごしていったのか。
そして高校卒業後白鷗大に進学して、新たに学んできたこと、現在の龍選手を追いつつ、ラストシーズンへ向けての意気込みを語ってもらったので、お楽しみに。

(取材・文/河嶋 宗一


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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