Interview

福岡ソフトバンクホークス 千賀 滉大投手 「二度の大変身を経て得た剛速球」

2015.12.07

「2015SMBC日興証券 クライマックスシリーズ パ」ではレギュラーシーズン3位から勝ち上がった千葉ロッテマリーンズを3連勝で(アドバンテージ1勝)で下すと、続く「SMBC日本シリーズ2015」でも東京ヤクルトスワローズを4勝1敗で下し、2年連続の日本一を達成した福岡ソフトバンクホークス。
その過程で最も輝いた右腕が千賀 滉大投手である。

 2010年、育成ドラフト4位指名から這い上がり、2012年に支配下登録。現在は最速156キロまで成長した千賀。その秘訣はどこにあるのか?
今回は来季3連覇の鍵を握る豪腕が語った蒲郡高(愛知)時代から、これまでに遂げた2度の「大変身」ヒストリーと、3度目の大変身への青写真を追っていきたい。

蒲郡高時代から始まった「大変身」

高校時代(蒲郡)の千賀 滉大投手

 プロで10キロ以上もスピードアップし、大変身を遂げた千賀だが、そのルーツは愛知県立蒲郡(がまごおり)高時代にある。
蒲郡市立中部中時代には、投手を志すも成長痛の影響でプレーがほとんど出来なかった千賀だが、中学の3年間を経て身長は大きく伸び、中学入学時に150センチ前半だった身長は、高校入学時には176センチとなる。

 そして高校入学後、成長痛が癒えたことを確認するように千賀は再び投げ始めた。
「当時の監督が見ていて、何を評価してくれたかはわからないですけど『じゃあ投手始めてみろ』と言われたんです」

 最速120キロ・体重60キロ弱。これが千賀投手のスタートライン。
だからこそ彼は課題を克服するための努力を絶やさなかった。
「とにかく身体は太くしなければならないと思いましたね。高校の時から体が変わらないとパフォーマンスも変わらないと思っていましたから。量は具体的には覚えていないのですが、とにかく食べました」

 そんな千賀が食べることと同じくらい取り組んでいたのが走ること。長距離、中間走、ポール間ダッシュを来る日も来る日も繰り返した。約1年半後、サイズは183センチ76キロへ。球速も約20キロ速くなり、最速144キロを計測するまでとなった。最後の夏は3回戦で岡崎商に敗れたが、高い将来性を評価され福岡ソフトバンクホークスに育成4位で指名された。かくして千賀 滉大、第1の「大変身」は夢のプロ入りをもたらした。

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[page_break:プロ入り直後の危機感が基礎トレーニングの道へ / 2年目の悔しさを糧に2度目の大変身]

プロ入り直後の危機感が基礎トレーニングの道へ

千賀 滉大投手(福岡ソフトバンクホークス)

 2011年、プロ入りは果たしたものの、立場は育成選手。
同期の選手の体格や筋力値の数字を見て、千賀は危機感を強くした。ここで彼は「基礎トレーニング」の重要性に気付いたという。
倉野 信次・二軍投手コーチ(チーフ・2016年から一軍投手総合巡回コーチ)とともに腹筋、背筋をメインに鍛える体幹トレーニングや、ウエイトトレーニングに重点的に取り組み、さらに体重を増やすためにさらに食べるようになった。

「とにかく僕は細かったんです。これはやらないと生き残れないと思いまして。当時は体幹メニューとウエイトトレーニングが大きかったですね。腹筋は1日1000回。普通にやる腹筋です。誰でもやれますよ。1000回といいますが、40分続けてやればできます。ホークスの投手陣はメニューとしてやります」

 効果はすぐに表れた。四国アイランドリーグplusとの交流戦などで結果を出し、6月半ばで球速は152キロを計測し、体重も80キロ近くまで増量。さらに一年目が終わるとオフの自主トレで、骨盤を中心としたコーディネートに定評のある鴻江 寿治氏に体の使い方を学ぶ。

「僕は人よりも弱いと自覚しているので、負荷がなく、体を効率よく使える投げ方というのを常に追求し続けていますし、それを実現するためにいろいろな方の意見を参考にしたりしています」

 こうして「自分にとってしっくりくる投げ方を試行錯誤しながら追求をしていく。そういう積み重ねがあったからこそ自分にとってベストな投げ方というのを掴んでいった」という千賀。その1つの方法として鴻江氏のトレーニング方法を採り入れ、技術的向上を着実に積んでいった。その一方でもう1つ、千賀は急激な向上によって生じる身体の負荷へも目を向けていた。

「僕は自分の体以上に速いボールを投げている実感はあります。ただ、それは故障のリスクも高まることなので肩周りの筋肉を鍛えたり、故障を防ぐためのトレーニングをとても大事にしています」

 5シーズン目を終えた現在のサイズは186センチ86キロ。それでも大きな故障をが生じていないのは、予防意識が高いからだ。
こうして2年目以降、千賀は2度目の大変身を遂げながら必然のブレイクを果たしていく。

2年目の悔しさを糧に2度目の大変身

 2年目では二軍戦で4試合に登板し、1勝1敗、防御率1.50と好成績を収め、2012年4月23日に支配下選手に登録される。
そして4月30日の千葉ロッテマリーンズ戦([stadium]QVCマリンフィールド[/stadium])でいきなりプロ初登板初先発を果たした。しかしこの試合、3回までは最速149キロを計測するなど順調に進むも4回3分の2を3失点で降板。

 5月11日に再び同場所で同じ相手にリベンジを期して先発するも、2回一死も取れずに4失点で降板。悔しさだけが残った。当時を千賀自身はこう振り返る。
「変化球の種類が足りないと思いました。当時はスライダーしかなかったですし。フォークもフォークと呼べるものではなかった。ですので、フォークを使えるものにしていきました」

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[page_break:3度目の大変身で目指す「球界を代表する豪腕投手」]

千賀 滉大投手(福岡ソフトバンクホークス)

 一軍で実感した足りないものを補い、次の機会には必ず勝利に貢献するために。
二軍に戻った千賀は早速フォークを習得。二軍で21試合に登板し7勝3敗、防御率1.33と好成績を残し、来季へ活躍するための貴重な経験を積む。

 そしてフォークを決め球に使えるまでになった千賀は3年目の2013年、セットアッパーの1人として51試合登板を果たし、オールスターにも出場。昨年も19試合に登板し防御率1.99をマークしながらも終盤は右肩の疲労で戦線離脱してしまった。
2015年はまず右肩を癒し、2軍で先発ローテーション入りを果たし登板経験を積み虎視眈々と「その時」を待った。

 今季初登板は8月18日のオリックス・バファローズ戦で先発。7回無失点の好投で先発として初勝利を挙げると、9月20日の千葉ロッテ戦では8回無失点の好投で2勝目。4試合登板ながら防御率は0.40。圧巻の活躍だ。

 そして千葉ロッテマリーンズとのクライマックスシリーズではリリーフとして2試合に登板し、無失点の快投。東京ヤクルトスワローズとの日本シリーズでも2試合で2回3分の1を投げて1失点。最終盤からポストシーズンの[stadium]ヤフオクドーム[/stadium]に安心感をもたらしたのは「せんが・こうだい」だった。

3度目の大変身で目指す「球界を代表する豪腕投手」

 来季2016年は先発ローテーション入りをして、1年間活躍することを目指している千賀投手。
MLBから5シーズンぶり復帰を果たす和田 毅投手2011年インタビューなど12球団の中でも屈指の先発投手陣を誇る福岡ソフトバンクホークスであえて高い壁に挑む理由とは?
そこにはやはり入団時に感じた危機感を抱きながら猛練習に取り組む姿勢。そしてチームメイトから得た刺激があった。

「(2011年に)入団をして、自分が他の人に比べて細くて、筋トレをやっていてもすぐに疲れるのを感じて、このままではまずい、生き残れない!とすぐに感じましたから。そしてホークスの投手陣の方々は本当に意識の高い方ばかりですし、トレーニングに取り組む姿勢もしっかりしています。僕も取り組みを参考にさせてもらっていますし、そういう中でいつもレベルアップを目指してやっています」

 もう一度記そう。蒲郡高校1年の千賀投手は、球速は120キロ台。全国的に見れば、平均的、いや平均以下の投手だった。
それでも生まれ変わろうと思えば、人間は変われる。

 最後にそんな千賀投手へ、冬のトレーニングを迎える高校球児へメッセージを頂いた。

「本当にこの一冬で能力を高めたい!その一心だと思います。高校生は一冬で変わると言いますが、伸び幅を変えるのは自分自身だと思います。冬の練習はソコソコの練習では変わらないと思うので、周りに、『春に大きく変わった自分を見ていろよ』という気持ちを秘めながら取り組むことも大切です。これは自分自身の戒めでもあるんですけどね」

 高校球児への言葉を、最後は自分に向けての言葉としてインタビューを締めくくった千賀投手。これからも自分を理解し、自分に厳しい気持ちを持ち続け、取り組みを継続すること。そして、その先には三度目の大変身を遂げ、高校球児に勇気を与える、球界を代表する豪腕投手への道が待っているはずだ。

(取材・文/河嶋 宗一


注目記事
・【12月特集】冬のトレーニングで生まれ変わる

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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