Interview

JR東日本 田嶋 大樹投手「『自分の道』を正しいものとするために」

2015.11.05

 佐野日大高卒1年目で最速150キロ。名門・JR東日本の主戦格となり侍ジャパン社会人代表にも選出され「2017年・ドラフト上位候補左腕」の声まで上がる田嶋 大樹投手。そんな田嶋投手に、社会人入りの裏側や今年取り組んでいることについて話を伺った。

「高卒プロ入り」は頭になかった佐野日大時代

田嶋 大樹(JR東日本)

「周囲に騒がれても自分が選んだ道を突き進む」。田嶋 大樹を一言で表現すればこうであろうか。口ぶり、行動ぶりから見ても先輩選手から「マイペース」と評される男。佐野日大高時代から、そんな彼の主義は大舞台での強心臓につながってきた。

 2014年センバツもそうだった。前年秋の栃木県大会で5試合連続無失点、続く関東大会でも強打の東海大甲府試合レポート)・横浜試合レポート)を連覇したことで「大会注目度ナンバーワン左腕」と騒がれた田嶋。その期待通り、田嶋はセンバツ初戦鎮西戦から本来の投球を見せ付ける。

 甲子園デビューで最速145キロを計測し12奪三振無四球完封勝利すると、2回戦でも岡本 和真(巨人2014年インタビュー)からも2奪三振を奪い強力打線・智辯学園相手に延長10回4失点でベスト8進出。そして明徳義塾戦(試合レポート)では3度目の甲子園となった岸 潤一郎拓殖大2013年インタビュー)相手に延長11回5失点完投勝利でベスト4。準決勝では優勝した龍谷大平安に1対8で敗れ決勝進出とはならなかったが、560球の好投で、プロのスカウトから大きく評価を高めた。

 が、それでも田嶋は「プロ入りについて全く考えたことはなかったですね。プロ野球を見ることもほとんどなかったので」
最後の夏、栃木大会決勝戦で左わき腹を痛め、途中降板。そしてチームも敗れ甲子園出場を逃しても基本線は変わらなかった。

 ただ、周囲からプロ入りを勧める声もあった。自分の判断と周囲の評価とのギャップ。それでも田嶋は冷静に考え直した。最終的に彼の判断を決めた根拠は3年後、その先の自らの姿である。
「高校の時の実力のまま行っても、プロでは早く終わってしまうんじゃないかという不安がありました。それならばプロへ近い社会人野球でプレーすることが一番だと考えていました」

 目的は3年間をかけ、即戦力でプロ入りできる実力を付けること。かくして高校No.1左腕は社会人の名門・JR東日本への入社を決意することになる。

「未熟さ」を気付かされた社会人野球1年目

 かくして社会人野球の扉を叩いた田嶋。入社当初から調子が良ければ、抑える自信はあった。2月28日の横浜DeNAベイスターズ(ファーム)との交流戦における社会人デビュー戦はひときわ鮮烈だった。ストレート一本で2回5奪三振。この投球にはスタンドからもどよめきが起こり、相手打者からも「何であの投手、プロへきていないの?」という声も上がったぐらいだ。

 しかし一方で調子が悪い時はとことん打たれる。「調子が悪いとストレートも走らない、コントロールも乱れる、変化球も全く切れない。社会人野球の打者のレベルは本当にレベルが高いですし、そこは見逃してくれません。そういう未熟さを直していかないといけなので、自分が選んだ道は間違っていなかったと思います。今は調子が悪い時でも、試合をしっかりと作れる投手になることが課題です」とテーマを設定しながら投げ続けた田嶋だが、それが最も大事な試合で最も悪い方に現れる。

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[page_break:「侍ジャパン」で学んだストレート勝負のマインド]

 6月5日、都市対抗二次予選の明治安田生命戦。先発した田嶋は立ち上がりから四球、安打などで走者を溜め一気に5失点。2アウトを打ち取っただけで、降板。その後、チームは都市対抗出場を決めたものの、以後は本大会含め田嶋の登板はなかった。

 社会人野球の洗礼を味わった田嶋に都市対抗後、思わぬ吉報が届く。9月に開催される第27回BFAアジア選手権の候補選手に選ばれ、侍ジャパン社会人代表選考合宿に参加することになったのだ。

「侍ジャパン」で学んだストレート勝負のマインド

田嶋 大樹(JR東日本)

「何で自分が?と思いましたね。都市対抗でも投げていないのに」と不思議がっていた田嶋。が、安藤 強・侍ジャパン社会人代表監督は左腕の将来性を当初から買っていた。
「19歳であれほど素晴らしいストレートを投げる投手ですから」
今はまだまだでも、将来的に凄い投手になる予感がある。そういう意味で田嶋を呼んだ。

 そして選考合宿に入ると安藤監督は田嶋にこうアドバイスを送る。「お前はストレートが素晴らしいんだから、それに自信を持っていけ!」
選考合宿中の強化試合で登板した田嶋はピンチを迎えた時、その言葉を胸にストレートで抑え込んだ。ベンチに戻ると「それでいいんだ」と安藤監督の声。そこで田嶋は気付く。「やっぱり自分はストレートに自信を持って投げるようにしないといけないんだ」。まもなく発表された侍ジャパンメンバー・その中には「田嶋 大樹・JR東日本」の名があった。

 晴れて、鹿沼ボーイズ時代に淺間 大基(新宿リトルシニア~横浜~北海道日本ハムファイターズ2014年インタビュー)や、立田 将太(葛城ボーイズ~大和広陵~北海道日本ハムファイターズ)らと経験した2011年・第15回AA(16U)世界選手権以来となる代表ユニフォームを身にまとった田嶋は、自慢のストレートで活躍する。

 大会前のHondaと強化試合でリリーフとして登板。最速148キロのストレートを軸に3回5奪三振の快投を披露。「今日のストレートは100点満点でした。本戦でも勢いある投球を見せていきたいと思います」と自画自賛の内容で逆転勝利に貢献。これには安藤監督も、「今日一番の収穫は田嶋の投球ですね。本当に素晴らしい投球でした」と絶賛を惜しまなかった。

 迎えたBFAアジア選手権。パキスタン戦で先発した田嶋は5回7奪三振、無安打。が、自身はこの快投よりも、大会最終日のチャイニーズ・タイペイ戦の方が脳裏に焼きついている。

 5回裏、無死満塁の場面で登場した田嶋は最初の打者を空振り三振に打ち取ったが、次の打者を押し出し四球で降板。この登板直後、JR東日本の先輩である片山 純一からこう声をかけられた。「国際大会は積極的にストライクを取って追い込んで投げろ。ヒットを打たれても、気にするな」

「自分はヒットを打たれると焦ることが多いので、そこは気にしないでバッター勝負でいかないと、と気づきました」
この期間中、田嶋は片山だけではなく、多くの代表投手に質問をして、投球について様々なことを学んだ。侍ジャパン社会人代表はこの大会、6連覇を逃し3位に終わったものの、田嶋にとっては大きくステップアップできた大会であった。

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[page_break:自分の道を「正解」とするために]

自分の道を「正解」とするために


田嶋 大樹(JR東日本)

 

 JR東日本に帰ると、田嶋は侍ジャパンでの経験を糧に入社から取り組んできたことをさらに進化させていく。
まずはフォームの矯正。田嶋は肩甲骨が柔らかくテイクバックが大きい。そこからスリークォーター気味で腕を振っていくと、肩の前方が痛くなることがあった。そこで彼はコーチ陣の指摘を受け、テイクバックの動きを小さくし、そしてオーバースロー気味に腕を振るようになった。「肩の前方が痛くなることは少なくなりました」

 相手打者の感じ方も変わった。
「今までテイクバックが大きいフォームだったので、腕が遅れて出てくるよう感じるので、打ち難いと感じていたようなのですが、今は腕が遅れて出てこなくてもテイクバックが小さくなった分、ボールを持っている腕がなかなか見えないので、打ち難いと言われるようになりました」

故障の負担のリスクが減っただけではなく、違う感じ方で打ち難さを生み出せるようになったのだ。

 また、他にも変わった所がある。
自身が持つウェアとグラブに関しても年齢と野球のレベルが上がると共にこだわりを持つようになった。
まずウェアについてはカッコよさも意識するようになった。その上で機能性とデザイン性が優れているものを選ぶように変わったという。
田嶋選手の口調からは高校球児を含む色々な人から見られる立場である事を自覚しての結果だと感じた。

 高校生の時はあまりファッションにこだわりがなかった田嶋だが、「デサントはかっこいいっす!」と取材時に着ていたウェアを自慢げに見せてくれた。
またグラブも使いやすさにこだわり、非常に軽量感のあるグラブを使用し、今のパフォーマンスアップを支えている。
「出来れば皆と同じものを使いたく無い、自分だけのスタイルをカッコよく作って行きたいので。」
と話してくれた。

 さらに体調管理も気を配るようになった。自分の調子が良い時は体が軽い時。登板前にいかに疲労を抜いた状態で登板ができるか。最近では10月8日の第5回関東選手権大会・富士重工業戦で、10奪三振、1失点完投勝利を挙げたのも、この日に合わせて体調を合わせたことが背景にある。

 もちろんそこにはBFAアジア選手権で田嶋に声をかけた片山をはじめとする先輩投手たちのバックアップがある。関谷 亮太(千葉ロッテマリーンズ2巡目指名2014年インタビュー)、東條 大樹(千葉ロッテマリーンズ4巡目指名2015年インタビュー)などにアドバイスを求める田嶋に、片山が作り上げた雰囲気を受け継ぎ、的確なアドバイスを送るプロ候補生たち。現在、JR東日本は2011年~2015年まで5年連続で投手がドラフト指名を受けている理由もうなずける。

 だからこそ、目標は定まっている。2年後は文句なくプロ入りができる実力を持った投手へ。そして侍ジャパンのユニフォームを背負うこと。そのために「勝てる投手になることです。課題はまだまだたくさんありますが、しっかりとやっていきたいです」と田嶋は決意を新たにする。

 11月1日・社会人日本選手権・新日鐵住金広畑戦。JR東日本先発マウンドには初の社会人3大大会登板となった背番号「14TAJIMA」の背中があった。
5回3分の1を投げ、被安打4・四死球2・5奪三振・3失点。決して本来の出来ではなかった左腕をサポートすべく、東條 大樹片山 純一関谷 亮太の順で無失点リリーフを決めた先輩たち。8対3と3大大会初登板初勝利を果たした田嶋 大樹は、これでまた1つ階段を昇ったのであった。

 来年は東條 大樹関谷 亮太はもういない。今度は自分が真にJR東日本のエースとして「自分が選んだ道」が「正解」だったと言い切るため、田嶋 大樹は残り2年間で社会人野球を代表する大型左腕への道を突き進む。


注目記事
・11月特集 オフシーズンに取り組むランメニュー
・2015年秋季大会特設ページ

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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