Interview

関東第一高等学校 オコエ瑠偉選手【前編】 「規格外を開花させた きめ細かな感性」

2015.10.14

 今夏の甲子園、そして日本で開催されたU-18ワールドカップで最も魅せたプレーヤーといえば「オコエ 瑠偉」をもって他にないだろう。甲子園では2回戦高岡商戦で1イニング2三塁打、3回戦中京大中京戦では抜ければ走者一掃となる当たりを、背走しながらスーパーキャッチ。そして準々決勝興南戦では決勝2ラン。アメリカとのU-18ワールドカップ決勝戦でも右中間の浅い打球を前進し掴み取る美技。名前がアナウンスされた時の拍手は試合を追うごとに高まっていった。

 そんな規格外のパフォーマンスが持ち味のオコエだが、その裏には「きめ細やかな感性」が潜んでいることはあまり知られていない。前編ではそこにスポットを当てつつ、入学当時から甲子園出場までの彼の成長ストーリーを追っていく。

「意識を変えさせた」1年秋、仲間たちの活躍

オコエ 瑠偉選手(関東一)

 「オコエが中学時代に所属していた東村山シニアの監督さんから『練習時間が2時間を超えると集中力がなくなって、途中から投げ出す』という話は聞いていたのですが・・・。実際、関東一に入っても、集中力がなくなるとすべてにおいて力を抜く(笑)。自分が思ったことも、はっきりと言うので、1年の時は先輩に対して、我々を驚かせる行動や言動も結構ありましたね」

 常に彼の言動を注視し、現在までオコエ 瑠偉を育ててきた佐久間 和人コーチが、2年半前のオコエ少年を語り始める。当然、「入学当時から身体能力の高さを見て、プロに行ける可能性を持った選手。ですから、その可能性を高くするためにも我慢することや、目上の方を敬うことを教えるところから」指導していった佐久間コーチ。が、オコエはなかなか変わらなかった。佐久間コーチが「お前はプロにいける選手だ」と言っても、当時のオコエには響かなかった。

 「自分はプロに行けるような選手ではないと思っていましたし、そんな目標は持っていませんでした。今、振り返ると本当にダメだったと思います」

 そんなオコエが変わったのは、1年秋の秋季東京都大会である。三塁手・伊藤 雅人、左腕・阿部 武士といった同学年が中心選手として活躍し東京大会優勝。その姿を見て、元来の負けず嫌いのハートに火が付いた。そこからは集中力を持って練習。佐久間コーチや米澤 貴光監督の指導で打撃も飛躍的に向上した。寮での食事もたくさん食べるようになり、細かった体も少しずつ大きくなっていく。

 そんな冬を越えて迎えた2014年春。センバツではメンバー外に終わったが、春の東京大会には「1番・センター・オコエくん」のコールが球場に響き渡ることになる。


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「他の人ができない守備」を実現するため

関東第一高等学校 オコエ 瑠偉(2014年東京都春季大会4回戦 國學院久我山戦より)

 デビュー戦となった國學院久我山戦(試合レポート)でいきなり先頭打者本塁打。鮮烈なデビューを飾った打撃以上に魅せたのが守備である。これまでセンターだった50メートル走5秒9の俊足巧打・熊井 智啓(現:桜美林大1年)をライトに回し、センターのポジションで躍動するオコエ。その決断に至った理由を佐久間コーチはこう語る。

 「熊井は確かに足が速かったですし、高校生としてハイレベルな外野手です。しかしオコエは、トップスピードに乗ってからの加速といい、俊足を生かした守備範囲の広さが高校生のレベルを超えていました」

 ただ、それらの守備は決して身体能力が高いからこそ実現できたものではない。オコエは1年秋以来、「レギュラーを取るために」集中力を高めつつ「他の人ができない守備ができるようになるには、何をすればよいのか」を考えるようになる。

 そこで彼は1つの結論を導き出した。それは「打者、風の状況を読んだポジショニング」そして「すぐに落下地点を見極める打球勘を磨き上げる」こと。よって、練習もそれに添ったメニューに取り組んだ。

「左中間、右中間への打球は全て自分が捕ろうと思って、落下地点まですぐに追いつく練習を重ねていきました。またライト、レフトにポジションの位置を指示し、声かけや、打球を追っていく中でアイコンタクトや、指での指示などをして、他の外野手との連携も忘れないようにしたんです」

 かくしてナイジェリア人の父親から受け継いだ生まれ持った身体能力の高さは、きめ細かい外野手としての意識によってさらにハイレベルなものへと上昇。「走攻守三拍子揃った外野手」という評価を得るまでには、それほど時間を要さなかった。


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怪我をもプラスに変えた「打撃感性」

オコエ 瑠偉選手(関東一)

 2年夏の東東京大会では22打数12安打と打撃面でも開花したオコエ。だが、秋では徹底したインコース攻めを受け不調に陥ることに。チームもベスト4に終わりセンバツ出場を逃した。

「あの時は完全に自分のフォームを崩していましたね。自分が捉えて、満足いくヒットは1本もなかったです」。このままでは甲子園、そしてプロへの道はない。二度目の冬、オコエはより打撃に力を入れていく。

 ポイントは「インコースを打つ技術」。冬が明けた練習試合でも、右投手が投じたインコースを捉えて本塁打を放ち、少しずつ打撃の手応えを掴んでいったオコエだが、ここでアクシデントが襲った。左太もも裏の肉離れを起こしたのだ。練習試合でも1打席限定。しかし、もうここで集中力を失うオコエではなかった。「守れないし、走れなかったので、打撃面を追求する時間が増えました。そこで意識したのが軸足です」

 実は右打者のオコエは左脚を上げた時に右の軸足が倒れてしまい、スイングがやや泳ぎ気味になる欠点があった。そこでこの離脱期間を利用し、打つまでは軸足を我慢して、振ると同時に倒し、ボールを引き付けて打ち返す意識でスイングを重ねていった。その結果最後の夏となる東東京大会では25打数11安打、打率.440、1本塁打、6打点、6盗塁の活躍で優勝に貢献。自身初の甲子園出場を果たしたのも、この向上心があったおかげだ。決勝戦日大豊山戦ではセンター前の当たりから一気に二塁へ到達する快走がクローズアップされがちだが、1年秋に心を入れ替えてから感性を研ぎ澄ましたことが、彼を「スーパー高校生」に押し上げたのである。

 後編では記憶に新しい甲子園U-18W杯を振り返りつつ、プロ志望届を出した今、そしてその先への意気込みを追っていきます。お楽しみに!

(取材・文/河嶋 宗一

オコエ選手のこれまでの歩みを伺った2015年春のインタビューは以下から!
【前編】「大ブレイクの背景」
【後編】「苦悩を乗り越え、ラストサマーは大爆発!」


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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